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お食事は計画的に


 ゼオは起床と共に川へ向かい、水流の中の岩を次から次へと岸に除けていた。


(……この辺りで朝飯になるのがありそうなのは、この川くらいだからな。とりあえず、食える物は無いかな……と)


 川自体には入らず、《触手》のスキルによって背中から生えた三本の触手を大岩に巻き付け、退かし、獲物の隠れ場所を次から次へと潰していく。

 巨体となってからは色々と不便なことも多かったが、こうして横着しながら楽な体勢で作業が出来るときもあるので、ゼオとしては複雑な気分だ。


(この際魔物じゃなければ何でも良いよ。ブラックバスだろうが熱帯魚だろうが、臭い魚でもどんとこいだ)


 あらかじめ《鮫肌》のスキルで岩を削り、制作しておいた鉢を脇に置き、川の中を泳ぐ生物を凝視する。

 自然が溢れる異世界なだけあって、地球の街中でよく見かける川(というか用水路)とは違い、多くの生物が一つの川の中に生息しているのが目に見えた。

 内訳としてパッと見では、魚の他にザリガニやサワガニのような生物が、大岩が置いてあった場所から出てきた。



【ミドリブナ】

【鮮やかな緑色の鱗が特徴的なフナ。泥を吐かせれば刺身としても食べられる魚であり、サバイバルでは非常に珍重される。ただし、寄生虫には要注意】


【モウドクワカアユ】

【その名の通り、フグよりも遥かに強い神経毒を全身に持つアユ。味は絶品の一言なのだが、それを味わうには死を覚悟しなければならない】


【オオアオザリガニ】

【鮮烈なまでに青い甲羅が特徴的な大型ザリガニ。第一印象では食べられそうにないが、実はエビと大差ない味を持つ、サバイバルにおける非常食の一つ】


【サワガニ】

【いたって普通のサワガニ。茹でたり揚げたりといった加熱調理すれば食べられる】



 一部物騒なのもいるが、食べられるものも多そうだ。ゼオは大きな手を活用し、さながら熊のように魚を岸へと弾き出し、ザリガニやサワガニを爪先で捕まえて鉢の中に放り込んでいく。


(地球に居た頃は、まず食べなかったようなものまで食うようになったは、ある意味異世界ならではだよなぁ)


 地球産のフナやザリガニなども食べられることは食べられる。しかし、生まれた時から便利な文明に身を置いていたので、野生生物を捕まえて食べるなどと言う選択肢自体が浮かばなかったのだ。魚や肉が食べたければスーパーに行けは良いという話である。


(アユはスーパーでもたまに見かけたけど……何でこの世界ってこうもヤバいものが混じっているんだ?)


 フナと一緒に捕まえたモウドクワカアユの尻尾を抓みながら嘆息する。樹海に居た時、非常に美味だが強力な毒性を持つニンジンを見かけたことがあるが、美味いものほど強い毒を持っているという法則でもあるのだろうか?


(だが待てよ……? 《邪悪の樹》のスキルには《全状態異常耐性》も含まれてるし、食べれると言えば食べれるのか?)


 強いて懸念事項を上げるなら、どの程度の耐性があるのかどうか。しかし、美味なる魚というのも非常に気になる。毒があっても食べられるなら、食料問題解決にも繋がるのだ。


(……まぁ、いっか。食べちゃえ)


 結局毒魚を食べることにしたゼオ。たとえ毒が効いても《毒耐性》のスキルレベルも上がるし、この近辺には自分の体を傷つけられるステータスを持つ生物も居なさそうだし、死にはしないだろうと高を括って、捕らえた獲物と一緒に鉢へ入れて調理を始めることにした。


(……あー、でもそっか。セネルとも離れ離れになったから、火を熾すのも自分でやらないとだめなのか)


 その時、調理にするに当たって最も重要なことが出来ないことを思い出す。

《火炎の息》の効果は、一言でいえば爆弾だ。衝撃波と灼熱によって凄まじい威力を発揮するが、それゆえに(たきぎ)を燃やすには向いていない。木端微塵に吹き飛んでしまうのだ。以前までは威力を下げることで火を熾すことも出来ていたのだが、ステータスやスキルレベルが上がった今ではそんな細かい加減は出来ない。

 セネルと共に行動していた時は、彼が昔ながらの方法で鮮やかな手並みで火を熾してくれていたのだが、自分の手ではそれも叶わない。


(仕方ない……新しいスキルを購入するか)


