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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第2章 蔓延るフォーサー!それぞれの想い
14/42

@第12話 最初に戻る。

@第12話 「最初に戻る。」





・・・あれから既に一週間の時が経過していた・・・。

つまり、今日は週末の金曜日だ。

チェーン怪人ことトレディシオン・ルイナーとの戦闘を最後に、

2週間近く他のフォーサーとは戦っていない事になる。


たぶん、俺がアリエスに変身しなくても済むような状況が

平常なんだとは思うけどね・・・。

むしろあんなキチガイに絡まれる方がどう考えても異常。




今日は東京のアブソリュート・アーツ社にて

俺がレンタルしてる幻想覇者げんそうはしゃフィースネス・アリエスの

メンテナンスをやりたいらしい。

向こうはそうやって時間ある時にでも使用者を呼ぶしかないんだろうけど、

学校終わりにバイクで岩手から東京に行かされる俺の気持ちも少しは考えろ!


でも、それなりに優遇されてる事は事実だ。

高速道路の利用料金は会社負担だし、

ガソリン代も全額向こう持ち。

おまけに今日は遅くなるから

都内の高級ホテルの予約もしてくれているとか。



・・・そんな訳で、

俺は無料でドライブがてら東京観光に行く事ができる。

全然ドライブの距離じゃないけど・・・。






気が付くと俺の乗るバイクは

アブソリュート・アーツ社、本社ビルの敷地内に到着していた。

適当に玄関付近の平らなスペースへと駐車し、フルフェイスのヘルメットを取ると、

外の寒さが身に染みるほどに俺に襲い掛かってきた。

急いでキーを抜き取り、まるで外帰りのこたつにでも入るように

ビルの玄関へと走ると、とある異変に気付いた。


・・・ロビーの電気が付いていない・・・だと!?


ビルの自動ドアにめいっぱい近付いても、

既に施錠されているらしくて、まったく反応しない。

人の事を呼んでおいて自分たちは帰ったのかよ!

何て無礼なヤツらだ!オイ。

俺はイライラのあまり、目の前の自動ドアを蹴飛ばした。

ドアがガタガタと揺れる様子を呆然と見ていると、

俺の背後に何者かの気配を感じた。


「くっ!?」

俺は反射的にウインドブレイカーの右サイドに入れていた

変身用タブレットを取り出し、その気配の方向へと向ける。

・・・変身にはタブレットを装填するためのベルトも必要だけど、

肝心のベルトはバイクの運転モニター下の収納スペースにいつも入れている。

つまり、今はどう足掻いてもアリエスに変身できない。


俺はどうにか余裕の表情を見せようと頬の筋肉を緩め、

不敵な面構えを演出するが、

目の前には見覚えのある背の高い男が

白衣姿でそこに立っているだけだった。


「ま、待ってましたよ、はじめ君。」

・・・出たー!

そこに現れたのはオドオドノッポの中田なかた あらたさんだ。


「えーお久しぶりです。

 ビックリさせないでくださいよ!もう。」

「そ、それより専用バイクと一緒に地下の研究施設に来てください!

