06
どのくらい時間がたったのか、少しうとうとしていたかも。もう出港してしまっただろうか。
急に、何か違う物音が聴こえ、彼ははっと身をおこした。
「動くな」
急に、冷たい風がごおっと押し寄せる。どすどすと別の足音が響いた。
踏みこんできた黒ずくめの男たちをみて、椎名さんはぎょっとなった。
MIROCだ。すぐに判った。
なんでこんな所に? しかも、二、三、確かに見覚えのある顔が。
乗組員たちは突然のことに、大勢の派遣希望者と同じくらいぽかんとしている。
特務チームの連中は銃を構え(殺傷能力はないので、さりげなく急いでいる)、片っ端からきびきびと乗組員を捕縛し始めた。
「派遣のみなさん、こちらに並んでください」
若い一人が、船底に集まっていたオヤジたちに指示を出した。
「お手当が出ますので、一列に並んでください」
手には、集金の人みたいな黒いカバンを下げている。
それが言葉よりも効力を発したらしく、オヤジたちはわらわらと鉄の階段を上がってくる。
「押さないで、ゆっくり上がってきてください、みなさんの分はありますから」
一段上で、お手当の支給が始まってほどなく、こちらに二人の特務員が近づいてきた。
一人は、完全に見覚えのある顔。ガタイのいい男が、もう一人若いのに指示しながら一緒に、こちらに近づいてくる。
間違いない、本部特務課リーダーのグラスホッパーだ。何度か一緒に組んだことがあった。しかも二度ばかり飲みに行った先で一緒に酔いつぶれたことも。若いのはその部下だろう。
グラスホッパーが彼に声をかけた。
「だいじょうぶですか? って、あれっ? サン」
椎名さんは、必死で目配せを送る(バカ、黙れ)相手はすぐ合図に気づいた。
「サン……かっけいの面積って、どう出すんだっけ」
部下はびっくりしたがそれでも
「底辺×高さ÷2、いきなりどうしたんスか?」
「いやいやいやいや」
グラスホッパーは、かなりあわてている。
部下はそんな彼に首をひねりつつも、手際良く彼の縄をほどいて、猿ぐつわを外してくれた。
「オジサン、もうだいじょうぶだからね」
親しげに肩をはたいてくれる。
「ひどい目にあったね、気の毒に。どうしてオジサンだけ縛られてたんだろう?」




