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学園の講師

「幼少期の貴族の為の学園?」

「然り」


 宰相様から聞かされた話は、俺に学園の講師をしてもらいたいということだった。


「いや、俺元の世界でも講師なんてやったことないですけど」

「元の世界の経歴は重要視されていない」


 そういう問題じゃない。


「そうではなくて、向こうの世界でも教えるなんてことしたことが無い俺が、この世界の常識もままならないのに何かを教えることなんて出来ませんよ」

「貴殿に助力頂きたいのは常識や勉学ではない、道徳なのだ」

「道徳?」


 むやみに人を殺してはいけません、的な?


「我が国は大国であり、その分貴族というのも数多く在る。今までは国王の管理下により言論統制及び思考誘導も問題なく行われていたが、最近はその子供が問題を起こしていることが多いのだ」

「…つまり?」

「親が甘やかしすぎたり、逆に厳しくしすぎたりしたために我儘を言ったり、高潔という意味をはき違えて民衆に過剰な要求をしている」


 要するに、親が育て方を間違えた結果、問題児が多いということか。


「貴族当主に規制をさせることは出来たけど、子の育て方にまでは口を出していなかった、と」

「そういうことだ」


 そして、その尻拭いを俺にやってくれと?


「何故俺に?」


 そもそも俺にそんな大事を任せる理由が分からん。


「君はこの1週間ほどで、私の息子やソウゲン君に随分と懐かれているね」


 王様が口を挟んできた。懐かれたことが何だというのだろうか。


「はぁ、まぁ」

「子供の扱いにとても慣れているとルードヴィッヒからも報告があってね。他の貴族達とも話し合った結果、以前から問題視されていた貴族の子息を任せてみようということになったのさ」

「それで、一か所に纏めるための学園ですか」


 なるほどなぁ。だが、やはり俺は異世界人。偏に道徳と言っても、国どころか世界が違えば大きな隔たりがあるだろう。そのことを問う。


「確かに、単純に何が悪いという事を教えるだけではないな」

「では、彼にはこの国の法を学んでいただきましょう」

「は?」


 道徳を教えるのにこの国では弁護士の資格でも要るのか?


「全ての法を覚えろということではありません。道徳とはいわば簡略化された法とも言えましょう」

「まぁ、言いたいことは分かります」


 悪いことをしてはいけない、の悪いこととは、結局は法律違反のことを言う。人を殺すな、というのも、日本では完全な悪とされているからだ。アメリカとかに行けば、もしかしたら身の安全を最優先にしろという道徳になるのかもしれない。他にも因果応報とかを教えることもあるが、まあ法を破ったら罰せられるということでもあるしな。


「では、これから1月ほど学んでいただきます」

「うーん…」

「まだ何か?」

「いや、俺としては子供に道徳を教えるのは構わないんですけど、幼少ともなれば親元から離すのに抵抗があるんですよ」


 講師がなんと言おうと、教わったことの是非を子供に馴染ませるのは親の役割だ。我儘はいけませんと教えても、親がそんなこと聞く必要がない、と言えば子供は親の言う事を最優先する。


 例えが悪いが、要するに子供にとって親とは絶対権力者であり、目指すべき場所であるという認識なんだ。まぁ、親元から離れて暮らす不安というのもあるだろう。ストレスは過剰に与えるべきではない。


 そんなことを伝える。


「ふむ…逆に言えば、親元に毎日帰るということが出来れば、貴殿は問題ないということで?」

「ええ、そういうことですね」


 この国の大きさがどれほどかは分からないが、以前街を見に行った時道を行き来していたのは馬車だった。大国というほどであれば、馬車だと片道だけで1週間以上かかるような場所もあるだろう。ハッキリ言って、不可能だと思う。

 そうした遠くの子供は参加させない、と言う事なら分かるが。貴族社会という交流が重要視されている中で、学園というのは学び舎であると共に自身の交流を増やす場でもある。成人した後は輪の中から外れるという事でもあるから、単純にはいかないだろうと思うが。


「では、王よ。転移魔術の設置許可をお願いいたします」

「うん、次の会議で掛け合おう」

「は?」


 転移魔術?あの、漫画やラノベの世界では色々問題のある?


 魔術ってそんなことも出来んの?


「あの…」

「何か?」

「転移魔術って、俺の中の知識だと遠い所を瞬時に移動する魔術ってことなんですけど…」

「然り」

「こう、問題があるのでは?転移が出来ることを他の国が知れば、それを悪用されないようにとか言う理由で戦争とか…」

「はっはっは、君はどこでそんなことを知ったのか、気になるね」

「あっ、じゃあ問題ない…?」

「いえ、貴殿の言う事も過去にありました」

「え!?なら、学園の為になんてことに使うべきじゃないんじゃ…」

「手続きは面倒ですが、手順を踏めば設置することは問題ありません」

「手続き…」

「まずは国王と要職を担う貴族との会議で賛成を過半数得た後、近隣諸国へ設置報告。ここで何か理由があれば諸国が設置を却下することも出来ます。一国でも却下があれば、その国と交渉。すべての国から許可が下りれば、設置することになります」


 うわ、くっそ面倒くさそう。


「それって設置までどれくらいかかるんですか?」


 場合によっては数年くらいはあるだろう。それまでは学園が開けないことに…


「1月あれば問題ないでしょう」

「1月!?」


 は!?だって、近隣諸国と話合うんだろう?そうなると馬車で移動するだろうからそれだけでも相当時間かかりそうだし、そこから国同士の交渉なんて時間かけてゆっくりやるものでは…?


「近隣諸国へは手紙を送る為の相転移魔術陣がありますので時間が短縮されています。又、交渉と言えどよほどのことが無い限り、我が国相手に却下を出す国はないでしょう。平和的利用のための魔術陣設置を報告しているのですから、却下したほうが何か企んでいるのではないかと我が国のみならず周辺諸国でも警戒されます。何より、諸国の我が国への信頼はかなりのものであると自負しておりますので」


 宰相様が捲し立てるように話してくる。要は、信頼関係あるのに却下するたぁどういうことだ的なことになるのか。


「な、成る程。それであれば問題ないですね…」


 思わず苦笑してしまう。宰相様この国大好き人間だな。いい人だと思うよ、うん…。ちょっと暑苦しいけど。

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