らっしゃい寿司
カルロが言った魚料理の食べ方の価値観がヨムカの中で大きく変わってしまった。
世界には……極東の国にはこのような料理があるのかと驚きを隠せずにいる。世間一般的に見る麦米とは違い、白い米の上に薄く切られた生魚の身を乗せたものだ。風情を感じる木の板には寿司と呼ばれるその料理が綺麗に乗せられている。
「カルロさん、このオショーユっていうしょっぱいタレが生魚に合いますね!」
「ご満悦の様だね、ヨムカ君。まぁ、そんじょそこらの三流貴族では味わうことの出来ない料理だから当然と言えば当然かなぁ」
「ブフッ!」
「うわっ! ど、どうしたんだい、ヨムカ君!?」
思わぬカルロの発言に醤油を噴き出す。もちろん手で口を押えていたので周囲には飛散してはいない。
「三流貴族では食べられないって、これ幾らするんですかっ!?」
確かにカルロの事だから少し値は張る店なのだろうとは分かっていた。だが、三流と言っても貴族は貴族。一般市民であるヨムカでは彼等の月収を稼ぐにはいったいどれほどの年月がかかるか……。そんな驚きを隠せなかったヨムカをカルロは笑う。
「う~ん、どうだねぇ。いまヨムカ君が食べてる奴は十八万くらいかなぁ」
「…………」
「おーい、ヨムカ君。大丈夫かい?」
確かに美味しい。見た目も華やかだ。だが、この寿司という小さな食べ物が十貫並んでいるだけで十八万。ヨムカ達、七八部隊が一回の任務成功報酬がだいたい二千五百から三千程度。それを考えれば、十八万という金額は途方もなく現実味を感じさせない額だった。
「さて、食事の最中で悪いけど、聞かせてもらえるかい? 例の化け物について」
「え、あ、はい。その、どこから話せばいいのか……」
ヨムカは任務の詳細は伏せて、戦闘慣れした襲撃者のくだりから話し始めた。その間、カルロは眉根を潜めて何かを考える素振りを見せたり、何かを手帳に書き込んだりして、ヨムカの話に耳を傾けていた。
「ヨムカ君、少しいいかな。その人とムカデ……いや、人の肉をこね合わせて造られた化け物か。ヨムカ君はそいつを人為的に造られたと思う? それとも、そもそもそういう異形なんだと思う?」
「私は……どうでしょう。たぶん、人が造り出したものだと思います」
「どうして?」
何故だろうか。
明確な理由はない。ただ、そんな気がするだけだ。あれは、そう、常軌を逸脱した魔術によって……。
「まさか!?」
「そう、ヨムカ君がいま考え着いた答えで間違いは無いんじゃないか、と僕は思うね」
「禁術……」
人の道徳を反し、大陸全土で使用を禁止された術式。
だが、その術式自体も高度で、並の魔術師では行使する事が難しいとされており、禁術の存在を完全なる闇に屠る為に関係資料は全ては廃棄されていると聞く。
「禁術を使える奴なんて僕が知っているだけでもただ一人だよ。その人物をヨムカ君はよく知っていると思うけどね」
南区域に潜み炎流という組織を壊滅させた底知れぬ知識を持つ魔術師パラノイア。それが本名なのかどうかも分からない。彼ならば禁術くらいは容易く行使できそうだが。
「学院長だよ」
「……えっ」
「ん? いや、だから学院長だよ。僕等が通う魔術学院のね」
「あ、ああ、学院長。確かにあの人なら」
偉大なる魔術王とも呼ばれる彼であれば可能かもしれない。だがその考えをカルロはそっと否定した。
こんばんは、上月です(*'▽')
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