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クロノクラウン  作者: 冬原パトラ
第1章 ゴレムと王冠。
7/22

☆007 殺人犯、逮捕。





 食事を終えて外へ出ると、すっかり夜中になっていた。歓楽街から離れ、人通りの少ないところへと二人は足を踏み入れる。

 目付きの悪いゴロツキどもが二人に物珍しそうな視線を向けるが、ゴレムが付き従っているのを見て、舌打ちをしながら視線を外す。

 ちょっとからかうにはかなりのリスクをともなうことを理解したようだ。ゴレムと素手で喧嘩するほど、ここらのチンピラも馬鹿ではないということだろう。


「見つからないわねー」

「だから〜。そんな簡単に見つかるわけないですってば」


 だいたい辻斬りがいたとして、見ただけでそれとわかるのか。「ゴレムを連れた怪しい奴」というだけで、ノルンがその者に襲いかからないか、そっちの方がコレットは心配だった。


「うーん、あんたが襲われれば話が早いのに」

「さらっと物騒なこと言わないでくれるかな」


 囮にする気だったのか。なんでこの子はそういうことを躊躇なく考えるのだろう。親の教育がなってない。

 そんなことを考えていたコレットの前を歩くノルンがつまらなそうに頭の後ろで手を組んで、口を尖らせる。


「ちぇー。あっちから襲って来れば楽なのにな」

「楽どころか大変なことになりますよ……」


 辻斬りが一人という保証もないのだ。ひょっとしたら複数犯かもしれない。囲まれて襲われたらどうするつもりなんだろうか。

 コレットはなんでこんなことになったんだろうとため息をついた。今日は朝からツイていなかった。靴紐は切れるし、黒猫は目の前をよぎるし、何もないところで躓くし、極めつけに凶暴なおかしい幼女に出くわすし……。


御主人マスター

「どしたのノワール?」


 先頭を歩いていたノワールが立ち止まり、右手の暗がりに伸びる道の方へと首を向ける。コレットたちも足を止め、そちらの方へと顔を向けるが、暗くて何も見えない。

 ハヤテを見上げるが、ハヤテも静かに首を縦に振った。ハヤテは索敵に優れたゴレムだ。何かセンサーに引っかかるものがあるらしい。


『二十メートル先、曲がる、裏通り』

「裏通り? 何かあんの?」


 ひょいと、暗がりの中を覗き込むノルン。


「うわ、暗いなー」

「ここいらはまだ街灯が無いんですよ」


 建物と建物の間に伸びる細長い道には街灯の類は全くなく、窓からの明かりもチラホラとあるだけで、視界が悪い事この上なかった。

 一寸先は闇、とまではいかないが、ぼんやりと「何かある」としか把握できない。タイミング悪く、月も雲で隠れてしまっていて、足元さえも見えにくく、歩き辛い。

 と、がんっ、とノルンが何かに足をぶつけた。


「なんだ、コレ?」


 どうやら金属の塊のようだ。闇の中で触ってみると、大きさはノルンの腰上くらい、形状は円筒形のように感じられた。

 ひゅううっ、と冷たい風が吹いた。上空で陣取っていた邪魔な雲が流されていき、月光がノルンたちに降り注ぐ。

 目の前に浮かび上がったのは大きな腕。肘から千切れた右腕だった。もちろん、生身の腕ではない。ゴレムの腕だ。その腕は結露を表面に浮かばせて、月光に照らされ、真鍮色に輝いていた。


「これって……」

「の、ノルンさん、あれっ!」


 突然、コレットが指し示した方へと視線を向けると、そこには手足がいびつに捻じ曲げられ、血塗れになって横たわる、男の死体が転がっていた。


「ノルンさん……この人……」

「あのときのハゲと雷ゴレム……」


 そこにはつい数時間前、言い争っていたスキンヘッドの男が苦悶の表情を浮かべたまま、仰向けで絶命していた。

 恐る恐る近づくと、男の胸に風穴が空いているのが見えた。おそらくこれが死因だろう。辺りには血が盛大に飛び散っていたが、ノルンは男が妙にずぶ濡れなのが気になった。

 血で濡れたのではなく、水かなにかの液体だ。川にでも落ちたのだろうか。

 さらに男の遺体のその向こうには壁にもたれるように、手足をもぎ取られた真鍮色のゴレムが放置してあった。胸部にあったろう、心臓部とも言える「Gキューブ」が何かで貫かれて抉られている。さすがにこれではゴレムを復活させることはできない。


「ゴレムもバラバラだわ……。辻斬りにやられたのね」


 このゴレムは「能力持ち」だった。そのゴレムに勝つのだから、相手もおそらく「能力持ち」に違いない。


「このハゲも運が無かったわね……。まあ、幸薄そうな顔だったからなー」


 絶命している男の顔を覗き込みながらノルンが軽くつぶやく。これほど凄惨な死体を見ても動じないあたり、並の神経ではないとコレットは思った。

 「ゴレム使い」には危険がつきまとう。「ゴレム使い」自体が荒くれ者が多いため、使い手同士の決闘などよくある話だった。

 これは発掘される古代遺跡に挑む者が、いわゆる一攫千金を狙った、冒険者が多いことが理由のひとつだと考えられる。

 ノルンもゴレムを持つ以上、そういったトラブルを乗り越えてきているのだろう。コレットだってそうだ。


「一応念仏でも唱えとくか。迷わず成仏しなさいよー」


 なんまんだぶ、と両手を合わせて死者への祈りを捧げる。死者への祈り方は地方それぞれ特徴があるが、ノルンのは南洋地方のそれだった。と、言っても見るからに適当で、いいかげんなのがわかる。

 そのとき、背後から大勢の足音がけたたましく響き、魔光灯の光が幾筋もノルンとノワールを照らし出した。


「そこまでだ! 動くな、この辻斬りめ!」

「え?」


 辺りを見回すが、自分とノワール、あとは血塗れの死体とバラバラになったゴレムのみが光の中に見えた。

 いつの間にかコレットとハヤテの姿は消えている。

 わけがわからず呆然としていると、近づいてきた警備兵がガチャンとノルンとノワールに手錠をかけた。


「殺人の現行犯で逮捕する!」










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