表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/84

プロローグ 私の最後の願い

『——以上、本日の最終投票結果を発表します!』


スマホを握りしめたまま、私は横断歩道の信号が変わるのを待っていた。


夜の十一時。

仕事終わりに駆けつけたライブの帰り道。

イヤホンの向こうで、私が三ヶ月間命を懸けて推してきたサバイバルオーディション番組の最終回が始まっていた。


『センターは——』


「お願い、お願い、お願い……っ」


私は両手を組んで祈った。

推しが、私が見つけた、私が愛した、私の最愛の推しが。

最初は無名の練習生だった。

誰も注目していなかった。

でも、私は彼の歌声を聞いた瞬間、確信したのだ。


——この子は、絶対に世に出る。


『——センターは、7番、ジュンくんです!』


「やった……っ!」


涙が出た。

ガッツポーズもした。

たぶん、傍から見たら完全に変な人だった。


でも、いいのだ。

私の推しが、オーディションサバイバル番組で頂点に立った。

デビューする。それ以外のすべては、どうでもよかった。


信号が、青になる。


私は涙を拭いながら、横断歩道に足を踏み出した。


——だから、よそ見をしていた。

——だから、突っ込んでくる軽トラックに、最後まで気づかなかった。


衝撃。

浮遊感。

痛みは、不思議とあまり感じなかった。


ただ、アスファルトに横たわった私の耳に、まだイヤホンから漏れていた歌声だけが、はっきりと聞こえていた。


ジュンくんの、デビュー曲。


『——ぼくを、見つけてくれて、ありがとう』


ふわっと、視界が白くなる。


——ああ。

——私、死ぬんだ。


二十八年間、推し活に全てを捧げてきた人生だった。

彼氏なんていなかった。

結婚もしていなかった。

お給料は全部CDとグッズと現場代に消えた。


でも、後悔はない。

推しを推せたから。

推しが世に出る瞬間を見れたから。


ただ、ひとつだけ。


——次に、生まれ変わったら。


意識が、薄れていく。


——次も、誰かを推せる人生でありますように。

——心から推せる、そんな人に、また出会えますように。

——人生をかけて、推しを幸せにできますように。



それが、結城ゆかり、二十八年間の人生最後の願いだった。

挿絵(By みてみん)


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