トリフト領にて6
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二階の部屋から飯を食べるために、宿の食堂部分である一階へと降りてきた。ただそれだけのはずなのだが、サラや冒険者達のせいでかなり疲れた。
サラに案内された隅っこのカウンターで俺はだれてしまっているが、ユキトはまだ余裕がありそうだった。その事にチクショーと思いながら少し待っていると、ようやく料理が運ばれてきた。
食いっぱぐれる事無く、無事に夜飯を食べられることに安堵したが、料理を運んで来た人を見てため息が出そうになった。
「そんなに嫌そうな顔しないで下さいよー!」
「い、嫌そうな顔なんてしていませんヨ? サラに料理を運んでもらえてワタシ、スゴクうれしいなー」
「えー、まあいいですけど。冷めないうちにお召し上がりください」
またもや会場のボルテージが上がりそうになった気がする。が、ようやく飯を食べられるのだ。ボルテージなんて知ったことか、もう睨まれようが何と言われようがガン無視で食事だ。
目の前にはサラが運んできた野菜料理が並べてあった。
先程から客が注文していたらしい野菜炒めと野菜スープ、何の肉かはわからないが肉を葉野菜で包んだもの、パン、という献立だ。
「いただきます」
「はい、どうぞ!」
まずは野菜スープだ。先程からどの料理も美味しそうな臭いを漂わせているが、特にこの野菜スープが「俺を食せ」と激しい主張をしていた。
その誘惑に負け、まずは一口。
気づいたらどの料理も綺麗になくなっていた。なんというデジャブ。
「マサキ、君はお腹が空いていると超高速で食べるのか、美味しいものを超高速で食べるのか、どっちなんだい?」
「マサキすごくいい食べっぷりだったね!」
食べ終わった俺を、呆れた顔で見ているユキトと笑顔のサラが見ていた。
ユキトの皿にはまだ半分以上料理が残っていた。
「たぶん両方…」
「もう少し味わって食べても良いと思うのだが」
「私が作ったんじゃ無いんだけど、作った側としてはこんなに必死に食べてもらえるのも悪くないです」
そもそも、ただの学生が日ごろ食べるものなんて親が作ってくれる家庭料理かコンビに飯、あとはカップラーメンやジャンクフードくらいだ。それに比べ、ユキトの家で食べた朝食や、ここでの食事は元の世界でも食ったことが無いくらい美味い飯なのだ。そこに空腹というスパイスが加われば、自然とガツガツと食べてしまうものではないだろうか。
食について少し考えてしまったが、そういえば何故サラがまだここにいるのか。
「そんな、何でお前まだいるんだよ、みたいな顔しないで下さい!」
「…」
「新規のお客様に料理の感想をいただこう。あとついでに、マサキとユキトさんは何で冒険者になろうと思ったのかなと思って」
「料理は美味かった、うん、美味かった…」
「マサキには期待してなかったって言うべきか、期待通りと言うべきか」
「おい!」
味わって食べたわけではないが、美味かったというのは事実だ。だから正直に美味かったと言ったのに酷い言い様である。
そもそも素人に料理の感想なんて聞いたって美味いか不味いくらいしか出ない、おそらく。
「ユキトさんはどうですか?」
「そうだな、ハッキリ言うとスープのレベルを落とした方が良いと感じた。他と比べると美味しすぎる。他が美味しくないというわけでは無いのだが、このスープの後に食べるとどうしても物足りなく感じる。他の料理も十分美味しいので、それらに合わせたレベルのスープを出した方が他の料理を今より美味しく食べられるのではないだろうか」
ユキトの言葉に最初、少し会場のボルテージが上昇した。しかし、現在は皆「確かに」等と言っている。
美味ければ何でも良いじゃないかと思ってしまう俺は、この会場の雰囲気に乗り遅れてしまっていると感じる。
「なるほど、そういう考え方もあるんですね! 参考にさせていただきます! それで、お二人はどうして冒険者に?」
おとーと一回相談してみよう、と聞こえた気がする。が、それを指摘する前に会場が静まり返り、ユキトに視線が集まる。
ここにいる冒険者達の一致団結にっぷりに若干ひく。
「私は小さな頃に聞いた勇者の昔話が忘れられずに、この歳まで勇者に憧れ家を出たただの親不孝者だ」
そう言ったユキトの瞳からは力強い意気込みのようなものが感じられる。
回りの冒険者達もバカにしてる雰囲気は無く「俺も勇者に憧れて冒険者になった」という声が聞こえる。
「マサキは? 聞くまでもなく奴隷解放目指してかな」
「「「「それ以外ねーだろ」」」」
「うっせ、その通りだよチクショウ!!!」
この場にいるほとんどの冒険者に笑われ思わず叫んでしまい、さらに笑われるという状況。
さっさと奴隷を抜け出してこいつらを見返してやる。
「ちなみに金額は?」
「金貨8000枚。ユキトに渡すのも含めて金貨16000枚」
金額を言った瞬間、今日一番の爆笑が起こった。
「私は! 私はマサキなら稼ぐ。そんな気がする!」
何か言い返してやろうと口を開こうとした瞬間、先にサラが声を張り上げていた。
あれ、サラが魅力的に見えてきた気がする。
「ま、何となくだけど!」
「おい、俺の感謝を返せ!!!」
「感謝とかもらってないもん!」
店内に冒険者達の笑い声が響いた。
サラがどう思って稼げると言ってくれたのかはわからない。だけど、それで少し気が楽になったのか、俺はその冒険者達の笑い声に混ざり、笑い声をあげていた。