モンペリエ伯爵の申し出
「モンペリエ伯爵閣下」
私は、丁寧に、頭を下げた。
「ご提案、誠に、ありがとうございます。しかし、私は、ベルロワ子爵家の、養女です。お父様の、ご許可なく、別の、家に、移ることは——」
「分かっている」
伯爵は、頷いた。
「ベルロワ子爵閣下とも、既に、相談、済みだ」
——え?
私は、ベルロワ子爵を、見た。
ベルロワ子爵は、ほっと、笑って、頷いた。
「リリア、聞きなさい。これは、君の、未来の、ためだ」
「……お父様」
「君の、才能は、子爵家の、規模を、超えた。君が、これから、本当に、エトワール王国を、変えるためには、もっと、上の、貴族家の、後ろ盾が、必要だ」
「お父様……」
「私は、君を、養女として、引き取って、本当に、良かった。だが、君を、独り占めすることは、私の、愛情の、形では、ない」
子爵の、灰色の目に、涙が、滲んでいた。
「君を、もっと、大きな、舞台へ、送り出す。それが、私の、最後の、贈り物、だ」
「お父様……」
私の、目にも、涙が、滲んだ。
「君を、モンペリエ伯爵家へ、養女として、送る。そして、いずれ、もっと、上の、家へ」
「もっと、上?」
「ヴァランシエンヌ公爵閣下」
——!
——公爵。
——最終、養親。
「君は、いずれ、ヴァランシエンヌ公爵令嬢に、なる、運命、だ」
ベルロワ子爵は、静かに、頷いた。
「私は、そのための、最初の、踏み台」
「お父様、そんな……」
「リリア」
子爵は、私の、両肩を、握った。
「私は、君を、心の底から、誇りに、思っている。君は、私の、最大の、宝、だ。そして、君は、私の、家を、千倍に、する、約束を、本当に、果たしてくれた」
「お父様……」
「君は、これからも、私の、娘、だ。モンペリエ伯爵家に、行っても、ヴァランシエンヌ公爵家に、行っても、変わらない。私の、娘」
私は、ベルロワ子爵に、抱きついた。
「お父様……ありがとう……っ」
——お父様。
——私を、買い上げてくれた、最初の、人。
——私を、家族にしてくれた、最初の、人。
——絶対、絶対、忘れない。
——どんなに、出世しても。
——どんなに、上の家に、行っても。
——お父様は、私の、最初の、本当の、お父様。
その夜、ベルロワ子爵邸の、応接間で——
私と、ベルロワ子爵と、夫人と、オーレリアンと、レオンと、奉公人棟の少女たちは——
長い、長い、夜を、過ごした。
涙と、笑いが、混じる、夜だった。
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