 み、皆さん待ってますよ!」

中田さんにしては珍しく、俺の話を堂々とガン無視しやがった・・・。

この人は口調だけだと弱そうで生身の俺でも倒せそうな気がするけど、

身長は180cm以上ある巨体だからそこそこの威圧感がある。

もうちょっと上手くバランスを振り分けられなかったんだろうか・・・。


俺は渋々とバイクに乗り、再度キーを挿すと

地下室に続くビル脇の通路へ向かってスタンドを蹴り上げた。


























―――――その頃、月光つきみつ 夏景かけいは―――――




・・・この一週間、僕は吹雪ちゃんのために吹雪ちゃんを忘れようと

必死に努力をしてきた。


月曜日以外は学校を休んで、家で気持ちの整理をしようと必死になっていた。

迂闊に学校に行って吹雪ちゃんの事を見る事すら

今の僕には辛かったからだ。


かと言って家にいてもなかなか気を落ち着ける事はできない。

僕の頭は放っておけば自動的に吹雪ちゃんの事を考え出すし、

吹雪ちゃんは学校を休む僕に毎日LINEを送ってくる。

僕はそんな偽りの優しさほど、

お互いに価値のないものはないと思っている。


だから学校を休んだにも関わらず

あんなに忙しかったのは初めてだったかもしれない。

ちょうど今日で、吹雪ちゃんと付き合い始めてから3か月が経つ。

この3か月は本当に楽しくて、あっと言う間の時間だったような気がするけど、

たぶん更に今日から3か月経ったところで僕は吹雪ちゃんを忘れられないと思う。

いや、1年経っても僕の心情は変わらないだろう。

僕にとってはそれだけの存在だった。

その程度を確かめる方法は無いけど、

僕だけはそれを事実として受け止めるしか無さそうだ。




僕はそんな事を一人寂しく考えながら、

塾帰りの国道沿いを歩いていた・・・。

ふと進行方向の右を向くと、

土手の下辺りで中年のおじさんたちがわいわいとお花見をしているのが見える。

岩手では5月に入った辺りにはお花見シーズンになるから、

この時期の川原は桜目当ての人たちで賑わう。

あの楽し気な雰囲気の中で吹雪ちゃんとお花見をしたかった、

なんて思ってはいけない・・・。

でも、僕は自然と川原の草原に吹雪ちゃんの姿を投影してしまう。

もう駄目そうだな・・・この目は。

いや、駄目なのは僕の頭自体なのか?

僕は頭の中に浮かんだ変な考えを振り切るように両手の拳を握り締め、

自分の帰路の方を見つめた。

・・・さっさと帰って今日はもう寝よう。

来週はさすがに学校に行かないと授業が分からなくなるし、

仮病を振る舞ってる両親にも心配をかける事になる。




・・・僕がその視線を自宅への帰路に向けたその瞬間、

その目にはとんでもないものが映り込んだ。

僕とは対局側から歩いてきたとある人間と向かい合う格好になった。


夏景かけい・・・?」

そう、僕の対局側から歩いてきたのは他の誰でもない、

吹雪ちゃんだった。

僕の家は少し学校から距離があるから

たぶん一度家に帰ってから来たんだろう。

山村高校の制服ではなく、白いワンピースを着ている。

それは今の僕に見事に夜の桜を連想させているかのように思える明るさ。

以前まではこんな帰り道に彼女に会えるなんて嬉しい事があれば

テンションが上がって元気になっていただろうけど、

今となってはむしろ謎の嫌悪感だけしかない。


「今週ほとんど学校来ないから心配して

 夏景かけいの家までお見舞いに行ったんだよ!

 そうしたら普段通り塾に行ったって言われて・・・。」

吹雪ちゃんは心配そうな様子でゆっくりとそう続けた。

僕が学校を休んでいたのは吹雪ちゃんに会いたくなかったからだ。

塾に行くぐらいは今の僕にだって何の差支えもないから、

学校を休んでも通い続けていた。


「僕の事は・・・放っておいてくれないか?

