第七話
「ついてないですよねー、わたし」
青年宅の勉強部屋から茶の間に移ったロロナは煎茶をすすっていた。
「……めちゃくちゃな話ですね、それは」
例の青年は、円卓を挟みロロナの前ににこやかな顔で座っていた。二人とも座布団に楽な姿勢で座っていた。
「せっかく普通科を抜け出せたっていうのに、変な男子、あっ、どっちかはまともだった気するけど、その男子二人のせいで足止めくらうわ、それだけっだったらいいんだけど、爆風で飛ばされるわ……。まあ、それで意識まで飛ばなかったのは不幸中の幸いで、そのあと特別科の敷地内まで行けたんですけど、侵奪者に遭遇するっていうね」
「はは、災難でしたね。そして魔法陣まで踏んでこの世界に来たんですね。はは、ほんとに笑いが出るほどファンタジーですよ」
「あの、まだ信じてくれてないですよね。わたし、ほんとあなたの言うファンタジーから来たんですって」
「じゃあ、そのファンタジーの話とやらをもっと聞いてみたいな」
「いやです」
「え?」
「わたしは、あなたに冗談を言って聞かせるつもりなんてさらさらないんで。そんなにファンタジーがお好きなら、どうぞ、虚言ばっかの政治家の話でも聞きに行けばいいですよ。わたしは、別にあなたと世間話がしたいわけじゃないんで。ほんとうに、向こうの世界に戻りたくて、そのために、そのために! あなたにわたしの話を信じて貰いたいだけですから。まともに聞く気がないんだったら、こっちだって、それ相応の手段というものを取らせていただきますから」
「手段?」
「さあね」
「ま、まあ、すいませんでした。僕が悪かったです……」
「……はぁ。ここで、あの窓ガラスを魔術で破壊できたり、この熱いお茶を一瞬で凍らせたりできたら、あなたも、わたしのこと、信じてくれるんでしょうね」
「ま、まあ。嫌でも信じますよ、それだったら」
「ふー……、残念。魔術師の家庭に生まれながら、魔術の一つも使えやしない。ほんとあわれ。あわれなわたしですよ。小日向家、ああわたしの名字小日向っていうんですけど、わたしの小日向家は、先祖代々魔術師の家系で、だいたいが、魔狩人になったり、魔術学校の先生になったりで、いわゆる良家、わたしの世界で魔術師は人々に崇められるべき存在だからなんですけど、そんな家でわたしは生まれました。姉が二人いて、二人には魔術の素質があって、わたしにはなかった、と、親は言ってました。姉二人は魔術の英才教育を受けて、わたしはふつーの教育を受けて育ちました。だから、魔術は使えないんです、わたしは」
「それは、残念というか、こればっかりは普通の人間の僕からなにも言えないですね」
「魔力がほしい」
「い、いきなりですね」
「いえ、もっと正確に言うと魔力を使いたい」
「僕にきみの話を信じ込ませるためですか?」
「違います。というか、言いましたよね? わたしは魔術を使えないって。だから、わたしの魔術であなたを信じこませるなんてこと、考えてません。それに、わたしは、わたしの魔力を使うとは言ってませんよ?」
「えっと、それは……」
「もうすぐ、わかると思いますよ。たぶん、あなたが、わたしのことを信じる頃には」
「ますます、意味が分からないです……」
「だから、もうすぐわかるんですって、たぶんですけど。まあ、待ちましょうよ、お茶でもしながら。……へへ、いつのまに、わたしのお茶がなくなっちゃいました」
「……注ぎますよ」
「ありがとうございます!」