第46話 いや、これは誤解で……!
「ちょっ……燈真君っ……また!?」
見上げてくるデジデジの瞳が、さっきよりも動揺しているように思う。
「お前、今まで友だちだと思ってたヤツの好意に気づいたことないって言ってたけど、ホントは『もしかしてコイツ俺のこと好きかも?』って思ったことあるんじゃねぇのか!?」
「えっと……」
「でも『いや、そんなことあるはずない』って思っちまってるんじゃねぇのか??」
俺はデジデジの腕首のあたりをギュッと掴みながら畳みかける。
「自分に自信がねぇから!」
「……。」
「いまさっきお前が俺にしてくれたアドバイスを踏まえると、そういうことになる! ……どうなんだ!?」
「……なるほどね。」
「なるほどね??」
その言い方に、拍子抜けする。
「あっいや……確かにそういう部分もあるのかもしれないなぁって思って、ちょっと関心してた。」
「……そうなのか?」
「うん……。そうだね、僕あんまり自分に自信はないのかもしれない。」
「なんでだ??」
「なんでか……難しいな。」
デジデジは天井をちらっと見て、それからぽつりと続けた。
「……もしかしたら、お兄ちゃんと自分を比べちゃってたからかもなぁ。」
「え? お前兄ちゃんいるのか??」
「うん。いる……というか……いた、かな? 結構前に死んじゃって。」
「そうだったのか……。」
聞くべきではないことを聞いてしまった気がして、罪悪感で胸がきゅっと掴まれる。
「あっ、でもあんまり気にしないで。別にお兄ちゃんとはそこまで仲良くなかったから。」
「そうか……」
「うん。何考えてるか、いまいちよくわからない人だったかも。
でも、勉強とか運動とか割となんでも卒なくこなしちゃう人だった。」
デジデジは続ける。
「だから、お兄ちゃんが死んでからは、僕も極力お兄ちゃんみたいにできるようにならなきゃって思って、自分なりにはやってたんだけど――
勉強も運動もそこそこって感じで、お兄ちゃんみたいにはできなかった。」
「それで自信が持てなくなっちゃったのか?」
「うーん……まぁそんな感じなのかな?」
「そうか……。」
苦笑いまじりの声だった。
「でも、燈真君は兄弟仲良さそうでいいよね! 見てるとこっちまでほっこりするよ。」
デジデジが暗い雰囲気を飛ばすように、明るいトーンで話してくる。
「そ、そうか! まぁ颯真とは仲良しだな! クソ兄貴とは仲悪いけどな!!!」
俺はその意図を汲んで少しだけ声のボリュームを上げた。
「颯真君、すごくいい子だよね! 実は僕も三兄弟で弟がいるんだよね。
今は色々あって僕は独り暮らしだし一緒には暮らしてないんだけど、颯真君みてると弟のこと思い出すよ。」
「え!? 弟いんのか!! マジか!!! 今度見てみてぇな!」
「……そうだね。いつか一緒に遊べたらいいね。」
デジデジが、少しだけ寂しそうに笑う。
「おう! ……楽しみだ!!」
いつか、絶対。心の中で勝手に約束する。
「つーかお前、一人暮らしだったんだな。高校生で一人暮らしは大変だろう??」
「まぁ最初は大変なこともあったけど、もう慣れたかな? お金は家から仕送りしてもらってるしね。」
「そうか……。なんか大変なこととかあったら言ってくれよ! 俺も一応一通りは家事とかできるからさ!!」
胸を叩いてみせる。
「うん、ありがとう!」
「ところで燈真君。」
「なんだ??」
「そろそろどいてくれないかな??」
「あっ悪ぃ! いまどくな。」
慌てて体を起こした、そのとき――
ガチャ。
「――あっ」
「――あっ」
ちょうどドアが開いて、俺とデジデジの声がハモった。
「おい、そろそろ準備でき……お前らなにやってるんだな!!」
ジペットが目をひんむいて固まる。
「わぁ……デイジー、燈真くん、破廉恥……」
ゼロが口元に手をあてて、わざとらしく驚く。
「お前らにはそういうことはまだ早いんだな!! さっさと離れるんだ!」
「いや、これは誤解で……!」
デジデジが慌てて両手を振る。
「誤解もなにも、見たらわかるんだ! さっさと立て、早く!」
「わっわかったって!!」
ジペットに怒鳴られて、俺は慌ててベッドから飛び降りた。
「さっさと支度しろ! なーにやってんだまったく!」
「「(誤解なんだけどなぁ……)」」
俺とデジデジは、きっと心の中で同じことをつぶやいていた。