 それに、こんな夜中に女の子1人じゃ危ない。」

ここで以前通りまた吹雪ちゃんに依存するような事になっては

1週間も学校を休んだ意味がなくなってしまう。


「だって・・・夏景かけいの事が心配だったから・・・。」

吹雪ちゃんはそう言うが早く、僕との距離を縮め、

突然僕の両手を握り、持ち上げた。


「私はたぶん・・・夏景かけいの事を嫌な気持ちにさせたと思う。

 だから、それをずっと謝りたかったんだよ。」

吹雪ちゃんはまっすぐに僕の目を見つめ、

今にも泣き出しそうなか細い声を出す。

この人が簡単に嘘を付かない事を僕はちゃんと分かっている。

しかし今吹雪ちゃんが泣きそうなのは僕のせいなんだ。

僕のせいで吹雪ちゃんが泣きそうになっていると言うのであれば

いち早く彼女とは離れる必要がある。

彼女を悲しませたくないっていうのが僕の一番の望みであるからには

例え対象が僕自身であっても、邪魔者は排除されないといけない。


「・・・いや、謝らなければならないのは僕の方だと思う。

 僕は勝手に、吹雪ちゃんなら僕がフォーサーだと知ったところで

 変わらず僕と接してくれると思ってた。

 何の根拠も無く・・・。

 それが吹雪ちゃんを苦しめる事になるとは思わなかったんだ。」

僕はそう言い、吹雪ちゃんの手を振り切ると、

彼女はうな垂れるように落ち込む様子を見せた。


たぶん、吹雪ちゃんだって分かってるはずだ。

フォーサーである僕と付き合い続けるのがどれだけ危険な事なのか、

また、そうやって嫌悪感を抱きながら送る生活には意味がない事を。

吹雪ちゃんが僕に優しくしてくれるのは素直に嬉しいけど、

そうやって無理をさせて僕を気遣わせるのだけは防がないと・・・。




「僕は吹雪ちゃんの気持ちが分からなかった。

 それはたぶん、吹雪ちゃんの相手として

 僕がそぐわない事を意味してるんだと思うんだ。

 だから・・・最後は僕から言わせてほしい。」

僕がこれから言おうとしている事を吹雪ちゃんは察したらしく、

若干顔を上げたが僕の顔は見ようとせず、

不安そうな表情で僕の足元ら辺をジッと見つめている。

そんな吹雪ちゃんの表情が目に入ると、

あろう事か僕は自分の決断通りに口が動かなくなってしまった。



・・・それは一瞬の出来事だった。

よくある心と体の状態の不一致だろう。

この一週間、僕は彼女を忘れようと決め、

心から体へその決断を一生懸命に言い聞かせてきた。

そして完全に体を支配したような気になっていたけど、

今、実際に決めた事を言おうとすればこうなってしまう。



・・・HRSによってフォーサーの力を得ても、

僕は何も変わっていなかったんだ。




その時、僕の視界の中の吹雪ちゃんは何かに気付いたように

僕の背後の方へと瞬時に視線を移したのを僕は見逃さなかった。



夏景かけい、あの人は・・・?」

吹雪ちゃんが指差す方向、つまり僕の背後を振り返ると、

5mほど後ろに一人の男性が道路脇の街路樹に寄り掛かるように

腕を組んで立っていた。

男は僕たちの視線を感じたのか、寄り掛かっている木から離れ、

こちらに近付いてくる。


「お話はまだ途中のようでしたが、もうよろしいでしょうか?

 あなたが月光つきみつ 夏景かけい君ですね?」

見知らぬ男はなぜか僕の名前を知っているようだ。

その男は細身の体型で顔には縁が四角いメガネを掛けている。

服は、トップスは羽織るように着た黒いライダースジャケット姿で、

中から白いシャツを覗かせている。

ボトムスはスーツのような高級そうな生地の黒いスラックス。

髪は若いサラリーマンのように全体が左下に流れる髪型をしている。

その口調と容姿だけではとても不審者には見えないけど、

この時間に面識のない大人が急に声をかけてきたと言うならば、

ソイツは不審者だと思って間違いないだろう。


今の21時30分ぐらいならばまだ他の通行人も皆無じゃないし、

国道沿いという事もあって車通りもある程度はある。

こんな状況で僕に何の用だって言うのか・・・?




「一体、僕に何の用が・・・?

 その前にあなたは誰ですか?会った事ありませんよね?」

僕がそう訊き終わる直前に、

彼は待ち切れぬとばかり僕の声に割り込んできた。


「あなたがマキシマムフロッグ・・・ですよね?

