刃と、カノプス壷
男が目を覚ましたのはまた、白い部屋の中だった。
今度ばかりはベッドの上で寝ていたし、棚には枯れない花が飾ってあった。以前と違う、きちんとした病院だった。男は戸惑いながらも、そっと起きあがる。下っ腹と右肩に空白感と無気力がわだかまっていた。
左腕を使って、薄い上掛け布団を除け、手術着をずらす。ぽっかりと内臓には穴が開いてしまって、すべて透明な管が内臓と取り替えられていた。破片を取り除くのも面倒だからと、大雑把に取り替えてしまう。例え、ほとんど器官が治る見込みがあっても変えてしまうことがある。
「良かったですね、これでもう盲腸の手術も、胃ガンの心配もない」
彼の脳の奥で誰かがそう、言って笑った気がした。男は首を振ると右袖を肩までめくる。透明な筋肉とうっすらと白み掛かった骨が、趣味の悪い解剖図のように見える。代わりに作られた生体器官だろう。
触ってみればプラスチックめいたつるつるした材質で、まだ体に合ってはいないようだ。これでは大きな血管もやられたのだろう。右腕をひいてみれば、がっちりとくっついていた。ため息を緩やかにはき出して、額を撫でるとまた、つるつると滑った。
力を入れればキュッと鳴る。これも、やはりこれも代わりに出来たものだった。
「いけませんよ、そんなことしちゃあ」
近くにいた看護婦にぐっと腕を捕まれた。そして突き出すように、杖を押しつける。
「あの事故で生き残ったんですから。しばらく安静にしてください」
看護婦は袖を下ろして右腕を無理矢理隠す。キュッキュと甲高い音が鳴った。こんなもので、生かされている。それにカミソリを握っていた指先をいじった。何度やっても指との間には、痛みは探せなかった。




