母の愛は世界を侵す
思い出してしまったが故の葛藤。
このまま思い出さなければ、きっとこのまま両親と失った時間を忘れながらも、楽しく過ごしていたかもしれない。だが、思い出してしまった。自分が帰るべき場所。そして還るべき両親の場所。ヨムカは選べずにいた。帰るべきか、残るべきか。
「これから行く場所はね、とっても綺麗で素敵な所なのよ。きっと、ヨムカも気に入ってくれると思うわ!」
楽しそうに、嬉しそうに、子供のように晴れた表情の母はヨムカに夢中だ。両親に挟まれて森の小道を歩く。普通の家庭では当たり前の光景なのだろう。この幸せな時間は帰ってしまえばもう味わう事が出来ない。
「ヨムカ……」
顔に出してはいないつもりだったが、何かを察した父が神妙な顔つきでヨムカを見下ろしている。
「お、お父さん。楽しみだね。これから行く場所ってどんなところなのかな? お母さんが綺麗だって言うくらいだから期待してていいんだよね?」
無理に作った笑顔を返すが、これまた一層に後ろめたさを感じさせるような困った表情をされてしまう。どうしようと悩めば悩むほどに、求める答えが遠ざかっていくような気がした。
「もう少しだけ、お母さんに付き合ってくれないか?」
「えっ……」
どういう意味。問い掛けようとしたところで父は全てを吹っ切ったように、いつもの優しい顔付きに戻っていた。
「さぁ、着いたわよ!」
一面の花園。
ヨムカの幼い記憶を辿っても森を抜けた先に、こんな場所は存在していない。どれも見たことのない花だ。地平線までも埋め尽くされた色鮮やかな色達は柔風に揺れている。甘い匂い。頭がボーっとしてくる。眠い。愛されたい。もっと……。
まるで夢見心地だ。足が地に着いているのかも怪しいくらいに。
「ヨ……さん」
不意に脳に届く涼風のような声音は、意識を一瞬ではあるが覚醒させる。誰か……。ヨムカは思いっきり頭を振るう。意識を保てと奥歯を噛みしめる。
「お母さん、ここは何処? 私はこんな場所知らないよ?」
「……いいのよ。辛いでしょ? ここは、誰も貴女を迫害しない楽園なの……だから、お願い。行かないで! ここでお父さんとお母さんとヨムカの三人で幸せに暮らしましょう?」
「私は……」
選択を迫られている。
選びたくない。でも選ばなくてはならない。自分が進むべき道を今ここで選択せねばならぬのだ。
「…………」
押し黙ってしまうヨムカ。母は必至に訴えかける。
父は二人の様子を静観している。強要するでもなくヨムカ自身が選ばなくてはならないと、草花のようにじっとしている。
ポケットに手を忍ばせる。指先に感じる飴玉の感触は、ヨムカの記憶を鮮明な映像として蘇らせる。
「帰って……さい。ヨム……さん!」
先程の涼風の声は焦りを孕んだ口調で呼びかける。
「ロノウェ副隊長? どうして?」
「私のヨムカを奪わないでェッ!!」
母の絶叫は静かな花園は悪夢に変容させてしまう。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は明日の夜になります!