 無限再生能力を持つ、という。

 私は上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきと申します。」

「何?」

僕がフォーサーである事を知っている・・・。

それにその名前もきちんと押さえている、という事は

当てずっぽうで僕に声をかけてきた訳ではなさそうだ。

それなら・・・この男もフォーサーの可能性が高い。


「・・・隠す必要は無さそうだ。

 僕は最強のフォーサー、マキシマムフロッグだ。

 僕にここで勝負を挑む、というなら引き受けるけど、

 おそらく後悔する事になるぞ?」

「フッフッフッフッ・・・」

僕が脅すと、その細身の男は分かるように両肩を揺らしながら

籠った笑いをこぼし始めた。

今、僕の後ろには吹雪ちゃんがいるから、

できる事ならばここでの戦闘は避けたい。

というのは吹雪ちゃんが危険という事もあるし、

これ以上、吹雪ちゃんの前で

僕のフォーサーとしての存在を見せ付けたくないというのもある。

それに、ここは国道沿いの歩道で、まだ自動車も時折通っている。

これでは見掛けた人が通報をしてもおかしくない。


「あなたが最強のフォーサーですか。

 それは、それは・・・面白い!」

男は面白い、と言った直後、

表情を一瞬のうちに曇らせ、僕の事を睨み付けるように鋭い視線を向けてきた。

四角縁のメガネの奥の異様なまでの眼光に貫かれ、

さすがの僕もその場から一歩後退する。


「そういうのは不愉快なんですよ・・・ジェネレイトッ!」

彼が怒りを込めるが如くそう叫ぶと、

突然男の肩や肘の部分に地面すれすれまで伸びる「チェーン」が生え始め、

みるみるうちに全身が、黒く光沢掛かった機械質な身体へと変貌していく。

数秒と掛からずに、そこに漆黒のトゲトゲしい怪人が出現した。


「吹雪ちゃん!あっちに逃げて!」

僕は自分がフォーサーに変身する事よりも

一刻も早く吹雪ちゃんを避難させる事に夢中になっていた。


「夏景・・・うん、分かった!

 絶対、負けないでね!」

吹雪ちゃんはそう言いながら僕の自宅がある方向、

つまりは吹雪ちゃんが歩いてきた方向に走っていった。


「お別れは済んだようですね。

 さぁ、早く変身してくださいよ。」

僕の背後ではその黒いフォーサーがくぐもった声で催促をしてくる。

どうやらよほど僕との戦闘を心待ちにしているようだ。


「不謹慎な事を言うなよ。

 ところでお前、どうして僕がここを歩いてくると分かった?」

「私の部下に一週間以上前から尾行させていたのですよ。

 どうやらあなたにはそれくらい倒す価値があるようなので。」

・・・まさか、一週間前から帰り際に尾行させていたと言うのか?

これは気持ち悪いほど僕の大ファンって事だ。


「僕はここ最近は怪人態に変身していない。

 だからお前たちには僕のフォーサーとしての

 恐ろしさは理解できていないはずだ。」

「あなたの恐ろしさ、ですか?

 フッ、笑わせないでくださいよ。

 このフォーサーの王、

 トレディシオン・ルイナーが何に怯えるとお思いですか?」

コイツ、自分の事をフォーサーの王と言っているのか?

どれだけの戦闘ができるのかは分からないけど、

思い上がりも良いところだ。


「僕の前でフォーサーの王を名乗るとは、命知らずのようだね。

 良いだろう、変身ッ!!」

僕は自分の両手に力を入れて握り締め、

俯きながら目をつぶった。

他のフォーサーがどうやって変身するのかは分からないけど、

たぶん、みんな自分自身の変身用の構えがあるはずだ。

いきなり人ごみの中で怪人態に変身する事がないように、

各自、普段の生活ではわざわざやらないような動作に

怪人態へ変身するためのスイッチを入れる役割を担わせている。




月光つきみつ 夏景かけいは全身を深緑色の湿った皮膚に包まれていき、

そのまま人間サイズのカエルを模した怪人、マキシマムフロッグへと変貌した。

それを見るなり、今か今かと待ちわびていたフォーサーの王、

トレディシオン・ルイナーは地を蹴り放ち、

目の前のカエルの頭部目掛けて右フックを繰り出す。


カエルは体勢を低くし、その頭部に放たれた拳を避けると、

今度は頭からルイナーの懐へ突っ込むように頭突きを繰り出した。

が、それに素早く反応したルイナーは両手を使い、

突進してきたカエルの頭を両サイドからがっしりと掴むと、

そのまま引き寄せ、自身の右膝を繰り返しカエルの顔面へと突き出す。

ルイナーの膝が命中する度に、何やら果物が潰れるような

気色の悪い音が響き渡る。


ルイナーは何度目かの膝による攻撃で一度中断し、

最後の一発と共に押さえていた両手を放した事で

カエルは後方へと飛ばされ、地面へと仰向けに崩れ落ちた。




「随分と脆い身体ですね?