 スキル《邪悪の樹》を発動。それに統合された《スキル購入》の力を使い、状況に見合ったスキルを探し、購入する。


【スキル《火炎放射》。口、または手のひらから炎を放射するスキル。物を燃やすには向いているが、破壊力には乏しい】


 戦闘用に見れば弱いスキルなだけあって、必要なSPは70と安めだ。そんなスキルを購入したゼオは、枯れ木を一ヵ所に集めて火を熾す。

 

(本当は塩とか胡椒が欲しいんだけど……それは追々だな)


 続いて《鮫肌》スキルを発動。木の枝を指先で丁寧に擦りながら串を作り出し、捕らえた獲物一匹一匹を串刺しにして、焚火の周りに突き立てることで遠火で焼く。


(なんか懐かしい感じ……お嬢の所に居た時やその前は、こうやって飯を食ってたっけな。……ああ、なんか良い臭いしてきた)


 魚の脂がジュウジュウと音を立て、ザリガニやサワガニの甲殻が赤く染まっていく。手先が器用な上に料理も上手いセネルがサバイバルにしては上出来すぎる料理の数々を作ってくれたので今更以前の食生活に戻れるか心配だったが、案外大丈夫そうだ。


(それじゃあ、いただきます)


 端が焦げながらも香ばしく焼けたフナやザリガニ、サワガニを次々と口に放り込んでいく。鉄杭の如き牙を持つゼオにとって、魚の骨も甲殻類の殻も食べるのには邪魔にならない。むしろ脆い煎餅みたいなものだ。

 味は控えめに言って雑。樹海に居た時はピンクツリーなるピンク色の香辛料が採れる木があったので、野生ながらに贅沢をしていたのだが、本来なら何の味付けもない食を貪るのがあるべき姿だろう。


(でもまぁ、食えないことはないな)


 特別美味いわけでもないが、不味いわけでもない。綺麗な川に住んでいただけあって、ほとんど泥も飲んでいなかったかもしれない。


(で……だ。問題は、こいつだよな?)


  

【モウドクワカアユの串焼き】

【加熱調理によって毒性が弱まったものの、一匹で成人男性百人が死ぬ毒性を誇る。しかし熱によって炙られた身は潤沢な甘い脂を宿していて非常に美味。死を覚悟している美食家なら迷わず口にするとか何とか】



 毒性が弱くなってもまだヤバいのには変わりがない。だが、自分が毒に対して耐性を持っていることと、死んでもいいから食べてみたいほど美味であるという説明が、ゼオの口腔を唾液で溢れかえらせる。


(えぇい! ままよっ!!)


 意を決して一口で毒魚を口の中に放り込む。その瞬間、ゼオの舌から信じられない多幸感が広がった。


美味(うんま)ぁあああああああああああああい!!)


 前世、美食大国としても名を馳せていた日本で暮らしていた身としても、食べたことが無いほど美味な魚に頬が緩むのを止められない。

 これが本当に塩も胡椒もない素焼きの魚なのかと思うほど、魚そのものが濃厚な旨味を発しているのだ。


(ふー……ご馳走様。あー、満足した。いやぁ、状態異常の耐性系スキルは素晴らしいなぁ。有毒でも美味ければ何でも食べられるっていうのが特に――――)


 全て食べ終えて満足げに息を吐いた瞬間、ゼオの腹の虫が盛大に鳴った。


(…………前言撤回。全然満足してないわ。あれっぽっちじゃまるで足りん)


 大きめの小屋の如き巨体を誇るゼオにとって、今しがた食らった獲物はどれも一口サイズだ。そんなものは大した腹の足しにはならない。

 この巨体を維持して活動するには膨大な栄養が必要なのだ。樹海ではイノシシやギガントラビットなどの大型禽獣も生息していたので食うには困らなかったが、これから先は可能な限り早くその手の獲物が居る場所を見つけなければ、何時か飢えて死んでしまいそうな気がする。


(うぅん……それまで何とか凌ぐ方法を見つけないとなぁ。何か都合の良いスキルとかないの?)


 そう思いながらスキルの購入画面を隅から隅へと探して回るが、どうやら現状を打破できるスキルはなさそうだ。


(はぁ……仕方がないか。こうなったら、地道に探すしかないな)


 最初の方針は食料の確保。つまり、豊かな森などを探さなければならない。そうでなければ、敵との交戦時に空腹で苦しむ羽目になる。

 そうと決めたゼオは蒼炎の翼を広げて、上空からそれらしい場所を探すことに決めた。




 しかしそれから数分後。


(うげぇえあああああああああああああ……! く、苦しぃい~……!)


 モウドクワカアユの毒に当たって地面に墜落、それからしばらくの間、のた打ち回る羽目になった。


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