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ヨムカの静かなる怒り

 国家繁栄に身も心も研究と開発に捧げた愛国心に満ちた魔術師達が生活する居住区。他の区域とは違い、娯楽や飲食というひと時の時間を過ごす店も多くない。それ以前に、居住区とは言いつつも、民家のようなものがほとんど見受けられないのだ。


「あの、先輩。ここって魔術技師の居住区兼職場だと聞いているんですが、民家がほとんど見当たらないんですが……」

「家か? あいつ等は職場で寝泊まりしてるからな。家と職場を往復する必要が無いんだ。起きたら始業、終業したら飯食って寝る。余計な時間を徹底的に排した生活サイクルだろ?」

「彼等に自由はないんでしょうか?」

「さぁな。アイツ等が好きでやってる事だから、それでいいんじゃないか?」


 あぁ、なるほど。


 魔術技師は言ってしまえば職人だ。高度の生成技術と柔軟なる思考が必要とされ、日々の労働に耐えうる精神力が無ければ続かない。故に進路で技師を目指す者は数少ない。


 仕事が人生となればやはり離職率も相当なものだろう。


「ヨムカぁ~。こんな、なんもないところを探すのか? ぜってぇ何も見つからないだろ」

「クラッド君……やるき無さそう、だね」

「そりゃ当然だぜ、フリシア。お金欲しくて参加してるんだぜ? 何も無さそうな場所探してどうするんだよ」

「でも、こういう場所に……あるかも?」


 ぶー垂れるクラッド。


「クラッド、私もお金が欲しいよ。だからこそ、誰も探さなそうな場所に来てるんじゃん。最悪、見つけ出した人から奪えばいいしね」

「…………」


 一同がヨムカに呆然とした表情を向ける。


「……なんですか?」

「あ、いや。お前ってそういうキャラだったか?」

「言っていたじゃないですか。どんな手段を用いてでもいいって。なら、力で奪い取ってなにか問題でも?」


 本気で言っているであろうヨムカに、ヴラドは何とも言えぬ気持ちで空を見上げた。


「ええ、そうですね。ヨムカさんの言う通りです。きっと……いいえ。必ずと言っていいくらい、争奪戦が行われるでしょう。特にあの区域の者達が」


 ロノウェの言葉にヨムカはそっと押し黙る。


 あの区域の者達。その言い方がヨムカは引っかかった。


 確かに荒くれ者の集団かもしれない。智天使はそのいい例だ。だが、それでも自分が所属する黒死蝶は仲間を想い、普通の人と変わらぬように盛り上がり笑う。それを、まるで人ではないと言われたような気がして、心の奥底に小さな反感が芽生えてしまったのだ。


「おや、ヨムカさん。どうなされましたか? 表情が険しいですが」

「あ……いえ、もうしわけありません。何でもないです。それじゃ、まずは――」

「オイ、テメェ等も宝さがし参加者か?」


 背後から荒々しい声。


 一同は振り返る。


「雑魚ですね」

「はい、なんか三下っぽい……ですね」

「筋肉がなってねぇな」


 いかにもな三下キャラ全開な男達が五人。


「ガキんちょ共、誰が三下だよ! 訂正しろよ! あ~、心が傷付いちまったわぁ」


 背の高い男の発言。


 ヨムカは、あぁ、と理解する。


 コイツ等はきっと智天使のリーと大差ない知能しか有してないのだと。実力も見た目同様にその程度だろう。うん、これで強かったら不条理としかいいようがないのだ。


「なんだ、お前ら?」


 一応ヨムカ達の上官ということもあり、ヴラドがめんどくさそうに一歩前へ出る。


「おいおい、この俺達を知らねぇのか? カッー、これだからガキは無知で困る」

「兄貴、名乗ってやりましょうよ。俺達が誰か知ったら、コイツ等めっちゃビビりまくりだぜ!」


 ブヨブヨとした低身長の男が、弛んだ腹と頬を揺らす。


「しょうがねぇなぁ。名乗ってやるとするか、俺達は南区でも名のある組織よ。その名も、キング・オブ・ファイブゥゥゥゥゥ!」


 イェーイ!


 残る四人……以下、舎弟達が歓声を上げる。


「キング・オブ・ファイブ? ロノウェ、知ってるか?」

「いえ初耳です。南区を取り纏めているのは黒死蝶と智天使。そして、何者かに壊滅させられた炎龍という組織だったと思いますが」


 ヨムカも初耳だった。


 きっと、智天使や黒死蝶の面々に聞いて回ってもほとんどがその存在を知らないのではないだろうか。


「おい、どうした? なに黙りこくってんだよガキんちょ共。はっは、俺達が怖くてなっちまったか? そりゃ、仕方ねーよな。よし、金目の物さえ置いていけば命だけは見逃してやってもいいんだぜ~」


「先輩?」

「あ~、程々にな」


 時間は貴重だ。


 こんな下らない輩たちの相手をして、宝を探す時間を削るわけにはいかない。


 ヨムカは適当に無詠唱で小さな炎の球体を作り出す。そして、それをキングなんちゃらの面々に投擲していく。


「熱ッ!? え……術式? 兄貴、コイツ魔術師です!」

「みりゃ、分かるっつーの。つか、アイツ赤髪だろ。災厄をもたらす忌み子だァ!」


 ヨムカの表情がみるみるうちに無表情へと変貌していく。


「あ~、ヨムカ? 程々にって言ったよな?」

「……ええ、大丈夫です。殺しはしませんから」


 呪詛のように小さな声で早口に詠唱を済ませる。早口で詠唱する事により、術式自体は魔力が完全に行き届かず未完成のものとなる。


 ヨムカの周囲には炎を細く引き伸ばした槍状のモノが幾つも停滞する。その矛先はヨムカを忌み子と発言した兄貴と呼ばれる男をメインで捉えていた。


 炎の槍が兄貴を捉えていると気づいた舎弟達は、イソイソと兄貴から距離を開ける。


「はっはぁ! キング・オブ。ファイブの団結力を見せてやろうぜ、ナァ、オメェ等……って、えぇ~!?」


 先程まで、兄貴に縋る様に並んでいた舎弟達の背中が、路地裏に逃げ込もうとしていたのだ。あんぐりとしてしまう兄貴。


「安心してください。殺しはしませんから。だって、嫌じゃないですか。三下を殺して、学院追放とか……」


 淡々と喋るヨムカにフリシアとクラッドもイソイソと距離を開け、ヴラドを盾にするかのように背に隠れる。


「おい……なぜ、俺の後ろに隠れる?」

「いや、マジ、今のヨムカ怖いっす!」

「うん、ちょっと……隊長の後ろなら安心?」


 げっそりとするヴラド。それを微笑ましそうに眺めるロノウェ。


 無表情のヨムカ。涙鼻水を垂らす兄貴。


「掃射!」


 ヨムカの鋭い号令の下に放たれる炎槍。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 爆炎と黒煙が兄貴を包み込んだ。

こんばんは、上月です(*'▽')


キング・オブ。ファイブって……ネーミングセンスが酷いですね(^^;

もっと、いい名前が無かったのだろうかと思いましたが、まぁ三下キャラの集まりだしいいかなと。


さて、次回の投稿は来週となります。

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