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フリシアの決意

 このままでは全員が捕まってしまう。


 奇襲者の一人が言った「この街に近づく者を殺す」という彼等が遂行すべき役割。捕まればお終いだ。どうにかして打開しなければと考える前に身体が動いていた。


「地を這う聖火の蛇よ、猛禽なる敵さえ近づけぬ身を持ちて捕食せよ――展開:大気燃やせ(フォミュ・リ・)熱産む蛇(ナーゲル)


 ヨムカの腕に纏うようにうねる夕日色の炎。放たれ、地を這う炎蛇は途中で三匹に分かれ、獲物を捕食せんとその鎌首を持ち上げて迫っていく。


 奇襲者の意識が蛇に向く。


 この時を待っていたと言うように、ヴラドが、ロノウェが立ち上がり気の逸れた奇襲者に奇襲を仕掛けた。ヨムカ達、魔術学院生が戦場で真価を発揮する戦い方は強襲という戦法。魔術強襲部隊なのだ。勢いに任せて敵陣営を滅茶苦茶にしてやるのが役目。ヴラドは次々と統率が途切れた敵を剣で叩き付ける様に薙ぎ払っていく。


 ロノウェも同様に上位魔術を即座に編み上げ展開。ヨムカの放った蛇は数名を火傷させるだけだが、ロノウェの術式は違う。殺すために展開されたソレは、地面に描かれた藍色の魔法陣から土塊が隆起し粘土のように合わさり巨掌と化した。


 物理的な損傷を与えやすい土系統の術式。その高々と振り上げられた殺意の一撃は躊躇いなく振り下ろされる。命尽きるその瞬間まで呆けた顔でその巨腕を見上げていた。


「ロノウェ副隊長!」


 ヨムカは駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか!?」

「えぇ、なんとか……といったところですかね」


 ロノウェは身体に何十発以上もの弾丸をその身に穿たれたのだ。普通であれば致命傷だが、ロノウェは懐から翡翠色に発光する宝玉を見せてくれた。


「これは因果創神器の一つです。創神器を専攻しているヨムカさんなら、これが分かりますね?」

「はい……。ですが、これって凄く珍しいものだって」

「えぇ、とても貴重です。死んでいなければどのような傷口も瞬時に修復させる使い捨ての代物です。念には念を入れて、任務に従事する際は常に持ち歩いているのですが、まさかここで使う羽目になるとは思いもしませんでしたよ」


 ニコニコと涼しい声音で語る。


「ヴラドの方も片が付いたみたいですね」

「おう、何とかな。つか、コイツ等は一体何者だ? こんな辺鄙な村に留まって、それも南大陸では手に入らない拳銃を使用してるとなると……」


 そう、奇襲者が使用していた拳銃は南大陸では絶対に手に入らない。


 大陸は中央大陸を中心に東西南北に出島のように広がっている。南大陸から北大陸に赴くには中央大陸を経由するか海を経由するかの二択。だが、大陸ごとに天まで届く分厚い壁で隔たれているので陸路からの遠征は不可能。そして海路も同じく、広大な渦潮が邪魔をしており船での渡航は不可能。残された道は空路だが、人は空を飛べない。風系統の術式であれば……という考えは誰もが至り実践を試みる者も少なくはない。ただ全員が失敗している。壁を迂回しようとすると強烈な何かには阻まれるという。


 故に誰もが大陸を渡ることは出来ない。


 もちろん例外はある。


 中央大陸からの使節団。どうやって大陸を渡っているかは不明であるが、彼等は各大陸に赴き、近状を書物に記し、情報共有として各大陸の各国に情報を伝えている。ヴラドが本で北大陸の拳銃の存在を知っていたのはそのためだ。


「ヴラド、そちらの生存者は?」

「あ~、最初の奴以外は全員生きてるぞ。はぁ……全員殺したのか?」

「えぇ、殺さなければ殺されていましたので。私も一年生の命を預かっている身ですので」


 ロノウェの表情が曇る。本当は殺したくなかったのだろう。ただ、自分や仲間達を守るためには悪魔にでもならなければならない。


「そうか、そうだな。お前が悔やむことじゃないだろ。お前はお前のやるべきことをやっただけだ」

「……そうですね」

「うし、クラッド、ヨムカ。アイツ等を縛り上げるの手伝ってくれるか?」


 ヴラドが珍しく自分から行動している。


 指名されたヨムカとクラッドは頷いく、一度だけ、フリシアを一瞥しヴラドに続く。


「フリシアさん、大丈夫ですか? その、もうしわけありません。怖い思いをさせてしまいましたね」

「い……い、いえ」


 小さく井戸の傍で身体を丸めて震えている。ロノウェはフリシアの前で膝を折り優しく両手で、その華奢な身体を抱きしめていた。


「私達は軍人です。国家の為に身を捧げて敵と殺し合わなければなりません。もちろん仲間も多く死んでいきます。目の前で……。ですが私は、その目の前で死んでいく仲間達を一人でも多く助けたい。その為には私は我が身も盾にして皆さんをお守りします。ですから、フリシアさん。貴女も貴女の成せる力で皆さんを助けて欲しいのです」

「私の、成せる力?」

「はい。フリシアさんは医療術式を専攻していましたね。それは多くの人を助けるすばらしい技術です。戦場だけではなく、怪我をして苦しむ友人や見知らぬ誰かを救える力です」

「みんなを助けられる……」

「そうです。戦場は怖いですが、私が死なせません。だから、フリシアさんは何も心配する事はありませんよ」

「ロノウェ副隊長……が今日、本当に死んでしまったかと、怖くて……」

「分かります。ですが、私はこうして生きています。私には為さねばならぬ使命がありますので、それまでは死ねませんからね」

「使命、ですか?」

「はい、とても大切な使命です。上手くいけば人の格差をなくせるかもしれないんです。ヨムカさん達、身体に赤の特徴を持つ者達も迫害される必要のない世界を私は創りたいのです」

「私も……創りたいです。ヨムカちゃんたちが笑っていられる、世界を」


 フリシアは立ち上がる。


 ロノウェの言った格差の無い世界。それを自分も創りたいと。仲間の為にまず自分が出来る事をやる。生きて欲しいから。ロノウェの創った世界でみんなが笑っていられるように。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は明日の夜を予定しております

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