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開始された宝探し

 大陸辺境部に位置し、広大な帝国領と隣接する小国家――リンドバルデン。


 魔術学院、騎士養成所といった兵士育成に力を注ぎ、長い歴史の中で帝国の進行を阻んできた。そんな、国家威信を象徴する城の前には大勢の人で溢れ、歓声と熱気はこの火を祝福するかのようだ。


「めんどくさ……」


 そんな中で、気怠そうに眠そうな眼を擦る男性が大きな声で欠伸を欠く。


「ちょっと、先輩! しっかりしてくださいよ」

「いや、面倒くさいもんは面倒くさいんだ、仕方ないだろ?」

「仕方なくないですって……ほら、他の貴族たちの目もありますし」


 そう、今回は国内全域が範囲という一大宝探しゲーム。名を知らしめようと躍起になる貴族たち。一攫千金を手にして豪遊しようとする平民たち。このゲームの参加者の胸の内に秘められた欲望や策略が渦巻き、正攻法なんて馬鹿者の用いる愚策。


 もちろん、ヨムカは勝つ為に参加している。利用できるものはなんでも利用する心づもりだ。それに、黒死蝶という頼りになる部下がわんさかとこの中に紛れ込んでおり、ヨムカと黒死蝶の連絡係であるカロトワは既に視界の隅で待機していた。


 黒死蝶と同盟関係である智天使は白いスーツ姿の外国人という出で立ちで、この密集する人の群れの中でさえ悪目立ちし、そのガラの悪さから誰も近づこうとも話しかけようともしない。


「オラオラァ! さっさと開会式ィ、始めんかいな! こちとら、朝早くから陣取って待っとるんや」


 リーは腕組みした格好で、口許をクチャクチャと動かしながら声を荒げる姿は、まさにチンピラそのものだ。


 ヨムカはなるべく視線を其方に向けないように七八部隊の影に隠れる。


「あんな奴、この国に居たか?」


 ヴラドはリー達に視線を向けて首を傾げていると、ロノウェがそっと耳打ちする。


「スラム街に存在する大きな組織の一つを取り纏めている人ですよ。確か名前は……リーだったと思います。金次第で何でもやる便利屋みたいなものですね」

「ふーん。あの区域の連中か。まっ、関わらねぇに越したことはないな」


 興味を無くしたように視線は手元の文庫本へ。


「クラッド君、フリシアさん。この大人数ですから、迷子にならないでくださいね。それと、あそこら辺一帯を我が物顔で陣取っている方達には近づいてはいけませんよ」

「うっす! でも、ロノウェ副隊長。もし向こうから難癖付けてきたらどうすればいいっすか?」

「そうですね。近くの魔術学院生、もしくは騎士院生に助けを求めてください。決して一人で相手をしようとは考えないでくださいね。ああいった輩に捕まるとろくな事にはなりませんので」


 確かにあのチンピラに毛が生えたような集団に捕まれば、ほぼ確実に面倒ごとに巻き込まれる。だが、そんな毛の生えたチンピラも裏では黒死蝶ヨムカと同盟を結んでいるし、むやみに民間人に手を出さないと誓約書も書かせた。だが、あの通り簡単にキレる人物なので確約とはいかない。それでも、バロックが念には念を入れて、智天使の部下たちには声を掛けてあるので、一応は大丈夫だろう。

 

 もちろん、どんな風に声を掛けたのかヨムカは知らない。


「ヨムカ、宝ってなんだろうな。もしかしたらとんでもねぇ程の金とかだったらどうするよ? 俺だったら筋トレグッズを買いまくるけどな」

「別にどうでもいいよ。でも、まぁ……報酬がお金だったら、美味しいご飯やスイーツは食べたいかな。フリシアは?」

「えっ、あ、うん。私はお母さんに渡すかな」


 良い子過ぎるフリシアの発言。


 欲望まみれの自分たちが卑しく思えて、ヨムカとクラッドは現実逃避をするように視線を逸らす。すると、目の前の群衆がどっと沸いた。


「リンドバルデン国を治める王――ヴィラン・ロッツェリア陛下より賜ったお言葉である!」


 中央広場の中心部に設置された高台より、高官だとわかる衣服の男が、魔力によって自分の声量を高める魔導拡声器によって呼びかけていた。


「今を持って首都の全ての門を閉じさせてもらった。つまり、このゲームが終わるまで誰も国を出ることは出来ないという事である。そして、キミ達が探すべき代物は――」


 周囲からどよめきが広がる。


 どういうことだ。そんな物みつけるほうが不可能だと野次が飛ぶが、衛士達が武力と怒声で黙らせる。


「アホォか! オメェ。んな、特徴もない書物一冊をよぉ! どうやって見つけりゃいいんだァ? アァ!?」


 リーが声を張り上げる。衛士達が人垣を割って黙らせようとするが、さすがにボスをこのまま大衆の目の前で袋叩きにされるわけにはいかないと、智天使の面々が盾になるように立ちはだかる。両者共に敵意をぶつけあう。


「もちろん、特徴が無いわけではない。見るも禍々しい血のような赤い表紙をしており、我がリンドバルデン国の紋章が記されている」

「ははん。んで? どうしてよォ、王様はそんな権力で手に入りそうな書物をご所望なんだァ? 王家の紋が入ってるつーことはだ。えらい高価な物なんやろうな」

「……そうだ。今回、キミ達に探してもらう品は以前、宝物庫より盗み出された値がつけられない程の代物だ」

「へぇ……。どうして、王様はそれがまだこの国にあると? もう、持ち逃げされてるかもしれないやろ」


 リーは理解不能だというように肩を竦める。それは、そうだろう。宝物庫から盗んだものを、犯人がいつまでも国内で保管しているとは考えられにくい。


「その書物の力がこの国内で漂っていると、優秀な宮廷魔術師達が言っていたのだ」

「力が漂ぅ? 意味わからんわ。アホくさ……だが、そんな事はどうでもいいんや。ようはソレ見つければ報酬がたんまりもらえるんやろ? だったら、それで十分や」


 リーの態度が腹に据えかねないといった衛士達は食って掛かりそうなほどに怒りを露わにしている。リーは更に火に油を注いでいく。


「安賃金で働かされてる衛士諸君も大変やなぁ。俺達みたいに? ビシッと高価な服も着られねぇで、毎日毎日、汗水たらして働いてるんやからなァ! んじゃ、俺達がその本見つけて稼がせてもらうわ」


 リーは周囲に待機させている部下を引き連れ、群衆が割った道を闊歩していく。ヨムカの視線の隅には低身長のバロックがやれやれと肩を竦めていた。


「書物の特徴は今言った通りだ。期限は明日の夕刻までとする! それでは、諸君。いまここに宝探しゲームを開始させてもらう!」


 高官の合図により、人々が蜘蛛の子を散らしたかのように中央広場から姿を消した。


 そして、ヨムカは報酬に目の眩んだ群衆の背を見て、ニヤリと小さく笑った。

こんばんは、上月です(*'▽')


いやはや、ずっと更新停止していてようやく動き出しました!

次の投稿は来週中です!


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