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初任務の引率者

 周囲の雑音と全身の痛みにヴラドは目を覚ます。


「あっ! 先輩目が覚めましたか?」

「あぁ……ヨムカか、此処は何処だ?」


 目覚めたばかりで意識がまだぼやけていた。


「先輩が以前入院した病院です」


 そうか、と短く返す。


「どうやら、意識が戻ったらしいな。ヴラド・カッセナール」


 病室の扉を開けて、治安維持法政局討伐第一部隊の隊長が姿を見せるとヴラドは軽く溜め息を吐く。


「ジェイバス、俺に何のようだ」


 ヨムカはそこで初めて男の名を知る。


「カルロ君……だったかな。あらかたの事情は彼から聞いている。それを踏まえて俺はお前に一つ聞きたい。異形はどうした?」


 ジェイバスは眉間にシワを寄せ、より一層に厳つい顔となり、脅すような口調にヨムカは身を強張らせる。


「さぁな、カルロに何を聞いたかは知らないが俺は何も知らん」


 めんどくさそうに答える普段通りのヴラド。


 ジェイバスは腰に下げているナイフを引き抜き、ヴラドの首筋に強く押し当てる。


「答えろッ! あまりふざけるなら、いくら大貴族の息子だろうが俺は非道な手も使うぞ」

「だから、知らねって。アイツが勝手に爆発したんだよ。んで、俺はたまたま運良く耐火性の家具に助けられただけだ」


 互いに視線を交え、ジェイバスはヴラドの発言の真偽を見定めるように瞳を注視する。


「ナイフ退けてくれないか?」

「……いいだろう。お前の眼からは偽りを見出だせなかった。では、失礼する」


 ジェイバスは背を向け立ち去ろうとした所でヨムカに振り返り、ヴラドにみせた強面ではなく柔和な表情を見せる。


「ヨムカ殿、キミの書物は明日にでも自宅に届けさせてもらう。もちろん、謝罪の品を含めてな」

「えっ……あっ、はい。ありがとうございます」


 ヨムカは戸惑いつつもペコリと小さく頭を下げる。


 ジェイバスは可笑しそうに口元を少し吊り上げて、今度こそ病室を出ていった。


 ジェイバスが帰宅したことにより今この病室にはヴラドとヨムカの二人だけとなり、僅かな沈黙をヴラドが遮る。


「怪我は無かったか?」

「はい、私は特には無いです」


 異形から付けられた傷はないが、手には青アザが出来ていたので袖で隠す。


「でも、戦えない先輩を残して私が逃げたせいで……」

「戦えない先輩って……お前は俺を馬鹿にしてるのか?」


 苦笑しながら、俯くヨムカの頭に軽い手刀をお見舞いする。


「いたっ!」

「いいか、ヨムカ。あの状況で二人残って全滅する訳にはいかなかったんだ。一人が応援を呼ばなきゃならない。なら、俺より足が速いお前を行かせるという判断は間違ってないだろ?」


 衣服屋から飛び出したヨムカをヴラドは追い付けなかった事からの判断。


「でも先輩が瞬殺されたら、逃げる間もなく私も死んでいたと思います」

「俺ってホント信用ないな。よし、ならお前に一つ良い事を教えておく。俺は仲間に対しては嘘は言わない。いいな?」

「はぁ、わかりました。取り敢えずはその言葉を信じます」


 クラッド達が持ってきた見舞いのリンゴの皮をナイフで器用に剥き、皿に並べてヴラドに差し出す。


「どうぞ」

「ああ、悪いな。というか俺はどれくらい寝てたんだ?」

「一日です。ちなみに明日の任務は見送る方向で話しは進められています」


 手渡されたリンゴを口に放り込み、果汁の甘さが心地よく、いくばくかの痛みを忘れさせてくれた。


「いや、中止にはしないから安心しろ」

「何言ってるんですか、隊長である先輩と副隊長のロノウェ先輩が不在で任務なんて出来るわけないじゃないですか」


 任務を行う場合は隊長、もしくは副隊長の同行が条件なのだが、今目の前の隊長は話しを最後まで聞けと肩をすくめる。


「確かに、任務に着く場合には隊長か副隊長の同行が必要だ。だが、別に所属する隊長とは規約には書いてないだろ?」


 ヨムカはどうだったか、と考えているとヴラドが話しを続ける。


「まぁ、書いてないんだよ。んで、明日の任務には六八部隊から隊長を借りるから大丈夫だ」

「六八部隊……」


 脳裏には他人を見下し、嫌な喋り方をする男の姿が鮮明に浮かび上がり、首を勢い良く横に振る。


「絶対に嫌ですっ! どうして、よりによって六八部隊なんですか!? 隊長なら誰でもいいんですよね? でしたら、八三部隊のベナッドさんでも――」

「確かに、ベナッドは些細な事にも気配りが出来るし、指揮力も悪くはないんだがなぁ~」

「何か不満でもあるんですか?」


 素直に頷けないヴラドにヨムカは問う。


「今回の任務には不向きなんだよ」


 任務の内容を聞いていなかった事を思いだす。


「不向きって、どんな任務なんですか?」

「ある貴族が国を出るんだが、その警護だ。アイツ、あんまり貴族に良い印象持ってないんだよ」


 ヨムカは何故と聞き返したかったが、他人の事情に首を突っ込む訳にはいかないので、素直に頷いておく。


「そんで、ある程度の爵位を持つカルロなら、変に貴族からいびられることも無いしな。というわけだ、地図と手紙を書くからカルロの家に行ってきてくれ」


「……は? 私が行くんですか?」

「今この場にいるのがお前しかいないしな」

「はぁ……わかりました。行ってきます」


 渋々承知するとヴラドは紙にペンを走らせる事数分、これまた器用に紙で封筒を造り手紙を入れる。


「こっちが手紙で、これが地図な。それと少ないがお駄賃だ。夕飯に一品加えておけ」


 渡されたお駄賃は少ないというわりには、ずっしりと重みを掌に感じる。


「頂きます!」


 ヨムカはその全てを衣服に仕舞い病室を出る。

こんにちは、上月です(^-^)


投稿が遅れてしまい申し訳ないです。

次回はヨムカ達の初任務となります。カルロを隊長として貴族の警護となりますので、もしよければ読んでください

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