 この程度で変形してしまうとは・・・。」

ルイナーは呆れたように腕組みをする。

見ると、確かにカエルの顔面はルイナーの膝により

ぐちゃぐちゃに潰されており、

ただでさえ不気味なカエルの顔がますます恐ろしい容姿になっている。


「まぁ・・・あなたの自慢の能力は知っているのですが。」

ルイナーがそう言い終わるとほぼ同時に、

カエルはやおら立ち上がり始めた。

が、そのカエルの顔面はまるで粘土でもこねるかの如く、

見る見るうちに歪みながら元の形を取り戻し始めている。


「どうだい?壊してもすぐに再生される気分は?」

カエルは余裕がにじみ出るような口調でルイナーを挑発する。

すると、ルイナーは組んでいた腕を解き、

再びカエルに向かって走り出した。


「ならば、再生限度を超えるまでボロボロにするまでですよ!!」

ルイナーは決して焦る事なく、

自分の勝利を確信しているかのような余裕だ。

互いに相手には負ける気がしないらしい。


























―――――その頃、東京に行ったはじめは―――――




「う、うわぁ・・・結構な損傷がありますね。

 さ、さすがに2週間も使っていればこうなりますか。」

中田さんは、俺が変身するアリエスの専用バイク、

SHFシープ・ホーン・フィースのシートを開けて、

内部から中二宮Xレアの各装甲を取り出していく。


普段はおどおどしている中田さんがガチで驚いているから、

それだけ俺の使い方が雑だったんだろうか・・・。

変身している時は自分の変身した姿なんて確認しないから分からなかったけど、

確かに今見てみると、各所凹んでたり、汚れていたりと、

リサイクルショップのジャンク品並みには汚い・・・。

・・・俺が変身して戦ったのはまだ2回なんだけどなぁ。


俺はハッと気付くと、

いつの間にか中田さんが率いる他のメンテナンス担当者もぞろぞろと集まり、

俺の周りには十数人の作業員による人だかりができていた。




「・・・そ、そういえばはじめ君と話がしたいという人がいます。

 れ、例の「フォーサー対策関連研究室長」です。

 こ、このフィースネス・アリエスは僕らが今日中には修理しますので、

 その間彼に会ってきてください。

 か、彼は8階の第3会議室で重要案件のミーティング中です。」

・・・アーマーの修理ってそんな早く終わるのかな?

一体その人と何時間話してれば良いんだよ、オイ。

まぁ、自分が変身するアーマーの開発者だっていうのに

今まで会う機会が一度もなかったから、せっかく会えるなら嬉しいか。

でも重要案件のミーティングって、

そんな中に俺が乱入しても大丈夫なのかな・・・?


「今って勤務時間外ですよね?

