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飴玉は記憶を呼び起こすか

「ヨムカ、いつまで寝ているの? もうお昼よ」


 ふわふわと浮遊している意識に呼びかけてくる母。まだ眠いと布団を顔に覆い、自分でも信じられない程甘ったるい猫なで声で起床を拒絶する。まだ、眠っていたい。隙間風の無い部屋はとても寝心地が良いのだ。安ベッドは身体のふしぶしを痛めるが、羽毛布団とフカフカのお日様の匂いのするベッドは最高だ。なら、もう少しだけ寝ていてもいいはずだ。


「そろそろ起きなさいよ。いい天気なんだからピクニックにいくわよ!」


 いつまでも起きてこないヨムカに母は無理やりに布団をめくりあげてしまう。猫の様に身体を丸めるヨムカは幸せそうであった。この寝顔をいつまでも眺めていたいと思うが、せでに出掛ける準備は整っているので、仕方なくその小さな身体を揺らす。


「もう、後……五分……うぅ。ふわぁ~」


 ぼんやりとした目を擦りながら身体をゆっくりと起こし、視線を母に向ける。


「お母さん? おはよう……」

「はい、おはよう、ヨムカ。さぁ、顔を洗って着替えてきなさい。お父さんと三人でピクニックに行くわよ」

「うん……わかった。ふわっ……あれ、なんか夢を見てたような、でもどんな夢だったっけ」

「楽しい夢だった?」

「どうだろう。覚えてないから、でも悪い夢ではなかった気がする」

「そう、良かったわね。楽しい夢は永遠に覚めなければいいのにね……」

「……お母さん?」


 眩しい朝日が差す窓に顔を向ける母の上場は何処か寂しげであった。どうしてだろうか。この幸せな時間の何処に寂しいと感じる要素があるのか。ヨムカは小首を傾げつつも、その理由を聞く事が出来ず、言われるままに顔を洗いに部屋を出る。


 鏡に映る自分の髪と瞳。幼い頃から迫害を受けるその忌々しい特徴であったが、今ではどうでもいい。母と父がいるのだから。自分を愛してくれている最愛の人たちと共に過ごせるだけで、これほどまでの幸せはない。


「……ッ!?」


 一瞬鏡に何かが映った。自分の背後にうっすらと人影が……。反射的に振り返るがそこには誰もいない。振り向いたはいいが、今度は鏡に向き直れない。振り向い時、この世のものとは思えぬ恐ろしい何かが映っていたらどうしよう。故にヨムカの身体は上半身を捻った状態で固まってしまう。


「気のせい……気のせいだ。ちょっとまだ寝ぼけてただけだよね? うん、絶対にそう」


 せーので振り返る。


「……い」


 表情が引きつった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 鏡に今度はハッキリと映っていたのだ。男の姿が。この世の不潔を凝縮したような男だった。脂ぎった金髪と眠そうで覇気を感じさせない青い瞳をした長身痩躯の男性だ。……誰? いいや、なんか知っている。思い出せない。思い出さねば。ヨムカの脳裏を数々の記憶がフラッシュバックする。記憶の断片にその人物はいた。だが……誰だったか。


「どうしたんだい、ヨムカ!!」


 悲鳴を聞いた父が息せき切って、何事かと驚愕した表情で洗面所に飛び込んでくる。


「虫でもいたかい!? それとも、なんかあった?」

「あ……ううん。大丈夫だよ。寝ぼけてて幽霊みたいなのが見えただけだから」

「……幽霊? 今はお昼だよ。ははは、もう驚かせないでくれよ。さっ、もう美味しいお昼ご飯も包んだから早くピクニックに行こう」

「うん、すぐに準備するからちょっと待ってて」

「ははは、ゆっくりで大丈夫だよ」


 笑いながら洗面所を出て行った父。ヨムカは再び鏡に視線を戻すが自分以外映っていなかった。


「誰だったんだろう……ん? これって」


 上着のポケットに入っていた一つの飴玉。極東の国でのみ製造されている高級菓子。それが、何故自分のポケットに入っていたのか。


「先輩がよくくれたモノに似てる……あっ!」


 思い出した。


 どうして忘れていたのか。ヨムカは飴玉を握りしめ、強く記憶に呼びかける。



こんばんは、上月です(*'▽')


サブタイトルがネタバレになってしまってますね(;´∀`)

次回の投稿は11日の夜になります


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