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国の中枢を担うもう一つの機関

 ヨムカは治安維持法政局討伐第一部隊の二人とかれこれ三十分くらい行動……走っていた。


「はぁ……はぁ、肺が……脇腹が」


 普段が長時間駆ける事などないヨムカの身体は、限界を迎えようとしている。第一部隊の隊長が背後で息を切らしているヨムカを一瞥すると、軽い溜め息を吐いては隣にいる女性に目で合図を送ると、やはり女性も後ろに視線を向け互いに仕方ないと頷き合って、少し速度を落とす。


「五分だけ休憩を挟む。カーリー、周囲に警戒を」

「了解」


 男が女性に命令し、それに短く返答して民家の窓等を利用して屋根に昇る。


「大丈夫か?」

「は……はい、すいません。私の体力が無いせいで余計な時間を使わせてしまって」

「気にすることはない、キミはよく頑張った。正直言えばもう少し早い段階で体力が尽きると思っていたのだがね」


 男は厳つい顔に慣れぬ笑みを浮かべる。


 その笑顔は少しひきつっていたようにも見えた。


「こんなモノしかないが、良ければ食うといい」

 

 そう言って、ズボンのポケットから取り出したのは紙で包まれたクッキーだった。


 ヨムカはソレを受けとるべきか否かを少し考えたたが、ちょうど小腹が空いていたので、恐る恐る受け取り、一枚を口に含む。


「あったかい……?」

「ああ、ずっとポケットに入れていたからな、体温で温まってしまったんだろう」


 ヨムカはただ黙ってモサモサのクッキーを咀嚼し飲み込む。


「御馳走様でした。あの……」

「なんだ?」

「えっと、さっき押収された小説って返していただけるんですか?」

「中身を調べて、怪しげな代物でなければ直ぐにでも返却しよう。アレはそれほどに大切なものだったのか?」

「あれは、先輩……隊長がプレゼントしてくれたものなので、でも戻ってくるなら安心しました」


 男は「そうか」と少し申し訳なさそうに視線をヨムカから外して、壁に背を預け、懐から一本のタバコを取り出す。至福の一時だと言うように白煙を吐き出した。


「女性の身体的特徴について聞くのは気はが引けるのだが、その髪と瞳は生まれつきか? いや、別に答えたくなければ答えなくていい」


 これが先程ヨムカに怒声を浴びせていた男と同一人物なのかと、疑いたくなるほどの態度に困惑する。


「生まれつきです。だから、私はこの瞳と髪の事を調べるためにこの魔術学院に入学しました」

「そうか、それで何か分かったか?」


 嘘か真かは分からないが、夕日色は希望だとある魔術師は言っていた。


「まだ、分かりません」


 宙を漂う白煙を男はぼんやり眺めながら、何かを思案しているような気がしたので、ヨムカは黙る。


「夕日色の瞳と髪を持つ者は希望だと……以前に読んだ書物に書いてあったな」


 希望……あの魔術師と同じ答え。


 ヨムカはその事が記されている書物に興味を抱いた。


「その書物は何処で読めるんですか?」

「俺達と並ぶこの国の中枢を担う機関――禁忌魔導保安管理局だ」

「……?」


 聞いたことがなかった。


 治安維持法政局はこの国の危機的状況に一人一人が法の束縛を解かれ、いかなる非道な手を持ってしても国を乱す存在、団体を一切の容赦もなく殺戮しつくす猟犬部隊。


 だが今、男が述べた部隊は初耳だった。


「隊長! 西側に謎の発光と爆発を確認しましたっ!」

「分かった。休憩は終わりだ。今この場にいる三人で現場に向かうぞ!」


 休憩をしている時の柔らかさは何処へ、男の顔つきは一変して部隊を纏め上げる隊長というに相応しいそれとなる。


「カーリー、お前は屋根の上から先導だ。くれぐれも周囲には気を配れ」

「了解です」


 カーリーは屋根を伝い走り、それに続きヨムカ達も導かれるままに行く。


「先輩……」


 今は何処にいるのか、怪我はしていないかと、頭の中を延々と巡り焦りを生んでしまう。


「走りながら喋れるか?」

「えっ……?」


 目の前を走っていたはずの男はヨムカの速度に合わせ並走していた。


「お前の隊長の名は?」

「えっと、ヴラド・カッセナールです」

「ヴラド・カッセナール……大貴族カッセナール家か。安心しろ、あの坊っちゃんは簡単には死なない」

「先輩……隊長を知っているんですか?」

「ああ……まぁな」


 歯切れの悪い返しに、ヨムカは違和感を覚えた。


 その事について聞こうとしたが、男は逃げるように速度を上げてヨムカと距離を開ける。この人はヴラドの何を知っているのだろうか。気にはなりつつも置いていかれないように根気を持って足を動かす。


