03
「何が、まさか、よ」
腕を軽く組んで車に寄りかかると、スリットから艶めかしい足が白くのぞく。トリでもちょうど、おいしそうな部分。
「ダイジョウブよ、ダンナの恨みを晴らしにきたワケじゃないから」
以前、土地開発の件でからんだ姉御だった。
「朝倉さん……」
「ダンナとは切れたの」
口調は冷たかったが、グラサンの奥の目は楽しそうにきらめいていた。
「玲子って呼んでちょうだいよ、リーダー」
「あ、レイコさん……切れた、って? 離婚した?」
「ああ、あの人、あと7年はオリの中だし、レイコにも好きにしていいよ、って。で、別れたの」
「ふうん」
なんて答えたらいいやら。自分がオリの中に入れた張本人なので。
利権がらみで少なくとも3人は始末していた男だったが、それでもサンライズたちの働きのおかげで10年まで刑を短縮できた。
感謝されていいくらいだが、そこまで期待はしていない。
「ねえリーダー、この近くの人なんだ?」
答えたくはなかったが、あまりにも無邪気な聞き方なのでしぶしぶ
「え、まあ……その先の方」
あやふやに東方向を指す。
「あっらあ、グウゼン」
玲子、少女のように手をたたいた。
「レイコね、この近くに越してきたのよ。沢町2丁目のルミナリオマンション」
すごく近い。
彼が住む日の出町から車で15分以内の距離。このスーパーからなら5キロもない。
マンションの名前は聞いたことがある。最近できたばかりで、この近辺では超高級の部類に入る。
「へえ、病院の近くのだろ」
「そ、そこなのよ」
急にうれしそうに玲子が言った。
「ね、ちょっとお茶飲みにいらっしゃいよ」
「え?」
椎名さんは固まった。それは困る。
「ここから車に一緒に乗ってけばいいわ」
「オレ、買い物の途中なんですケド」
「何買うの? 人質?」
「いや……今日はお休みです」言葉を切って愛想笑い。
「アラビキコショーをね」
「えええ?」玲子はおお受け。
「リーダーが、アラビキコショー?」笑いすぎだ、姉御。
涙をふきふき、玲子が言った。
「ゴメンゴメン、でもそんなに急ぎじゃないでしょ? ほんの30分かそこらよ。ロンドンからおいしいお茶が届いたの、再会の記念にぜひ、御馳走したいわ」
「でもなあ」
「いいからいいから」
椎名さんを車の方に押していく。そしてふっと真顔になる。
「リーダー、こないだ別れる時に言った。レイコさん(いや、オレは朝倉さん、としか呼んだことない。まだダンナが逮捕されてなかったから)、次に会う時には一緒に茶でもしましょう……って」
「……言ったかなあ」
「言ったわよ。レイコ、記憶力はバツグンだから」
そしてまた弾けるように笑う。
「自転車、カギかけて。ここまでちゃんと送るからさ、そうね……一時間後には必ず」
「ホントに、お茶だけだぞ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶって」それはオトコのセリフだ。
そうして今度は、赤い車に詰め込まれた椎名さんでした。