 玄関は閉まってましたし・・・。

 こんな時間でもまだミーティングの最中なんですか?」

「こ、このアブソリュート・アーツ社には

 アーマー開発以外にも様々なプロジェクトがあります。

 で、でもその中でもフォーサー対策関連プロジェクトは

 やっぱり人の命に関わる重大な企画なので、

 こうしてよく時間外に引き延ばされて話し合いが行われるんですよ。」

「そうなんですか・・・。」

俺が少し躊躇っていると

中田さんが早く早く、といったように手で俺の事を

その場から追い払おうとするから、

そのままの勢いで俺は部屋の隅へと小走りで急ぎ、

本部ビルへと続くエレベーターへと乗り込んだ。






・・・俺1人を乗せた箱は本社ビルの8階へと到着し、

案内用ガイダンス音と共に静かにその扉を開いた。

前に来た時にチラッと聞いた話だと、

本社ビル8階には「フォーサー対策関連研究室」に割り当てられた

会議室がズラリと並んでおり、

実質はこの8階のフロア全体がフォーサー対策関連研究室の本部のようなものらしい。




中田さんの言う通り、この時間でも数人の会話が聞こえてくる部屋がいくつかある。

その中のエレベーターから数えて3つ目の部屋。

そこで研究室長さんも参加している重要な話し合いが行われているらしい。

俺はその部屋の前に立ち、一度深く深呼吸をすると、

思い切ってその扉を軽くトントンと2回叩いた。


すると、俺のノックによって室内の話し合いがピタッと止まり、

その中の1人の足音がだんだんと扉へと近付いてきた。

俺の「やっちまった感」が半端じゃないんだけど・・・?


「・・・なんだ、陽遊ようゆう はじめか。」

中からはなんと私服姿の天然パーマの男性が

扉から顔を半分ほど出して俺を確認してきた。

大事な会議中にこんなカジュアルな赤いチェックのシャツを着てるとは、

色々凄いと思う・・・。

この常に不機嫌そうな視線が鋭い人は確か、

この前に地下の研究室で見た蔭山かげやまさん、だった気がする。


岡本おかもと、お前が呼んでいた客だ。」

蔭山かげやまさんは少し声を大きくして室内に向けて誰かを呼ぶ。

岡本おかもとって聞こえたけど、その人が研究室長なのか?


「あのー、今忙しかったら別に俺は良いんですけど・・・。

 なんか俺空気読めてない気がするんで・・・。」

俺は目の前のもじゃもじゃ頭の蔭山かげやまさんの気迫に押され、

無理に呼ばなくてもいいんですけどオーラを全面に出す。


「あぁ、確かにお前は空気を読めていないな。

 だがこんな忙しい時にお前を呼んだのは岡本だ。気にするな。」

はじめか、よく来てくれたな。」

毒舌で毒を吐く蔭山かげやまさんの後方から

ゆっくりと歩み出てきたのは、上下紺色のスーツに身を包んだ

清楚な顔立ちの男性だった。

眉毛は細く、キリッとした一重瞼からは

どこか信念を貫くような強い意志が伝わってくる。

そして藤原先生から話は聞いていたけど、

研究室長という割には相当若く見える。


「あ、あぁ、どうも。」

「アーマー製作者の身として

 使用者とは一度顔を合わせておきたかった。

 こうしてわざわざ来てくれた事に感謝しよう。」

岡本さんはそう言い、俺の方へと開いた右手をまっすぐに伸ばしてくる。

たぶん、握手を求めてるんだろう。

俺には断る理由が何もないから、そのまま握り返す。


「もし良ければ、俺たちのミーティングに参加していくか?

 あと30分ほどあれば終わると思うが・・・。」

岡本さんはそう言って部屋の中にどうぞ、と言ったように平手を向ける。

たぶんフォーサーについての話なんだろうけど、

こんな機会はまずないから多少興味はある。


「まぁ、アーマー使用者であれば参加する権利は十分にあるだろうな。

 私も賛成としようか。」

隣の蔭山さんもOKサインをくれたらしい。


「じゃあ、ちょっと聞いてみても良いですか?」

「あぁ、その一番手前の席に座ってくれ。」

そう言い、岡本さんは室内のパイプ椅子を指差す。

中は四角いテーブルで4方向を囲み、

いかにも会議室のような机と椅子の配置になっている。

一度に30人くらいは座れるくらいにはテーブルもデカいし、

椅子もたくさん準備がある。

今のミーティングに参加しているのは

岡本さんと蔭山さんを合わせて12人だった。

白衣姿の人もいれば、岡本さんのようにスーツ姿の人もいる。

そして彼らの視線は見事に俺に集中しているではないか!


