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知る者は永遠の沈黙へ

 未知の生物。


 人ではなく、異形でもなければ、猫でもない。


「ニャッ、あああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあ!!」


 人の身体がごちゃごちゃと粘土の様に合わさり引き伸ばされた体躯を持ち、全裸のおじさんが先端に生えている。無数の人の手足がムカデの様に巧みな動きで地面を叩き付けながら移動する。


 だらしなく口を開けて涎を垂らしながら歓喜している。目下の人間を品定めするような目付きだ。


「先輩、ど……どうするんですかっ!」

「あ~、俺に聞くなよ。ロノウェ、どうするんだ?」

「その、私に聞かれても困るんですけどね。さて、どうしましょうか……ね」


 三人の背後に隠れるフリシアとクラッドは正気を失う寸前だ。


「ニャ?」


 小首を傾げるおじさん。どうしてか、どうして声はこんなに可愛いのだろう。瞳を閉じてこの声に耳を傾ければ、間違いなく小さな子猫の姿が脳内に描き出されるだろう。


 だが現実を直視しなければならない。


 目の前には敵か味方か分からない存在。距離を取ろうと一歩下がればおじさんは一歩大きく距離を詰める。


「ん? なんか、下腹部に亀裂が入ったぞ?」


 ヴラドの言葉に全員がゆっくりと視線をおじさんから下へ、下腹部と言って正しいのか分からないが、ブヨブヨとした肉が左右に大きく裂ける。その大きさは成人男性が丸っと収まってしまう程……。


「ほぅ、びっしりと並んだサメのような歯か……ありゃ、食う気満々だな」


 サメという単語がよく分からなかったが、捕食するという自分たちにとって美味しくない状況。ジリジリと手足を捻りながらにじり寄ってくる。一気に捕食出来る範囲を見計らっているようだ。


「クラッドとフリシアは任せろ。ロノウェとヨムカは各自で距離を取りつつ術式による攻撃だ、以上」


 ヨムカはおじさんムカデの手足を注視する。捕食の際は大きく飛び込んでくるはずだ。必ずその瞬間にバネの役割を果たす手足に大きな動きが見れるはず。そのタイミングを見失わないようにすり足で後退しつつ全意識を動きの一つ一つに向ける。


 ヴラドもロノウェも考えることは同じらしい。


 ガクガクと震えているクラッドとフリシアの手首を掴み、逃げる用意は出来ていた。


「ニャ? ああぁぁぁああああぁ、あはははははははは!! い、いぃぃぃぃいいぃぃぃたぁああぁぁぁぁあぁだぁぁぁぁぁきぃぃぃぃぃぃますッ!」


 ヨムカは叫びたかった。


「ますッ!」ってなんだと。この流れで言えば「まぁぁぁぁあああぁすぅぅぅぅぅ」と来るべきだろう。なのに、いきなりの「ますッ!」不意打ちだ。


 先輩二人は美味く回避に成功する。だが、タイミングを崩されたヨムカはわずかに反応が送れてしまった。巨大な口が迫る。


「うわああああああッ!!」


 腰ベルトから水筒をむしり取り、それを巨大な口目掛けて投げつける。


 縦回転しながら大きな口に入り込む。反射の様に咀嚼するべく口を閉ざす。おかげでヨムカは食べられずにすんだ。が、その巨体が勢いよくぶつかり、ヨムカの身体は地面を大きく数度跳ねて地面を転がる。


 右腕が上手く動かせない。折れたか脱臼でもしたのだろうか。激痛がヨムカの意識を現実に留める。ゆっくりと身を起こし激痛に歪む表情で、おじさんムカデを視界に捉える。


「ヨムカさん!」


 遠くからロノウェが土の杭を射出させるが、ブヨブヨとした脂肪に全てが跳ね返される。それでも、ヨムカから気を反らす事ができた。


 おじさんムカデは苛立っているのだろうか。手足を地団駄を踏むように激しく叩き付ける。視線はロノウェに……向くことなく、ロノウェとの中間に四肢を縛られた奇襲者。


「ごぉぉぉぉおおおおぉぉはあああぁぁぁあああああん、だッ!」


 子供みたいに表情をキラキラとさせて大口を再び開く。手足のバネを最大限に活用した跳躍。巨大なムカデは空高く飛び上がり、着地と同時に奇襲者全員を丸飲みにした。


「おおおぉぉぉぉおおぉぉいぃぃぃぃぃしぃぃぃいいいぃいい!!」


 グチャグチャと汚く口を動かす、時々手やら足の破片が口から零れ落ちる。吐き気を催す光景。


 これで彼等がどのような理由で、北大陸の最新拳銃を手にしたのかと知る者がいなくなった。


こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は9日の夜になります。

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