そうだ、北区に行こう!
ヨムカは事前に知っていた。
本当は赤い表紙の本ではないことを。忍者というよく分からない生業をしていたスアラの話では、赤い表紙の本というのは本泥棒を油断させるためのフェイク。本来の捜索物は黒い表紙の魔導書。群衆を囮に正規の捜索部隊が目的の品々を探す。これが、国王の真意だとスアラは語った。
「じゃあ、先輩。私達も探しましょう! 赤い表紙と国家の紋章が入った本ですよ」
「めんどくせぇ~」
「なに言ってるんすか! 金銀財宝が俺達を待ってるんすよ! そうですよね、ロノウェ副隊長?」
「えぇ、そうですね。では、私達も動きましょうか。フリシアさんは迷子にならないように、私の隣りを歩いてください」
「あ……はい、わかりました」
高官の言葉。
どのような手段を用いてでも書物を手に入れろ。つまりは暴力沙汰も容認しているのだ。だからこそのこの配置。クラッドが羨ましそうにロノウェにチラチラ視線を送り、見かねたヨムカがその視線に割って入る。
「クラッドも私から離れない方がいいんじゃない? ろくに術式も使えてないし、防衛手段はその筋肉だけでしょ?」
「はっ……! 俺の筋肉を舐めてもらっちゃ困るぜ! 普段の欠かさぬ努力。垂れ流される塩分を多量に含んだ汗の日々。今やこの筋肉は至高に近づきつつあるんだからな!」
「別に舐めてないし……」
自慢の筋肉を披露させようとするクラッドを全力で阻止して、早く動き出そうとヴラドに訴える。
「んじゃ、行くとするか。んで、どこら辺を探すんだ、ヨムカ?」
「……え?」
「いや、お前が一番乗り気だったからな。どこら辺を探すかはお前に任せる」
「あ~、はい。わかりました。じゃあ……」
視界の隅には路地の影からバロックがある方角を指をさしていた。ヨムカは誰にも気づかれないように小さく頷き、バロックの指さした方角を示す。
「北区にいきましょう!」
「北区……ですか?」
ロノウェが確認するように聞き返し、ヨムカは頷く。
南区は智天使が。西区は黒死蝶が。東区はスアラが向かっている。であれば、残る北区をヨムカ達が探せば全区域を探索することができる。
そして、ロノウェがあえて確認した理由。
都市発展に貢献すべく魔力を内包した日常生活に欠かせないアイテムを生成したり、多くの命を奪う兵器の開発をする為にあてがわれたのが北区域。
「盗人が潜伏しそうな場所でしたら、先程の荒くれ者達が根城にしている南区とかの方が怪しいのではないですか?」
ロノウェのもっともな意見に返す言葉が見つからない。流石に先程の荒くれ者達が自分と協力関係にあることは口が裂けても言えないのだ。故に視線を逸らす。故に口ごもる。
「まぁ、いいじゃねぇか。ヨムカが北区に行きたいって言ってんだしな。それに逆転の発想も出来るだろ。そんなところには誰も隠さないだろうってな。街の奴らほとんどが貴族居住区の西区と荒くれ者が集まる南区に向かってったしな」
ヴラドの助け舟にヨムカは内心で胸を撫でおろした。
「ヴラドの言う通りかもしれませんね。ええ、では北区に向かいましょうか」
ロノウェもすんなりと頷く。
魔術学院七八部隊は大衆に背を向けて歩き出す。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回は北区で戦闘シーンが少々ありますので、お楽しみに(≧▽≦)ノ




