いじめ事件
貴族院、入学から、一ヶ月後。
最初の、事件が、起きた。
「ねえ、リリア嬢」
私が、図書室で、本を、読んでいた、その時——
三人の、令嬢が、私の前に、立った。
中央は、二年生の、サンタロー伯爵令嬢、ベアトリス。
両脇は、その取り巻き。
ベアトリスは、私と、ほぼ、同じ家門格だが、二年生で、上級生。
「貴方、ベルロワ・カーヴの、プロデューサー、ね」
「はい」
「それ、貴族令嬢として、恥ずかしくないの? 庶民相手の、芸能なんて」
——きた。
——保守派の、令嬢。
私は、ゆっくりと、本を、閉じた。
「ベアトリス先輩」
「何?」
「『庶民相手の、芸能』が、恥ずかしい、と、思う、その感覚は、いつ、身に、つけられました?」
「は?」
「ベルロワ・カーヴの、観客には、王太子殿下、王太子妃殿下、王太后陛下も、含まれます。神殿改革派の、マルセル神官も、観劇しています。それでも、『庶民相手』、と、お思いに、なりますか?」
ベアトリスの、頬が、紅潮した。
「……っ」
「そして、もう、ひとつ。私は、ベルロワ・カーヴで、月、金貨五千枚の、収益を、上げています。これは、サンタロー伯爵家の、年収を、超えています」
図書室が、静まり返った。
「貴方は、私の、何を、恥じていらっしゃるのですか? 教えてくださると、ありがたい、です」
ベアトリスは、唇を、震わせた。
そして——
「な、生意気よ! 一年生の、分際で!」
「ベアトリス先輩、私、ただ、お聞き、しただけです」
私は、にっこり、笑った。
——でも、内心。
——撃ち落とした。
ベアトリスは、両脇の、取り巻きを、引き連れて、図書室を、出て、いった。
私は、ふう、と、息を、吐いた。
その時——
「お見事」
声が、した。
振り返ると、図書室の、奥から——
ひとりの、男子生徒が、近づいてきた。
二年生。
プラチナブロンドの、短い髪。
青の瞳。
背は、高く、姿勢が、正しい。
胸の、紋章は、王家の、星。
——王家?
——え、王族?
「リリア嬢、初めまして」
男子生徒は、丁寧に、頭を、下げた。
「私は、ジャン・エドゥアール。エトワール王国、王太子の、長男です」
——!
——王太孫!
——次期、王太子!
「お会いできて、光栄です、ジャン殿下」
私は、深く、頭を、下げた。
ジャンは、ふっと、笑った。
「君の、ベルロワ・カーヴ、観たことが、ある。父上、母上と、共に。素晴らしかった」
「ありがとうございます」
「これからも、頑張って」
ジャンは、軽く、頷いて、去って、いった。
——!
——王太孫が、私の、ファン!
——よし、もう一個、味方、確定。
——貴族院、超、楽しい。
私は、心の中で、ガッツポーズした。
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