「君たちにも紹介しよう。

 この子は幻想覇者げんそうはしゃフィースネス・アリエスの使用者である

 陽遊ようゆう はじめだ。」

俺は岡本さんによる紹介を聞きながら足早に指定された席へと着いた。

岡本さんがせっかく俺を迎えてくれたというのに、

元々室内にいた人たちは誰も拍手はおろか、何も反応すらしない。

たぶん話し合いを邪魔されたっていうのもあるだろうなぁ・・・。

すぐさま岡本さんと蔭山さんも自分の席に戻り、

2人はほぼ同時に整然と腰を掛けた。


「・・・という事で、先ほどの話し合いの続きだが、

 裏中二宮Xレア2作目である

 滅烈銃士めつれつじゅうしディコンポーズ・レオの使用者を決めようと思う。」

岡本さんは年上のチームメンバーも多々いる中、

さすがのリーダーっぷりを発揮し、堂々と会議を仕切り始めた。

・・・なになに?裏中二宮Xレアだって?

まさか、中二宮Xレアの強化バージョンか!


「すみません!ウラチュウニキュウって何ですか?」

俺はまるで小学生が教室で元気に発言をするように

勢いよく挙手をかましていた。

またもや俺への苛立ちを込めたような視線が

あちらこちらから飛んでくるのが分かった。


「あぁ、うら中二宮Xレアというのは、中二宮Xレアに続く後継シリーズとなる。

 これまでは中二宮Xレア4種類を開発し、

 それを全国各地の中二病の者へと預けてきた。

 おひつじ座のアリエス、

 ふたご座のジェミニ、

 みずがめ座のアクエリアス、

 そして、うお座のピスケス。」

ほうほう、つまり全国にはそれだけ

俺並みのロイヤル・ハイパワード・チューニクスたちがいたという事か。


「だが、フォーサーの脅威が日々高まる中、

 新たに人間の脳からのエネルギー変換効率を見直し、

 裏中二宮Xレアと呼ばれるアーマーの開発をスタートした。

 それが今から1ヵ月前の事になる。」

つまり、俺が変身するアリエスは

それよりも前に開発されていたって事になるのか。


「裏中二宮Xレア1作目である

 かに座のキャンサーは

 既に専用バイクと共に使用者へと預けてある。

 ただし、問題点としては

 人間の脳をリミッター解除する事によって得られる力を利用する

 チューニドパワーシステムは、実験がなかなかに難しい。

 よって、元々の中二宮Xレアからどの程度強化されたのか、

 という実験は正確には行われないままに

 使用者へと預ける結果となってしまった。」

なるほどね・・・。

裏中二宮とかって名前やパワーを伝える効率を変えても、

どのくらい強くなったかはイマイチ分からないって事か。


「え、なら、俺のアリエスは裏中二宮Xレア化されないんですか?」

「それは当然の事、考えてある。

 だが、俺たち開発側がすべき事は

 とにかくフォーサーと戦うための最低数のアーマーを準備する事だ。

 そのために既存のアーマーの強化ではなく、

 新たな使用者に渡る新アーマーの開発を優先させてもらいたい。

 申し訳ないのだが・・・。」

主人公の装備が物語中盤とかで強化されるのはよくあるバトル漫画の展開だ。

だから、ちょっと期待しちゃったけど、

そういう事なら待つしかないね。


「分かりました気長に待ちます!

 えっと、ちなみに・・・アーマーの量産化はしないんですか?

