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狐少女の日常  作者: 樹 泉
三章 ユグドラシル学園二年生編
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冬休み リーディス王国


「実は実家経由で手紙が来てな、サーヴィス殿から手紙が来た」


「サーヴィス君? リーディス王国の?」


 アランからの驚きの言葉にミズハがキョトンと聞き返す。

 リーディス王国の第三王子であるサーヴィスは去年一時期ユグドラシル学園に在籍していたのだが、人間至上主義という主義を主張して問題を起こしかけ、アランと話し合いの結果自国であるリーディス王国に帰ったはずである。

 そんな人間至上主義にかぶれていたサーヴィスから獣人であるアランの元に連絡が来るなど驚きだ。


 ミズハはサーヴィスから来た手紙を読むと、威丈高な文はなく敬意に満ちた書き方で綴られていた。

 おそらく心境の変化があったのだろう、そして内容は助けを求めるものだった。


「俺は行くつもりではあるが、罠という可能性もある。ミズハはどうしたい?」


「私も行くわ。態々手紙でアランや私に謝るなんて以前のサーヴィス君では考えられないもの。それに手紙はリーディス王国の王族が使う紙だから、罠の可能性は少ないわ」


 ミズハを心配するアランの目は真剣で、ミズハも意思の籠った瞳で返す。

 王族の使う紙には国章などが透かし彫りや透かし模様がされており、〝国〟としての代表的な手紙になる。もし、この紙に書かれた手紙が嘘であれば国の信用は落ちるし、場合によっては宣戦布告に取られてもおかしくはない。

 しかし、人間至上主義をうたっていたサーヴィスである。最悪の可能性として獣王国レオンの王子であるアランと婚約者のミズハを諸共に殺す罠の可能性もある。

 それらの事を考えてアランはミズハに問い、ミズハはそれに是と答えた。


「わかった。冬休みは一度獣王国レオンに帰って直ぐにリーディス王国へと向かう。準備をしておいてくれ」


「了解」


 アランが予定を伝えるとミズハは快活に了承した。


 そしてついに冬休みに入った。

 ナノハとケニスはそれぞれ故郷で新年を迎えるために帰宅し、ミズハとアランとレイニードは獣王国レオンへと向かった。

 リーディス王国での予定が不明なためミズハ達は船で宿題をしていた。秋休みと違い期間の短い冬休みはそれほど宿題が出てはいないが皆無ではない。


 三人の宿題が終わって一息ついた頃、獣王国レオンの王都が間近に迫っていた。

 獣王国レオンで帰還の挨拶などもろもろをすませる為に二泊して、リーディス王国行きの公用船に乗った。公用船は国の威信がかかっているため煌びやかで、しかし派手すぎない品の良い船だった。


 リーディス王国に辿り着いたミズハ一行はアランを先頭に獣王国レオンの外交官も交えてリーディス王国国王に謁見した。

 リーディス王国の国王は気苦労が絶えないのか薄くなった頭皮に王冠を被っている。


 挨拶を済ませて宿泊する部屋を紹介されサーヴィスに先触れを送ると、早々に対面する事が適った。


「アラン殿お久しぶりです、この度はご婚約おめでとうございます。皆様、過日は私の無礼大変申し訳ございませんでした!」


 サーヴィスはアランを前に祝意を述べると腰を九十度折って深々と謝罪した。


「頭を上げてくれないか。あの事は既に終わった事、謝罪は受け取った」


「いえ、謝罪させて下さい。あの当時の私は視野狭窄に陥り、分別すらついていませんでした」


 アランが顔を上げるように言うが、サーヴィスは直も深々と頭を下げ平謝りする。

 ミズハ達三人は一人称すら変わっているサーヴィスを見て『何が起こったんだ!?』と心の中で叫んだ。そして、ついには精神に魔法をかけられたのではないだろうかと疑問に思った頃サーヴィスは一度顔を上げ、その答えを喋った。


「人族がどうのなど些細な事です。私は真実の愛を知り心に明かりが灯ったのです」


 おそらく、否、十割の確率で異種族に恋をしたのだろう。


「そうか、それは良かったな。それより内密に頼みたい事があると手紙に書いてあったが?」


 アランはサラッと流したがミズハに対するアランのテンションは似た様なものだ。

 アランの話しを聞いてサーヴィスは真剣な顔を作ると思いつめた様な顔で語り出した。

 現在のリーディス王国では人間至上主義を掲げる者達が増えているそうで、城下町でも亜人と呼ばれる獣人・エルフ・ドワーフが攫われる事件が増えているそうだ。そして、サーヴィスと恋人関係にあるドワーフの娘まで拐かされてしまった。

