追憶の迷宮1
正面にとても大きな神殿が見える。
エレナさんの転移魔法で転移してきたのだが、ここはどこだろうか。周りを見渡した感じ場所はテラスで正面の神殿に勝らずとも劣らない大きな屋敷の一部である。
「ようこそルーデンドルフ領へ。気づいていると思いますがここはルーデンドルフ家の屋敷です。そして街の中心にあるあの大きな建物は大神殿、超巨大ダンジョンである追憶の迷宮の入り口です」
なんとなくそうだろうな、と思っていたがどうやらその通りだった。ここがエレナさんの実家であるルーデンドルフ家の屋敷だということはなんとなく想像していた。しかし、ダンジョンの入り口が街の中心部にあるということに驚いた。
「ダンジョンから魔物が出てきたりしないんですか?」
「稀にですが魔物が出てきてしまうことはあります。なのでそういう場合の対処をするための大神殿です。と言っても本当に稀で、出てきても浅い階層のゴブリンなどが数匹です。それくらいならば居合わせた冒険者や常駐しているギルドの職員で対処できますし、この街の衛兵も常駐しています」
つまり不足の事態が起こってもどうにでも対処できるということか。
「さて、ここであまり長話をしていても仕方がない。百聞は一見に如かず、だ。実際に準備しながら自分の目で見て確かめれば良い」
「お、おう」
「ユキト様、私は誤魔化せませんよ? 勇者への憧れはよろしいですが、無謀な挑戦はやめてくださいね?」
そう言いながらエレナさんは扉を開いて部屋に入っていく。それをユキトが「ああ、わかっている」と言いながら付いていく。そしてユキトがこちらを向いて俺の名を呼んだのだが、そのときのユキトの顔は苦笑いだった。
エレナさんとユキトに続いて部屋に入ると部屋ではなく巨大なホールだった。左右に1階へ降りる階段があるのだが、こういう階段って何故2つもあるのだろうか。階段なんて1個でよくない? と思うのだが。
なぜ2つもあるのだろうかという疑問だが、一応こういう理由かな、というものはある。ズバリ左右対称にするためだ。どこかで左右対称は美しいと言っていたような気がする。まあこんなこと当たっていても外れていてもどうでも良い。
「クライス、戻りました」
「久しいなクライス」
「おかえりなさいませエレナ様。ユキト様もお久しぶりでございます」
「戻ったばかりですが今から街の方へ行ってきます。お父様にお話ししたいことがあるので今夜は帰ってきますが、明日から当分の間ダンジョンに潜るのでそのつもりで」
「かしこまりました」
階段を眺めてあーでもない、こーでもないと考えていると、いつの間にか現れた執事さんとエレナさんが今後の予定について話していた。
ホールへ入った所で考え事をしていたため、ユキトたちとは少し離れていた。その距離をさりげなく詰めてユキトの近くへと近寄っていくが、バッチリと執事さんに見られていた。
「エレナ様、この方が?」
「そうです。ユキト様の奴隷のマサキです」
「初めまして、マサキです」
何やら紹介されているようだったので頭を下げる。
「ルーデンドルフ家で執事をしておりますクライスです」
そう自己紹介してくれたクライスさんに少し気後れする。
クライスさんは物腰が柔らかいのだが…それでも威圧感がものすごい。金髪は短く刈り上げられ、今にも服が張り裂けてしまいそうな程盛り上がった筋肉。
「ク、クライスさんって昔は傭兵とかやっていたんですか?」
「いえ、幼少の頃から先代当主様に使えておりましたが」
「マサキさん、クライスの筋肉はただの趣味です」
いやいやいや、ただの趣味でここまでの威圧感は出せないだろう…。
「ええ、いざというときに御当主様やその御子息様を御守りできるよう、少し趣味で体を鍛えております」
鍛えている理由は理解したが「少し趣味で」程度ではないと思うのだが、きっと気のせいなのだろう。
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クライスさんが馬車の手配をしようとしたがエレナさんが断り、歩いて大神殿へ向かう。エレナさんの屋敷から大神殿まではそれなりに離れているのだが、俺にルーデンドルフの街を案内するということで徒歩になった。
大神殿で大抵の物は揃えられるらしく、エレナさんは必要なものを大神殿で揃えるのだと思っていたようだが、ユキトが寄り道を提案していたのもあるかもしれない。
まず最初に立ち寄った店は魔術具を取り扱っている店だ。
ダンジョンに挑むなら拡張鞄、いわゆる魔法の鞄が必須なようで、ユキト自身の分だけではなく俺の分もユキトが買ってくれた。容量はあまり大きくないとユキトが言っていたが、それでもこの店では一番容量が大きいもので、クローゼット3つか4つ分くらいの容量らしい。
この店で拡張鞄以外で使えそうなものを探していたが、総じて値段が高く、他の魔術具は買うことなく、この店では拡張鞄だけを買い、他の店へ行くことになった。
ちなみに一番使えそうだと思った魔術具は念話リングという離れている相手と会話できる道具で、なんとお値段金貨800枚。日本円で8,000万円である。
「なあユキト、こんな高価なもの買ってもらってよかったのか? というか金もそんなに持っていなかったんじゃ…」
念話リングほどではないが、拡張鞄も金貨20枚とかなり高価なものだった。
「大丈夫だ、そのうちマサキから返してもらうのでな」
「ちょ!?」
いつの間にか借金が増えていて、思わず声をあげてしまった。
それを聞いていたエレナさんは笑っている…。
「そのうちで良いぞ」
「リョ、リョウカイデス」
借金が増えるのはしょうがないが、せめて事前に言っておいてほしかったです。「お前の借金増えるぞ」と。
「それと金は昨晩屋敷に戻ったときに少し持ってきた。あまり持ち出したくなかったが、そもそもまだダンジョンに挑む予定ではなかったのだが」
そう言いながらユキトがエレナさんに視線を向けるので、それに釣られてエレナさんの方に俺も視線を向ける。そこには先程笑っていたエレナさんではなく、ニコニコしているエレナさんがいた。
きっと昨晩いろいろあったのだろう。俺は知っている、藪蛇という言葉を。何も聞くまい。
「とにかくマサキはまだ戦闘になれていない。しっかりと準備してダンジョンに挑むぞ」
そう言いながらユキトは次の店に入る。そこは魔術具の店と少し雰囲気が似ていた。
「ポーションやロープ、砥石などダンジョン用雑貨を取り扱っている道具屋です」
店内を見回していると同時に入ったエレナさんがこの店について教えてくれた。
先程の店とは違い、俺たち以外にも客が入っている。ダンジョン用雑貨ということは、ここにいる人たちも皆ダンジョンに挑む人たちなのかと思ったがそうではないらしい。冒険者以外の人が仕事で使う道具を買いに来ていたり、冒険者だがダンジョンではなく街の外へ出る準備で買い物に来ていたり、いろいろな人が立ち寄る店だと教えてもらった。
エレナさんに店内を案内してもらっている間にユキトが必要なものをだいたい買い揃え、次の店に行くことになった。
次は食料らしい。そう聞いた途端に腹が鳴った。
「そろそろ昼飯にするか」
「そうですね、私のお勧めでよろしいですか?」
そう言いながら二人が暖かい目を俺に向けてくる。
「ハイ、オネガイシマス」
確かに俺は遅めの朝食だった。それでもお腹はすくのだ。そんな目で見ないでほしいと思いながら歩き出した二人を追いかけた。
読んでくださった方に感謝を。
そして始まった新章、追憶の迷宮編? いいえ、私的にはまだプロローグの一部です。
今後もよろしくお願いします!




