視線の主を追いかけて……
初めて食べた異国の生魚料理。
ヨムカは自宅に帰宅するべく明かりの乏しい路地を、一般庶民ではとうてい食べることの出来ない、十八万の味を思い返しながら歩いていた。
「十八万。十八万かぁ~、私のツナパンが一食で百くらいだから……うぅ、悲しくなってくるから考えるのは止そう」
料理自体はとても美味しかった。
料理人である異国の男性も、赤に近い忌むべき夕日色の特徴を持つヨムカを目にしても、これといった反応を示さず淡々と黙して寿司を握っていた。邪険に扱われなかったのは良いのだが、少々接客業としてはどうなのだろうか。不愛想といえば以前、ヴラドと二人で外食した際に寄った客のいない店の店主を思い出した。
今日行った「らっしゃい寿司」は高級料理という客を選び閑散としていたが、あの何とかという店は客に見向きもされない寂れた店、と同じガラガラでも天と地の差だ。
「カルロさんは、どうしてあんなにあの化け物の事が気になるんだろう」
化け物の情報を聞き出す為に、一人十八万という高級料理屋に連れて行くわけがない。それにヨムカが話している時のカルロの態度も気になる所。
いつものような軽口を一切挟まず、ジッと黙ってメモを取ったり頷いたりして、普段のカルロとはまるで別人だった。
「あの化け物が魔術によって造り出された存在だったら、それは禁術によるもの……でも、カルロさんの話では」
人間が新たな生物を生み出すには高度の知識と魔力、そして魔術練度が必要だという。そして、それらの条件を全て満たす人物。
シルファヌア・リ・エベングリージュ。
ヨムカの通う魔術学院を創立した学院長にして、国王に対して発言力もあり、大陸でその名を知らぬ者はいないと言われる程の人物だ。だが、カルロはそっと否定した。学院長はそのような非人道的な魔術を容認していないという。
「でも、あれを造ったのって……ッ!!」
振り返る。
誰もいない。薄暗い路地には猫一匹いない。だが感じる。久しく感じていなかった例の視線。誰もいないならとヨムカは魔力に干渉する。
詠唱省略の簡易術式。
かろうじて魔力が炎へと変換され腕に絡みつく。
「そこかっ!」
狙った場所に腕を突き出し、炎は暗闇の路地を照らし駆ける。住宅と住宅の間の狭い隙間に着弾し炎が爆ぜる。
「見つけた……!」
瞬間ではあったが確かに人影が浮き上がった。その姿を見つけたと同時に身体が動き出す。走り去ろうとする視線の主を逃してなるものか、と炎の追撃を見舞おうと再び腕を突き出す。
一直線上を走る視線の主が男なのか女なのかは分からない。頭から足先までのローブを身に纏っている。一見して走り難そうな出で立ちではあるが、ヨムカが全力疾走しようにも一向に距離が縮まる事無く一定を保っている。
「…………」
「……ん?」
一瞬振り返ったかと思うと右手には何かが握られていて、それが刃渡り十五センチ程の短刀だと視認するや、それを空高く目掛けて投げ放った。ヨムカの視線はそのナイフを追うが途中で視界から外れる。
ヨムカが短刀を追い抜かしたのだ。
「くっ……なに!?」
身体が急に動かなくなる。まるで足が地面に縫い付けられたかのように、地面から足を離すことができない。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は明日か明後日の夜を予定しております。