 サーヴィスは犯人の目星もついていると語るが、中々犯人を話さない。


「少しいいか? この問題はリーディス王国での問題のはずだ。その問題に俺達が関われば内政干渉にならないか?」


 アランがサーヴィスの話しを切りこの話しの問題について語ると、サーヴィスは「う……」と呟くと顔を下げた。


「その事は解っています。アラン殿達に迷惑をかけるどころか、私が責任を取らなければいけない事も。問題は黒幕にあります。……おそらく、いや、確実に黒幕は兄上、リーディス王国第二王子ウィルスト・フォン・リーディスなのです!」


 サーヴィスが真剣な眼差しで言いきるとアラン達は事の大きさに頭痛を感じた。

 一国の王子が主犯という事は場合によっては国家間の問題になりかねないからだ。今回の問題にアランが関わらなくとも王位継承権のある王族が黒幕であれば、後に各国に飛び火しかねない。

 黒幕の名前を聞いてアラン達はサーヴィスがアラン達を頼った事もある程度察する事もできた。

 父親であるリーディス王に話そうにもしっかりとした証拠が必要であるし、王や国の中枢の人間は意識しているかしていないかに関わらず継承権の高い王族の方を贔屓したがる。

その上サーヴィスは一度問題を起こした王子であり、上の兄王子達と歳が離れていて信用度も違う。

こうなってしまえば国内で味方を探すのは難しいだろう。


「ウィルスト殿が黒幕、主犯であるという証拠はあるのか?」


「……ないです、申し訳ありません。しかし、私に人間至上主義の講義をしたのはウィルスト兄上です」


 アランの問いにサーヴィスは悔しそうにそう言った。


「ふむ、既に獣人が被害を被っている状況だから手助けするのはやぶさかではい。となると情報収集と証拠固めか。ああ、サーヴィス殿も気軽に接してくれると助かる」


 アランは亜人という人族以外の種族に対する蔑称をしなくなったサーヴィスの評価を上げた。そんなサーヴィスからもたらされた誘拐の話しは、既に局面が悪くなって来た事を感じさせた。

 ウィルストが黒幕であろうとなかろうと身分的に考えて中枢にいる、あるいは情報を握っていると考えて良いだろう。

 となると、一国の王族に罪状を突き付ける証拠はなければならない。


「気軽に接するなどとんでもない。……証拠にはならないかもしれませんが、ウィルスト兄上に連れられて人間至上主義を掲げる者達のサロンに行った事があります。これがその際の名簿になります」


「………。一つ聞くがサーヴィス殿は未だに人間至上主義派だと思われているのか?」


 アランはサーヴィスの言葉に指先をこめかみにあてて溜息を飲み込んだ。

 サーヴィスの差し出した名簿が本当であれば証拠固めは随分楽になる。しかし、身内からの裏切りに等しいサーヴィスが自由に行動している事が腑に落ちない。

 誘拐監禁など犯罪行為に走っている連中がその内容を知っている可能性のある人物をそのままにしておくだろうか。答えは否だ。

 そこまで考えてアランはサーヴィスに質問をしたのだ。


「そうですね、未だ私も人間至上主義者と考えているでしょう。愛しのミレイと会ったのはお忍びで城下に出た時の事ですから。なので、何とか証拠になる物を探してみたのですが、見当たりませんでした」


 アランはサーヴィスの話に腕を組む。

 証拠を見つけられても場合によってはサーヴィスまで罰せられる可能性が出てきたからだ。サーヴィスは獅子身中の虫、埋伏の毒になっているようで余計に危険だ。


「なるほど。では、なおさらサーヴィス殿は以前と同じ対応でないと怪しまれるだろう」


「そう、ですね。ではお言葉に甘えて。手伝ってもらえないだろうか?」


 アランの言葉にサーヴィスは頷き言葉遣いを以前のものに戻すが深々と頭を下げて願った。そんなサーヴィスにアランは小さく溜息を吐くと「手伝おう」と伝えた。







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