第45話 愛されるということ
「そうだなぁ……。僕だったら、普段通り一緒に過ごせたらいいかな? 一緒にいられる時間を増やせるなら極力増やしたいし、たまにはちょっと外食でおいしいもの食べたりとかね。
普段通り……とは少し違うかもしれないけど、日常のちょっとした幸せを一緒に過ごせるのが一番かなって思うよ。」
「日常……かぁ。」
その言葉が、胸のどこかにすとんと落ちる。
「うん。なにか高いプレゼントをもらうとか、海外で豪遊するとかそういうのじゃなくて、いままで通りの何気ない日々って言うのかな。
僕はそういうのを大切にしたいかな?」
「そんなんで喜んでくれるかなぁ。」
不安は拭いきれない。
「僕は喜んでくれると思うけどな。昨日一緒にご飯食べたとき、燈真君のお母さんとお父さん、すごく楽しそうだったし。」
「…………。」
あの食卓の光景が、ふっと頭に浮かぶ。
「どうしたの?」
「うん……。なんて言えばいいのかわかんねぇんだけど、父ちゃんと母ちゃんが楽しいのは俺がいるからじゃねぇと思うんだ。」
「……どうしてそう思うの?」
「俺……うまく説明できないけど、父ちゃんと母ちゃんと一緒に暮らし始めたの、すげぇ最近なんだ。」
「そうだったんだ……。そんな風には全然見えなかった。」
「だからさ、たぶん父ちゃんと母ちゃんは俺じゃなくて、颯真やクソ兄貴が一緒にいればいいんじゃないかって思っちまって……。」
口に出してみると、どんよりとした暗い感情が腹の下の方に溜まっていくような気がした。
「だから日常的なことじゃなくて、何かプレゼントとか特別なことをして喜ばせてあげたいってことか。」
「……そう……かもな。」
「うーん……」
デジデジは少し考えてから、俺の目を見る。
「燈真君、それは自分に自信がないってことじゃないかな?」
「え……?」
思わず固まる。
「燈真君は、お母さんとお父さんのことを大切に思ってると思うんだ。こうやってどうやったら喜んでもらえるか考えてるし。」
「……うん。一緒に過ごした時間は少ないけど、父ちゃんも母ちゃんもすごくいい人だし、あったけぇって思う。」
「でも、自分が愛されてるとは思えないってことだよね?」
「それは……。」
言葉に詰まる。
「それは?」
「愛されてないとは思ってねぇけど……でも、二人とも優しいから、もしかしたら無理してるんじゃねぇかって思っちまって……」
「つまり、やっぱり自信がないってことなんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?」
「……そうなのかもしれない。」
否定できなかった。
「じゃあ、プレゼントを渡すとか、何か特別なことをするとか、そういうことよりも前に――
燈真君がお母さんやお父さんからの愛情を、しっかり受け入れてあげられるようになることが大切なんじゃないかな?」
デジデジの声は、穏やかだけどはっきりしている。
「だって、自分たちが愛してる息子が、自分たちに愛されてると思えてないなんて、悲しいことだよ。」
「デジデジ……。」
胸の奥が、じわっと熱くなった。それと同時に母ちゃんと父ちゃんの気持ちを想像した。
好きな人に好きだと伝えてもそれが伝わらないもどかしさと、切なさ。
俺は二人に酷いことをしてしまったと気が付いて胸がずきんと痛んだ。
だから俺は覚悟を決めた。ちゃんと母ちゃんと父ちゃんとも向き合いたい!
「そうだな……。俺、ちゃんと向き合ってみる!」
自分の決意をそのまま口にする。
「うん、それがいいと思うよ!」
「……でも、どうすりゃいいんだ??」
「うーん……。まぁでも基本はおしゃべりすることじゃないかな? やっぱりお互い話してみないとわからないこともあるし。」
「そうか……そう…だな……そうだな! そうしてみるぜ!」
「うん! なにか僕に手伝えることがあったら言ってね!」
「ありがとうな! やっぱりお前はいいやつだな!!
……って、お前の悩み聞くつもりが、俺の悩み話してスッキリしちまってるぅ!!」
思わず頭を抱える。
「まぁまぁまぁ、スッキリできたならいいじゃない?」
「そうだけどよぉ……!」
文句を言いかけて――ふと、さっきの言葉を思い出す。
「……なぁデジデジ。」
「なに?」
「俺、思ったことがあるんだけどよぉ。」
「うん?」
「さっきお前、『愛してるのに相手にそれが伝わってないのは悲しいこと』だって言ってただろう?」
「あぁ、そうだね。」
「それ、さ……。」
「うん?」
「お前を愛してたのに、友だちだからって理由で全く気付いてもらえなかった男たちの気持ちだぁ!!!!!!!!」
勢いそのまま、俺はまたデジデジをベッドに押し倒した。




