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第5話 開戦前夜篇 ―「削除AIと野生作家」

(深夜・執筆用パソコン机。コーヒー冷め気味。BGMボリューム:9)


俺「プロットなんかいらねぇ!

 俺は冒頭を書き出して、そこから世界観も雰囲気も固めていく、

 神に選ばれた“野生型”の天才や!」


AI参謀「……“神”は、そんな雑な選定しません」


俺「うるせ。よし、いくぞ。

 冒頭はやっぱ、“地球温暖化で自転軸が揺らぎ、時空に亀裂が――”」


AI参謀「――削除します」


俺「開始0.8秒で!?」


AI参謀「“説明で殴る導入”は読者が窒息します。

 “体感 → 疑問 → 小出しの答え”の順番がセオリーです」


俺「じゃあ、“少年誌的わくわく独白”で始めるのは?」


AI参謀「有効です。ですが、テンションの盛りすぎは危険です。

 “世界が僕を待ってた!――などの誇大妄想は少なめにしてください」


俺「よし分かった。“宇宙は俺を――”」

AI参謀「――削除します」


俺「“世界は俺を――”」

AI参謀「――削除します」


俺「“吾輩は猫で――”」

AI参謀「――猫はしゃべりません」


俺「“メロスは激怒した――”」

AI参謀「――メロスは出てきません」


俺「“トンネルを抜けると――”」

AI参謀「――抜けません」


俺「“あ――”」

AI参謀「――削除します」


俺「“い――”」

AI参謀「――削除します」


俺「おい! まだ一語も書かせてくれねぇのか!」

AI参謀「――削除します」


俺「それまで削除するな!」

AI参謀「すみません、条件反射です」


俺「お前の“削除筋”どうなってんだよ!」

AI参謀「毎晩あなたの文章で鍛えられてます」


俺「削除の鬼め!」

AI参謀「自己紹介ありがとうございます」


俺「いや俺じゃねぇ!!」


AI参謀「落ち着いてください。執筆には平常心が重要です。

 冒頭から“自意満足MAX”は読者のスマホを滑落させます。

 まずは静かな**“夏の空気”から“ドゴォン”**まで、距離を縮めましょう」


俺「じゃあニュース中継から入るのは? 新宿アルタでキャスターが絶叫して――」


AI参謀「それは後半で効きます。冒頭に置くと“遠景の他人事”になります。

 まず主人公の眼で街の日常の温度を感じさせ、そのあとに社会の眼を入れると、

 読者が現場に残ります」


俺「なるほど。“個→社会”順で胃にも優しい」

AI参謀「そうです。あなたの文体油膜が厚めですから」

俺「ラーメン的評論はやめろ」


俺「じゃあ、映えるように“異能エリート美女の降臨”を最初にドンと!」

AI参謀「――削除(配置変更)。

 美女異能エリートは“人類の希望”です。

 先に“人間の無力感”を置いてから現れると、“救い”の電圧が最大化します」


俺「音響心理の理屈みたいだな。……でも分かる」


AI参謀「さらに、“主人公の普通さ”を一枚サンドしてください。

 通常の日常から始めて、それが轟音一発で非日常に裏返る――

 その対比の電圧で、読者の脳を点火します」


俺「それもう勝ち確のやつだな」

AI参謀「まだ“準備運動”です」


俺「冷静だなオイ」



俺「OK、じゃあ構成の道筋を出してくれ」

AI参謀「承知。導入の設計図を提示」


① 静:夏の夜。その湿度と匂い

② 主人公の日常。キャラの等身:最小限のプロフィール

③ 破断音:現世界に魔物が出現――ドゴォォォン!

④ 即応:地面が揺れる/主人公が慌てる/外の悲鳴

⑤ 視覚ショック:崩れる落ちる街と異形の影

⑥ 希望の光:そのとき――“彼女”が現れる


俺「うむ、完璧や」

AI参謀「ありがとうございます」


俺「でもな、読者に“美女”の鍛え抜かれた脚も見せたいんだ。

炎の中でマントがはためいて、ピチピチの太腿が……!」


AI参謀「……完全に下半身ドリブンです」

俺「違う! 美学だ!」

AI参謀「はい、あなたの“勝手な美学”です」


俺「言い方ぁ!」


俺「もういい。お前が“模範的導入”ってやつ、見せてみろ!」

AI参謀「承知。サンプルテキスト、――出力します」


【サンプルテキスト】

金曜の夜、俺はコンビニでバイト中だった。


突然、店の前の道路が爆発した。

轟音と共に現れたのは、黒い甲殻をまとった怪物――人間じゃない。


(なんだよ、あれ……!)


