因果創神器を隠さねば!
「んふふ~、ふぅ……」
朝から上機嫌だ。
ヨムカは、オンボロアパートに置かれた机の上に昨夜入手した因果創神器を眺めていた。時折、手に持ったり、文献に記された使い方を熟読していたら朝になっていた。
「もう朝か。少し仮眠を取った方が良いよね。でもなぁ……」
視線は因果創神器――捕縛影の短剣に注がれている。
伝説級の代物。
国家の宝物庫を全て投げ出しても手に入らない物が、いま目の前にあるのだ。この存在を表沙汰にするべきではない。それもそうだ。一国のどの財すら霞む至高品が小娘の手の内にあるとなれば、これを狙って刺客を差し向けてくるかもしれない。もしかすると仲間を人質に取られたり、と危険に巻き込んでしまう可能性だってある。
これを手放す気はない以上、この事はヨムカだけの秘密にしていなければならない。
「クローゼット、ベッドの下、机の引き出しの中……駄目だ、どれも駄目だ。もっと、人目に付かない所は……ん?」
棚の中から包帯を取り出し、短剣の柄と鍔に撒き付ける。
「こうすれば普通の短剣にしか見えない。うん! 問題はなさそう」
腰ベルトに携えれば、どう見ても因果創神器には見えない。
「さてと! まずは、朝食か……な?」
扉をノックする音。
隣人さんの部屋をノックしているのかと思ったが、どうやら自分の部屋を叩いているようだ。一体誰が、どんな理由でヨムカの部屋に訪れたのだろうか。直ぐにその答えを導き出す。
「ま、まさか!! 私の因果創神器を奪いに!?」
学院指定制服の上から、これまた学院指定の黒いコートを着て短剣を隠す。
「ど、どちら様ですか!」
そっと扉を押し開く。
「おっ、起きてたか。悪いが部屋に居れてくれないか?」
扉の奥にはヨムカの所属する魔術強襲七八部隊隊長ヴラド・カッセナールの姿。
「せ、先輩!? ど、どうして私の部屋に?」
「ん、いやぁ、まぁ親父と色々あってな。ロノウェの家に逃げんのもいいかと思ったんだが、貴族の繋がりはめんどくせぇし、ヨムカの家でいいかと思ってな」
頭をポリポリと掻きながら邪気の無い笑顔を向けるヴラド。
開けた時と同じように、そっと扉を閉めようとするヨムカ。
「おっと、タダで匿ってもらおうとは思ってはいねぇ。腹減ってないか?」
扉の僅かな隙間から差し出される甘そうな香ばしい揚げパン。
万ねん貧乏で食事に困っているヨムカは瞬時に扉を勢いよく開け放つ。「うぉっ!」という驚きの声で一歩下がり扉との衝突を回避したヴラドは苦笑い。
「どうぞ、入ってください」
「ははは、悪いな」
「いえ、大切な部隊の仲間が困っているんですから、協力するのは当然です!」
「揚げパンを見せる前は、扉を静かに閉めようとしたよな……」
「はい? 何のことですか。私には身に覚えが無いので、気にしてはいけません!」
「お、おう。分かった。俺は何も見てない。お前が快く俺を迎え入れてくれた。これでいいな?」
互いの冗談に苦笑しあう。
自分の部屋に他人を招き入れたことはないので、少々緊張気味のヨムカではあるが、ヴラドはそんなヨムカの様子を気にした様子もなく……というよりは気付いていないようで、部屋中を物珍し気に眺めまわしている。
「これは……予想以上だ」
「悪かったですね、ボロ部屋で」
「うおっ! 賞味期限ぎりぎりのツナ缶と……このパンは食えるのか?」
女性の部屋を物色するヴラドにいちいち注意をする気は起きず、そもそも探索されて困る者はこの部屋には隠されていない。そう、隠したいものは自分の腰ベルトの差してコートで隠しているので、これが見つかることはない。
「ヨムカ昨日、馬鹿ルロに高級料理屋に連れて行ってもらったらしいな」
「どど、どうして知ってるんですか?」
「お前と馬鹿ルロがらっしゃい寿司に入っていくところを見てたからな」
ヴラドは食器棚からマグカップを二つ取り出し、持参した茶葉で紅茶を淹れはじめた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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