# 閑話 オーレリアンの抱擁 〜オーレリアン視点〜
(語り:オーレリアン)
俺は、ベルロワ子爵邸の、リリアの、私室の、扉の前に、立っていた。
リリアが、戻って、もう、二日。
二日間、リリアは、誰とも、話さなかった。
誰とも、目を、合わせなかった。
食事も、ほとんど、口に、しなかった。
窓の、外を、ただ、ぼんやりと、見ていた。
俺は、扉を、ノックした。
「リリア、入っていいか」
返事は、なかった。
俺は、扉を、開けて、中に、入った。
リリアは、窓辺の、椅子に、座って、雨の、止んだ、空を、見ていた。
俺は、ゆっくりと、リリアの、隣に、跪いた。
「リリア」
「……オーレリアン」
リリアの、声は、嗄れていた。
「……ごめん。今、一人に、して」
「いや」
俺は、首を、振った。
「お前、二日間、ひとりだった。もう、十分だ」
俺は、リリアの、両手を、握った。
リリアの、手は、冷たかった。
「リリア。お前は、コレットを、救えなかった」
「……うん」
「だが、お前は、コレットの、人生を、輝かせた」
「……」
「コレットは、お前と、出会わなかったら、もっと、早く、死んでいた。誰にも、看取られず、誰にも、覚えられず、ただの、孤児として」
「……」
「だが、お前と、出会って、コレットは、ステージに、立った。歌った。踊った。ファンクラブの、ファンに、愛された。コレットの、踊りは、千人の、観客の、心に、残った」
「……うん」
「お前は、コレットの、人生に、意味を、与えた」
俺は、リリアの、頬の、涙を、優しく、拭った。
「だから、お前は、コレットに、誇りを、持っていい」
「……オーレリアン」
「ああ」
「私……あの男、絶対、許さない」
リリアの、目に、初めて、火が、灯った。
——よかった。
——リリアは、戻ってきた。
「分かっている」
俺は、頷いた。
「俺も、共に、戦う。お前の、復讐を、俺も、共に、する」
「……オーレリアン」
リリアの、頬を、また、涙が、伝った。
しかし、それは——
絶望の涙では、なく、決意の、涙、だった。
俺は、リリアを、自分の、胸に、抱きしめた。
——リリア。
——俺は、お前の、隣にいる。
——いつまでも。
——お前が、復讐する、その日も。
——お前が、改革する、その日も。
——お前が、笑う、その日も。
——お前が、泣く、その日も。
——いつまでも、隣にいる。
その夜、初めて、リリアは、俺の、胸の中で、眠った。
俺は、その、寝顔を、夜明けまで、見守った。
それは、二年間、地下牢で、待ち続けた俺の、初めての、本物の、夜だった。
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