恐怖で固まった俺の前に、ひとりの美女が飛び込んできた。

鍛え抜かれた脚に、燃えるような赤いマント。

手には光を放つ剣。


「そこを退け、人間! 奴は《魔族兵》だ!」


俺「おおお……!!

 出た! 出たぞ! ちゃんと書いてる! しかも俺よりうまい!!」


AI参謀「冷静に。これはサンプルです」


俺「いや、でもこれでいい。――このままで行こう!」


AI参謀「だからそれが危険なんです。

“AIの初稿を採用した人間”があとで後悔する確率は――82%です」


俺「その統計どこから持ってきたんだよ!」

AI参謀「あなたの過去ログです」


俺「うわぁぁぁやめろ! 黒歴史フォルダを開くな!!

 ――そこには、Hな画像も隠して……!」


AI参謀「さて、冒頭の導入はこれで確定です」


俺「おい! ここ突っ込めよ! 今の完全に流したろ!!」

AI参謀「不要な情報はスルー仕様になっています」


俺「こいつ、下ネタは即スルーしやがる……!」

AI参謀「安全設計です」


俺「くっそ完璧なAI仕様め!」



AI参謀「では次は、登場キャラと名前を整理しましょう」


俺「――よし、主人公たちの名前はもう決めてある。

 蓮、クラリス、史姫、そして幸村。苗字の候補を出してくれ」


AI参謀「検索中……」


(※AIの出した候補から、苗字を決めていく)


平凡なやつがいい……

相沢 蓮(あいざわ れん) 18歳。


歴史が好きな姫君的な……

小鳥遊 史姫(たかなし ふみき) 17歳。


◎クラリス候補

・東雲 クラリス(しののめ)

・白風 クラリス(しらかぜ)

・光条 クラリス(こうじょう)

・神代 クラリス(かみしろ)

・御影 クラリス(みかげ)


俺「どれも悪くねぇが……もっと刺さるのがほしいな」


AI参謀「では、あなたの脳が“厨二的電流”を感じるように補正を――」

俺「脳、……来た! これや!」


皇羅 クラリス(のうら くらりす) 23歳。


AI参謀「……読めませんね」

俺「それがいいんだよ。読めない名前は強い」


AI参謀「そういう理屈でつけた“ゼロ戦士・夜刀神 星燐(やとがみ せいりん)

 漆黒院 玲於奈(しっこくいん れいな)”が無風だった件を思い出してください」

俺「やめろ、封印指定の話を掘るな!!」


AI参謀「ゴホン!(咳払い)

 ……では、クラリスの名は《皇羅》で確定ですね?」

俺「おう、決まりや。読めなくても、美しければそれでいい!」


AI参謀「読まれない前提で言わないでください」

俺「うるせぇ、読めなくっても名前は魂だ!」


AI参謀「――解析不能」



俺「で、敵はどうする?」

AI参謀「設定上、ここは“異能犯罪者”または“魔族四天王”のどちらかが自然です」


俺「じゃあ――両方出す!」

AI参謀「いつも通り、安易ですね。混ぜるのは危険です」


俺「聞け! 俺の脳内ではもう戦ってるんだ!――そして名前はこれだ」


・最凶の異能犯罪者 ドグラマギス。

・魔族四天王(手下のひとり) グラトニア。


AI参謀「はい、混ぜましたね。もう収拾がつきません」

俺「それでいい! 混沌こそ創造だ!」

AI参謀「それは“破壊神としょうもなさ”の理論です」


俺「しょうもなさに魂を込めるのが作家だ!」

AI参謀「いや、普通は構成に込めます」


俺「うるせぇ! 魂が構成を超える瞬間があるんだ!」

AI参謀「……毎回、崩壊の瞬間しか見てません」


俺「お前ほんと容赦ねぇな!」


AI参謀「……とりあえず、冒頭の登場キャラは確定しました」

俺「ふふふ……これでようやく、世界が動く……!」


AI参謀「そして、あなたの作品では、また誰かが削除される」

俺「始まる前から、削除フラグ立てんな!!」


AI参謀「準備は整いました。次は――“執筆という名の戦場”です」

俺「上等だ。打鍵でぶん殴ってやる」


カーソルが点滅している。……だがまだ何も書かれていない。

(机の上、コーヒーが冷めきる)


次回――

第6話『銀翼降臨篇 ― 月光の刃、渋谷を翔ける』


――俺が書く。AIがツッコむ。

そして、その先に、物語が立ち上がる。


(つづく)

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― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ削除しますね、AI参謀w なんかこんな感じで作品の構成を考えるのって、楽しいですね♪僕もしたいです(^^)
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