軒下に潜む何か
村全体を調べて回るのにそう時間は掛からなかった。
「村人は誰もいないみたいですね」
「まっ、まさか全員殺されたってことっすか!?」
殺された。その可能性は低くはない。奇襲者が何かしらの目的があって占拠していた村だ。きっと何かあるのだろう。知られてはいけない何かが。
「コイツ等が起きたら聞いてみるか。ま、強く頭部に叩き付けたから、とうぶんは起きないと思うけどな」
「彼等の仲間がまだ他にもいるかもしれません。安全が確認できるまで、周囲に警戒をしなければなりませんね」
「おっ! そうだ。ヨムカ、指名の任務内容ってどんなのなんだ? まさか、危険な仕事だったり?」
「ううん、違う。依頼人の妹の様子を見てきて欲しいって」
懐から取り出した依頼書を広げてクラッドに見せる。任務内容はあらかじめ教えておいたのだが、人の話を聞いていなかったのだろう。まじまじとその内容分に眼を通して、うんうんと唸っている。
「任務内容は理解してけどさぁ、どうしてヨムカに指名任務なんて入ったんだろうな」
「え……あ~、どうしてだろうね。ははは、不思議なこともあるもんだよね」
「ヨムカ、ちゃん。何か隠してる?」
「べっ、別に何も隠してないよ! たまたま、任務が入っただけだよ」
「指名任務がたまたま入るもんか?」
「いえ、たまたま入るものではないですね」
問い詰められ、詰め寄られる。
どうすればいいか。いくら部隊の仲間でも、バロック達との関係を喋るわけにはいかない。ロノウェもヴラドもあの区域の人たちを快くは思っていない。それは宝探しゲームの時の発言から明らかだ。
「知人です……」
苦し紛れの言い訳。
「知人ねぇ……まっ、ヨムカがそう言うなら、それでいいんじゃないか?」
「そうですね。これ以上、深く追及するのも可哀そうですし。ふふ、今回はこれで見逃してあげましょう」
「え~、隊長たちは気にならないっすか? ヨムカに指名任務っすよ」
「知人に依頼した。それだけだろ?」
ヴラドの助け舟に安堵する。フリシアもクラッドもなんとか納得してくれた。納得してくれたはいいが、肝心のバロックの妹が見当たらないのだ。このまま帰還して、バロックに何て言えばよいか。きっと気落ちさせてしまう。では嘘を吐くか。
「そうだ! 先輩、さっき気になった場所があるんです」
「気になった場所?」
「はい。襲撃されてる時に、ふと民家の影に何かがあったんです」
ヨムカの視線の先。
一件のボロい木造民家。その背後は木々と岩が急斜面から生えている。とくにコレといって不審な場所はない。ヨムカは姿勢を低くして軒下を覗き込む。
すると、奥の方の薄暗い場所に黄金色の発行する二つの球体。
「うわぁっ!?」
「どうした、ヨムカ?」
「な、なな何かいます」
「何かって……あぁ、猫だろ」
ヴラドもしゃがみ込んで覗けば「ニャー」と鳴き、ゆっくりと此方に近づいて来る。
「猫ですか。はぁ、ビックリした……えっ?」
「…………」
そう、中にいるのはきっと猫だった。「ニュー」と鳴けば猫だろう。覗き込んでいたヨムカもヴラドもその身を固まらせる。言葉を発する事も忘れて。
「ニャー、ああぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」
軒下のソレの動きが変わった。ドタドタと地面を叩くように、その黄金色に発光する両目を大きく左右に揺らしながら、勢いよく迫って来た。
「せ、せせせ先輩っ!!」
「全員退避だ!」
ヴラドの号令に呆然とする背後の三人。
舌打ちをして、取り敢えずヨムカの腕を引き全力で後退する。
「うわぁぁぁぁぁぁッ!? ばっ、化け物っす!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「これは、また……」
軒下から這い出したソレをみて、ロノウェは、クラッドとフリシアの腕を引き引き下がる。
「ニャー、あっ、ああぁぁぁああぁぁあ? アっ、アっ」
猫なんかではない。猫は人間の嗚咽のような声を出さない。そもそも猫の面影はない。「ニャー」と言えばソレは猫、だなんていうのは謝った認識。ソレは大きく背を伸ばす。
「ニャー、アッ、アッ」
上半身が裸のおじさんだ。その背丈は民家の屋根ほどもある。下腹部から下はざっと十名以上の人間が融合して蛇のように連なっている。太い手足、細い手足を巧みにムカデの様に地面を這っている。おじさんは顔を歪めて嗤う。
「ニャー、アッ、アッ、ニャー」
背筋が凍る。おぞましい見た目は異形とは比べ物にならない。生唾を飲む。こんなモノが存在していいはずがない。臨戦態勢を自然と取る七八部隊はジリジリと距離を取りつつ、ソレから視線を外すことなく、魔力を全身に行き渡らせる。
こんばんは、上月です(*'▽')
中年のおじさんがムカデみたいに這って軒下から出てきたら怖いですよね。
「ニャー、アッ、アッ」自分で書いてて、ちょっと気持ち悪いなと苦笑しました(;'∀')
是非ともこの気持ち悪さが伝わってくれればいいなと思います。
次回の投稿は7日の夜になります




