寂れた料理屋に囚われた男
賑わいを見せる繁華街に影を孕み、存在していることが場違いな店。
誰もが距離を置いて歩くほどのボロい店の前で、ヨムカとヴラドは並んで立っている。
「まぁ、味はそこそこ美味かったしな」
「たまに食べたくなるんですけど、ね」
豪快に扉を開け放つヴラドが先陣を切って入店。続くヨムカは店内に視線を巡らせ、やっぱりかと納得する。
「親父、また来たぞ」
話し声も調理の音も聞こえない静まり返った店内の奥から、愛想の無い男がヒョイと顔だけを覗かせ、てきとうな席に座ってろと言いたげなアイコンタクト。
「また、お前等か……注文は何にする?」
「おっ? 今日はちゃんと喋るんだな」
「俺だって喋る事もある。今日は気分がいいだけだ」
「へぇ、ソイツは良い事だ。んで、その良い事ってのはなんだ?」
注文をするでもなく、まるで友人と語り合うような口調でヴラドが店主に問う。前回のように無視するでもなく、睨み付けるでもない。憑きものが落ちたような安息に満ちた……いや、どこか諦観したかのような顔つきだ。
「この店も先代から続いて二十六年。ようやく、その歴史に幕を下ろす時が来たんだ」
「閉めるのか?」
「……ああ、やっと閉められる。俺もようやくお役御免となって解放される」
「えっと、まるでそうなることを望んでいたように聞こえるんですけど……」
ヨムカは疑問をそのまま伝えた。
「先代からの言い付けでな。創業二十六年が経ったらこの店を閉めて欲しいって頼まれていたんだ。その間俺は、この店を一人で守って来た。来る日も来る日もこの厨房に立ち、いつ訪れるか分からない客を想定しながら、一人じっと……な」
「守りたいならもっと接客態度を改めて、客足を増やした方がよかったんじゃねぇか? そうすりゃ、こんな寂しい状態で閉める必要も――」
「繁盛してみろ。この店で食う飯を楽しみにしている客を裏切る様に閉店させられねぇだろ」
「繁盛したなら、続ければいいのに……」
いくら先代の願いでも、店を任されたなら今後の方針は現店主に決定権はあるはずだ。続けたいなら続ければいい。そう思うヨムカに店主は首を振るう。
「言っただろう。俺も解放されるってよ……おっと、おしゃべりはここまでにしておくか。注文言いな」
これ以上の追及を拒むように店主は話を無理やりに切り上げる。
「んじゃ、オススメで頼むわ。俺もコイツも腹が減ってるんだ。てきとうに作ってくれ」
「ふん、貴族のボンボンの注文はいつもそうだな。余ったら残せばいい、料理に対する感謝の念ってもんがなってねぇ」
「んあ? 誰も残さねぇぞ。出されたものは完食する」
「もし、俺が作り過ぎたらどうすんだ?」
「そしたら、俺はお前の考え方を否定するな。いくら腹が減ってても限度ってもんがあるだろ? 少量しか出されなかったら追加すりゃいい。馬鹿みたいに出されれば……あ~、まぁ完食はする」
「ふん! どうやら、そんじょそこらの贅沢したいだけの無能貴族とは違うらしいな。けっ、俺も馬鹿じゃねぇ、二人でちょうどいい位で出してやる」
店主はニッと始めて見せた笑顔。
とても表情が引きつっていたが、楽しそうだ。
「んで、いつ閉めるんだ?」
「今日だ」
それだけ言い残して厨房の中へと姿を消し、間もなく、何かを炒める音と、食欲を掻き立てる匂いが店内に行きわたる。
「先輩、あの店主って」
「言うな。ただ黙って出来たモンを食えばいいんだ」
ヨムカは黙る。
これから運ばれてくる料理はどのようなモノなのか。
ヴラドは懐から一冊の本を取り出し、ペラペラとページを捲っている。どうやら、いつも読んでいる小説とは違うようだ。
こんばんは、上月です(*'▽')
投稿が一日遅れてしまった……。
次回は10日か11日を予定しております!




