劇場「ベルロワ・カーヴ」設計
「劇場? そんなもの、街に、ないわ」
夫人——アンナベル様——が、驚いた声を、上げた。
「神殿の聖歌堂か、貴族の、私邸サロンしか、人前で歌う場所、ない、もの」
「だから、作るんです」
私は、にっこり、笑った。
「庶民も、貴族も、入れる、新しい、専用の、歌と踊りの、劇場を」
ベルロワ子爵が、顎を、撫でた。
「リリア、それは、莫大な、投資が、必要だぞ」
「分かっています。でも、回収は、確実です」
私は、紙と、ペンを、取り出して、計算を、始めた。
「客席、五百席。一席、銀貨一枚の、入場料。一公演、銀貨五百枚。月、十公演で、銀貨五千枚。年間、銀貨六万枚」
——金貨で、六百枚。
子爵の、灰色の目が、光った。
「初期投資は、たぶん、金貨千枚。二年で、回収」
「……」
「お父様、私、これ、本気です。今すぐ、始めましょう」
子爵は、長く、考えてから——
「分かった」
頷いた。
「私の、貯蓄から、金貨千枚、出す。ただし、設計と、運営は、君が、責任を持って、進めること」
「もちろんです」
私は、深々と、頭を下げた。
——よし。
——劇場、決まった。
その夜から、私は、グスタフと、子爵邸お抱えの、建築家と、毎晩、設計会議を、開いた。
「劇場の名前は、『ベルロワ・カーヴ』」
「カーヴ? ワインの、貯蔵庫の意味、ですよ?」
建築家が、戸惑った。
「うん。私たちの、推しを、貯蔵する場所、だから」
「……は?」
「気にしないで。とにかく、その名前」
私は、笑顔で、押し切った。
設計の特徴は、こうだった——
1. **馬蹄形の客席**:観客全員が、ステージを、よく見えるように
2. **二階のバルコニー席**:貴族専用の、上等席
3. **舞台の照明**:照明魔石、二十個、設置
4. **音響**:拡声魔石を、舞台、客席、両方に
5. **楽屋**:タレントごとに、個室
6. **ファンクラブ受付**:入口に専用カウンター
「ファンクラブ?」
建築家が、首を、傾げた。
「説明、長くなるから、後で」
——ファンクラブの概念、まだ、ないんだもんね、エトワール王国に。
私は、心の中で、頷いた。
——じゃあ、私が、作る。
劇場は、貴族街の外れ、しかし、下町からも、徒歩圏内の、ちょうど、いい立地に、建設が、始まった。
工期、半年。
その間、私は、別の、たくさんの、準備を、進めた。
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