3
連れて来られたのは、道具屋の二階の部屋だった。
どうやらカインはこの街に来て、道具屋の主人と仲良くなり勇者の仲間だったと説明すると、パレードが良く見える部屋を案内されたらしい。
部屋に入ると、メルダは降ろされる。
「ど、どうしてここに・・・」
「どうせ叶わないなら、しっかり勇者を見てそしてお前の気持ちを叫べ。そうしたら少しはお前もスッキリするんじゃないか?」
「な・・・なんでそんなこと・・・。恥ずかしいわ・・・」
「こんなに外はうるさいんだ。お前が少し叫んだところでどうにもならないさ。それでも、言わないよりは言った方がいいと思うぞ?」
カインは部屋の窓を開ける。開けたと同時に物凄い人々の歓声が部屋に響き渡る。
「パレード、始まったな。ほら、先頭の馬に乗った騎士隊が見えるだろう?」
人々の歓声と舞う紙吹雪。列を成して馬や騎士達が歩いてゆく。
その列の真ん中には一際目立つ白い馬。その馬に勇者グランが乗り人々に手を振っていた。
「来たな、勇者。ははっ、柄にもなくいい笑顔だな」
「グラン・・・」
5年ぶりに見るグランの姿は、長い間の旅や戦いで色々あったのだろう。メルダには全くの別人のように見えた。
とても勇敢で威厳のある勇者。
小さい頃に一緒に遊んでいたグランは、そこにはもういなかった。
「ほら、そろそろ目の前を通るぞ。準備はいいか?」
カインが促す。
「ほ、本当に言わなきゃダメ?」
「言わないで後悔するよりはいいだろ。ほら」
と、背中をどんっと叩かれる。
叩かれた勢いで、メルダは叫ぶ。
「ぐ、グランーーーー!お疲れ様ーーーー!私、グランの事好きだったよ!!!王女様と幸せになってねーーーー!!!」
メルダのここ一番の大きな声。
周りは相変わらずの歓声で、聞こえていないと思われた。
が、グランは二階で見ているメルダ達の方に顔を上げ、そして一番の笑顔と大きく手を振ってくれた。
そして、なにかに気付き一瞬眉をしかめるとまた人々に顔を向けて通り過ぎていった。
「き・・・聞こえてたのかな?」
「聞こえてた聞こえてた。俺達の事気付いてくれたじゃないか。お疲れ様」
そう言って今度は肩を叩かれる。
「背中といい、肩といい・・・。ちょっと痛いんですけど」
「ああ、悪い悪い。ちょっと力の加減がきかなくてな」
「だけど最後のグランのあの顔・・・・」
「はははっ、あれは俺に対してかな?いやいや、勇者らしいぜ」
「どういうこと?」
メルダの問いかけにカインは笑顔で返し、何も言う事はなかった。
"どうして、お前がメルダと一緒にいるんだ?"
って事だろうなあ。勇者は、昔からすぐ顔に出るからな。
くくっと一人で笑うカインをメルダは不思議そうに見ていた。
パレードが終わり、人がだんだんと少なくなっていく。
「はあ、終わったね。なんだかんだで、カイン様の言うとおりちょっとスッキリしたよ。ありがとう」
「そうか。良かったな」
「ちゃんと立ち直るまでにはもう少し時間はかかるかもしれないけどね」
そう。きっと私は前を向いて歩いていける。
グランの幸せも願っていける。
もう、大丈夫よ。
「ところで、カイン様はこの後どうするの?」
「そうだな。とりあえず・・・」
そう言うと、カインはメルダを横目で見る。
「お前の宿屋に住み込みで働かせてくれないか?」
「え!?」
「俺体力もあるし、この顔で客寄せ出来ると思うんだがな」
な、何を言ってるのこの人!?
家で働く!?グランと共に戦ってきた仲間が!?
「そ、それは家の父と母に聞いてみないと・・・。ってうちみたいな宿で働いていいの?魔王を倒した仲間がこんな宿の仕事なんて」
「魔王を倒したからこそ、俺にはもう目的も目標もないんだ。俺を迎えてくれる故郷もないしな。・・・だからこそだよ」
カインは切なさを含んだ笑顔を見せる。その笑顔に胸が張り裂けそうになる。
「わかったわ・・・。お願いしてみる」
「ありがとう、メルダ。あ、そうだ」
「なに?」
「俺、宿屋の店主を継いでもいいからな?」
「!!!!!」
いきなりの言葉に驚き、そして困惑する。
「そ、それはどういう・・・」
「まあ、そういうことさ。・・・・さあ、早く宿へ戻ろう」
外はオレンジ色に染まり、赤くなったメルダの頬を更に染めてゆく。
メルダの恋物語はエンディングをむかえてしまったけれど。
その先の物語はまだ始まったばかり――――