全てを吐き楽になる
膨れ上がるおじさんムカデの下腹部。
体内に呑み込まれたヨムカを傷つけてしまわぬように、おじさんムカデの上半身を集中して攻撃していたが、目に見える変化に手を止める。
「ヨムカの仕業か?」
「えぇ、もしかしたら」
弓を引き絞っていたヴラドは剣に持ち替え、ヨムカが体内から脱出した際にいち早く駆けつけ救出できるように身を屈める。ロノウェも炎や雷などではなく、物理的に動きを拘束する木々の蔦を手繰り上半身と地を這う手足に絡めつけた。
「フリシアさん、もしかするとヨムカさんが怪我をしているかもしれません。貴女は貴女にしか出来ないことがありますね?」
「……はい! 大丈夫です。私がやるべきこと……ちゃんと理解してます」
「ふふ、頼もしいですよ」
フリシアも両手を前方に突き出し、回復の術式をいつでも発動できるよう待機する。
「お、俺の筋肉だって!」
「クラッド、お前は俺が無事にヨムカを救出した際に、奴の意識を逸らしてくれ。できるな?」
「うっす、任せてください!」
クラッドは少しだけ皆と距離を取る。
人の肉を練り合わせて作り上げられた肉体は腐臭を周囲に撒き散らしている。ブスブスと泡が割れては臭いが拡散される。肌もだんだんと赤黒く変色していく。
「ニャー!? あっ……アアッ!! アァァァァァツウゥゥゥゥゥイイィィィィィイッ!!」
蔦の拘束で思うように上半身を動かせず、おじさんの顔は絶叫を上げる為に大きく引き伸ばされている。パンパンに膨れ上がった下腹部はこれ以上の膨満する事は出来ないと亀裂を生じさせ、破裂。
血肉が盛大に飛び散る。
ロノウェは土の壁面を前面に展開し被害を回避。だが、クラッド、フリシア、ヴラドの三名は悪臭漂う血濡れの肉片が身体に付着する。
気を失うクラッド。
泣き叫びつつ回復の矢を地面に放り投げだされたヨムカ目掛けて放つフリシア。
血を全身で浴びに掛かりながら疾走し、ヨムカを抱きかかえておじさんムカデと距離を開けるヴラド。
下半身を失ったおじさんムカデは虫の息だ。地面で醜く痙攣させるおじさんムカデの上半身。
「おい、ヨムカ。しっかりしろ!」
地面に寝転がして、頬を叩きながら声を掛け続ければ、ゆっくりと薄く眼を開けた。意識が朦朧としているのか、自分がいまどのような状況なのか理解できていない。
「……先輩?」
「ああ、目が覚めたか。まったく、お前という奴は……帰ったら説教だ、いいな?」
「説教……ですか?」
「隊長の指示に従わなかったんだから当然だろう。まぁ、見た所目立った外傷はないみたいだし、具合はどうだ?」
「臭くて、吐きそうです。ウェッ!」
地面に胃の内容物全てをぶちまけた。ヴラドは優しく背中を擦り笑う。
「はっはっは、全部ゲロッちまえ。全部出せばスッキリするだろ」
「あぁ……はい。オエッ!」
人前で吐くという行為に羞恥心を抱ける状況ではない。どうにでもなれという心情で、少しでも早く楽になれる様に地面に吐き出していく。
これで、取り敢えずは任務達成だ。ヨムカは夢の出来事を確かめるべく、上着のポケットに手を差し込み感じたネックレスの固い感触。レイビィからバロックに渡すよう託された品。無くしてはならない兄妹の証を一度優しく撫でた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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