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異世界転移なんてありふれている  作者: たかしゅー
ラントヴァッサ王国
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トリフト領にて12

 食事が終わると、料金は朝のうちにユキトが支払っていたので俺はそのまま二階の部屋へ戻ってきた。

 ユキトとエレナさんはギルドへ寄ってからトリフト家で話し合いらしい。

 置いて行かれた俺はおとなしく寝ようと思うのだが、現在、疲れているのに眠れないという状況だった。

 魔術の確認、ゴブリンの討伐、ユキトの婚約者の登場。今日起こった出来事で眠れない原因はやはりゴブリンの討伐か。

 俺は魔術を離れたところから撃っただけだ。ユキトのように近づいて切り殺したわけではない。むしろ斬り殺していた方が見栄え的には良かったかもしれないが。

 今日起こった出来事を思い返していると全然眠れる気がしないので別のことを考えようとするが、静かな部屋に一人でいるとどうしてもゴブリンが思い浮かんでしまう。


「外出るか…」


 気分転換になるかどうかわからないが一人部屋に籠っているよりかはマシだろう。

 さすがに部屋着のまま出るわけにはいかないので、着替えて部屋を出てそのままベジタブルの一階に降りた。


「あれ、サマキどうしたの?」


「寝ようと思ったけど寝れないから散歩にでも行こうかと」


「スラム街とか行っちゃダメだよ、いってらっしゃい!」


「おう」


 ベッドの上でだらだらしている間に時間はそれなりに過ぎていたようで、食堂には少し空いている席が見えた。それでもぎっしりと詰まっている時と比べれば空いていると感じる程度で、まだまだ客の冒険者達は野菜を頬張るのだろう。

 ベジタブルの繁盛っぷりを横目にベジタブルの扉を開く。ギルドなどが立ち並ぶ大通りのためか、そこにはまだ多くの人通りがあった。

 この世界、魔術があったり魔物などがいるからといって常時危ないイベントが起こったりするわけではなく、夜も街灯に照らされ人々は行き交う。

 もちろん日本ほど治安がいいというわけではなく、裏路地やスラム街まで行くと犯罪に巻き込まれることはあるらしい。ここに住む人々はそれを知っているので、昼夜問わずそういった場所には近づかないが。

 そして例外はもちろんある。魔物のコロニーなどがその例外だ。

 つい今日のことを思い出し頭を振る。気分転換のために外に出るのだ、余計なことは明日に考えればいいということにし、ベジタブルから一歩外へ踏み出した。


---


 前言を撤回しよう、やはり異世界、日本と治安の良さを比べることが間違っていた。

 俺は夜市に来ていた。この世界では夜市に新鮮なものが並ぶらしい。

 新鮮なものと言っても、主に売られているのは素材。冒険者が取ってきた素材などがその日のうちに売り出される場所が夜市だ。もちろん雑貨屋や食事ができる屋台などもある。

 その夜市の場で盗みがあったようで先ほどから騒がしくなっていた。

 騒がしいといっても現在進行形で捕り物が行われているわけではなく、すでに犯人は捕まっている。そして俺が治安のが悪いと感じるのは捕まえた後のことだ。

 犯人を捕まえたおっさんが、その犯人に暴行を始めたのだ。



「ごめん…なさい…ごめ…」


「何がごめんなさいだ? スラムから出てきたことか? あ?」


 そう言いながらおっさんが地面にうずくまる少年を蹴りつけ、周りの人達がそれを囃し立てる。

 ポツンと佇んでそれを見ているのは俺だけで、それに加わっていない他の人は何事もないように通りすぎていく。


「…」


「おいなんだ、ごめんなさいも言えねーのか?」


 少年は既に何も言えないくらいボロボロなのだろう、少年から言葉は無くなり、おっさんや周りの野次馬が笑う声が大きくなる。

 それを見ていると怒りが沸いてくる。おっさんになのか、周りの野次馬になのか、少年になのか、それとも見ているだけの自分になのか…

 いつの間にか拳を握り、一歩踏み出していた。

 このまま少年とおっさんの元へ行こうとしたが、急に腕を捕まれた。


「お兄さん、それはいけないわ。あの子を蹴りに行くなら止めないのだけれど…あっちを殴りに行くのはダメよ」


 振り返ると昨日出会った青い髪のお姉さんだった。


「少年を蹴るのはいいんですか?」


「スラムの住人は人間ではない」


「え?」


「スラムの住人は人間と認められていないのよ」


 ユキトにはスラムの者と関わるなと言われていたが、人間と認められていない―――人権が無いとまでは教えてもらっていなかった。


「正確にはスラム街でのみ最低限の人権を保有する、だけれど。そもそもあの子はスラムから出るべきではなかった。ましてや盗みなんてもってのほかよ」


 少年の方を見ると鎧を着た衛兵が来ており、ぐったりした少年を肩に担いで夜市から出ていこうとしていた。

 そして少年を蹴っていたおっさんや野次馬達も、何事もなかったかのように人混みに溶けていった。


「これもこの世界の顔の一つ」


 衛兵に担がれた少年を見ているとそう声をかけられた。

 少年を見捨てるのがこの世界では正しい。そう教えられても、納得なんてしたくないという気持ちがある。

 だが、俺一人が騒いだところでどうにかなる問題ではないだろう。


「この世界で自由になったお兄さんは何がしたいのかしら?」


「俺は…」


 自由になったら、なんて考えたことがなかった。幸いなことに、俺は奴隷の身分でありながらほとんど自由なのだから。

 ユキトは勇者に憧れ、目指している。一方、俺には目指しているものなど何もなく、何かやりたいこともパッと思い付かない。


「そういえばまだ名前、教えてなかったわ。私はハクア。よーく考えて、この世界で何がしたいか答えが出たら教えてね、マサキくん。」


 ゴブリンとの初めての戦闘やスラムの少年のこと。今日という一日は、間違いなく俺の心にトゲとなって突き刺さったと思った。

 そして気づいたら青い髪のお姉さん―――ハクアさんの姿はどこにもなかった。

読んでくださる方がいる、それが私の喜び!

ありがとうございます!!

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