「隊長! 例の場所に二名の人を確認。如何なさいますか」


 屋根上からの報告に男は緊急事態故に考える間もなくカーリーに命令を下す。


「捕らえろ、反撃の意志があった場合は殺さない程度に沈めろ」

「はっ!」


 カーリーの姿が見えなくなる。


「あの……大丈夫なんですか?」

「問題ない、彼女は有能だ」


 部下に……彼女に対する絶対的な信頼は、上官と部下の関係だけで成立するものだろうか。いくらカーリーという女性が強かろうと、今回の相手は正規の騎士と魔術師数人を一瞬にして物言わぬ亡骸に変える力を持った存在だ。もしその二名が異形の仲間だった場合、分が悪すぎるのではないだろうかとヨムカは不安に表情を曇らせる。


「どうして、そこまで信用出来るんですか?」


 ヨムカと男は路地を曲がり薄暗い一本道を駆けながら問う。


「アイツとは付き合いが長いからな。部隊を率いる者としてこういう根拠がない信頼は危険を呼ぶことは重々分かっている。だが、カーリーは大丈夫な気がするんだ」

「はぁ……っ!?」


 取り敢えず頷くと、奥から銃撃と思われる耳を塞ぎたくなるような発砲音が二度響く。



「……音からしてかなりの大口径だな。そこを曲がればターゲットと出くわす。お前も魔術師なら自己防衛くらいできるな?」

「……はい、大丈夫です」

「よろしい!」


 ほぼ二人同時に路地から抜けると、ヨムカはその光景に我が目を疑った。


「かはっ……ぐぅ」

「隊長、抵抗を確認したため無力化させました」


 カーリーは自身より身長の高い男性の首を鷲掴み、宙に持ち上げていた。男性は力なく宙吊りになり、その手から銃身の長い回転式銃を取り零す。


「あっ!」


 そして、もう一人。


 地面に伏せては、カーリーに頭部を踏みつけられている男性に視線が移った時に声が漏れる。


 そして、今一度首を締め上げられる男性の姿を見たとたんに全てを理解し、咄嗟に駆け出していた。


「まっ、待ってください! カーリーさん二人をっ……二人を解放してくださいっ!!」


 ヨムカは力の限りカーリーの足を退かそうとするが、まるで全く動きやしない。


 その努力に困惑したカーリーは隊長に指示を仰ごうと一瞥すると、不承不承といったように視線を交わし頷く。


今まで全く動かなかった足が退かされ、宙吊りにされている青年も解放される。


「先輩! 先輩ッ!」


 涙目になりながらも意識を失っているヴラドの身体を揺すり動かす。


「手当てはされているようだが、傷が深いな……だとすると出血も尋常ではないはずだ」


 男はヨムカの隣に膝を折り、ヴラドの身体の隅々まで確認していく。


「カーリー、そっちの青年はどうだ?」

「こちらは問題ありません」

「よし、救援光を使え! 彼等を医療機関に運ぶ」


 カーリーは考える素振りを見せ、確認するかのように問う。


「化け物に気付かれる可能性が……」

「構わない、やれ!」


 その言葉に反論する事なく手掌を上空に掲げ、瞳を伏せ短く言葉を発する。


 魔力はカーリーの足元から彼女を中心に螺旋を描きながら昇り掲げた手掌に集結し、色濃い紫の球体が形成され天に放出される。


 放たれた球体は天高く昇った場所で国全体に響く破裂音と共に球体も弾け、無数の紫色に煌めく流星が国を流れる。

こんばんは上月です(^-^)

今回は土曜日に投稿できました!

さて、次回も来週に投稿しますので宜しくお願いします。

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