 フォーサーと戦える人を増やせば増やすほど、

 より戦力は安定すると思うんですが・・・。」

俺は思った事を正直に伝えたつもりだったけど、

岡本さんの沈黙に異変を感じ、彼の顔を見てみると、

岡本さんは視線をテーブルへと落とし、何かを考えるような様子になっていた。


「何か俺はいけない事を・・・?」

「アーマーの量産化をしたところで・・・平和が訪れると思うのか?」

そう言う岡本さんの声は、さっきよりも低くなっていた。

俺は思わず岡本さんから視線を逸らしてしまった。


「中二宮Xレアを扱えるほどの激しい中二病を患った人間は

 全国を探してもそう多くはない。

 だが、中二病患者を何の選定基準もなく選ぶと言うのならば

 100人前後は存在すると俺は推定している。

 その中のすべての者にアーマーが渡ったとすれば、

 第二のフォーサーとなってしまう・・・。

 はじめはそう思わないか?」

突然問われた俺は、思わず岡本さんの方を向き返ると、

彼はまっすぐと俺の目を見据えていた。

だけど、突然の問い掛けに俺は返答できない。


「・・・中二宮Xレアを預けられる人間は、

 これまでにはその性格も加味されて選抜されてきた。

 お前の性格はお前の担任である藤原によって良好と判断されたのだ。

 もちろん、藤原にはアーマーの件は何も話さずに調査したのだが。」

沈黙を見計らい、岡本さんが続けてきた。

まさか俺がそんな性格診断を通ってアーマーで変身できるようになったとは

思いもしなかった。

俺は自分で性格はあまり良くない方だと思っている。

だけど、問題行動を起こしていない、というのは事実だった。

まぁ、表沙汰にならないように毎回上手くもみ消してるんだけどね。


「つまり、前置きが長くなったが、

 今は新しく開発が完了した「しし座」のアーマー使用者を

 決めようと話し合っていた訳だ。」

そう言いながら岡本さんは、全国の候補者が載ったリストをテーブルから持ち上げて

俺に見えるようにしてくれた。

遠すぎてよく見えないけど、

たぶんそのリストには研究室員たちがよく知る人物によって選ばれた

全国のロイヤル・ハイパワード・チューニクス達が載っているはずだ。

何しろ、性格も考慮されるって事だから

コイツは学校でこういう事をしていて、とか詳しく話し合うんだろうね。


「そうなんですね・・・。

 だからこんな夜中に大勢で・・・。」

しまった・・・。

まったくもって俺が参加できるような話題のミーティングではなかった。

今すぐにでもここから抜け出したいんだけど!

人の性格なんてそう簡単には分からないよ!


・・・だけど、言われてみれば性格も気にせずに

完成したアーマーをほいほいとそこら辺の人に配ってたら

その使用者が何をするか分かったもんじゃないな・・・。

確かに、人間を超える力を得て好き勝手に暴れるフォーサーとまったく同じだ。

だからちゃんと時間をかけて使用者を選抜してるって事なんだね。

アリエス装着者である俺は正直、

「世界を守る!!」みたいな事は一切考えていない。

そもそも、俺は護身道具としてのアーマーを託されただけだから

そういう義務はないはずだ。

でも、俺は思い返してみると吹雪ちゃんとかを守ったりもしている気がする。

俺はもしかして自分でも知らない自分の性格を

見透かされたりしているのかな・・・?



























―――――その頃、月光つきみつ 夏景かけいは―――――




「・・・フッ、いつまでそうやって再生できるのでしょうかね?」

自称フォーサーの王、トレディシオン・ルイナーは

マキシマムフロッグの再生能力を試すように、

何度も身体の部位を損傷させていくが、

その度にカエルは完全に再生し、反撃を繰り返してくる。


支配欲の塊であるルイナーとしては

カエルの再生能力を発揮させずには倒せないのだろう。

再生をさせないように繰り返しの連打を叩き込めば

もしかするとカエルの再生の隙を突く事は可能かもしれない。

その考えはルイナーの内にもあった。

だが、そうして勝ってもいわゆるルイナーのプライドが許さない。

相手の無力さを思い知らせ、同時に自身が強者である証明をしなくては

ルイナーは自分の勝利を確信できないのだろう。




「お前だって、いつまでそうして攻撃を続けられるのかな?」

マキシマムフロッグは、再生を繰り返す事による代償は今のところ見当たらないが、

ルイナーには疲労によるスタミナ不足という問題がある事は理解できていた。

ルイナーは確かにフォーサーの王を自称するだけあり、

パワー、スピード、瞬間の判断能力、

どれを取っても自分以上なのは戦闘開始から2分程度で分かった。

だが、そんなルイナーの動きは最初に比べてだんだんとキレが無くなってきている。

明らかに彼のスタミナは減ってきていた。




「フッ、いくらでも続けてあげますよ。

 私はフォーサーの王である以上、こういう余興があっても良い。」

ルイナーは両手のジメチルクローを交差させると、

目の前のカエル目掛けて飛び掛かるように迫る。

だが、カエルはそれを見て素早くほぼ垂直方向に跳躍すると、

空中からルイナーの顔に向けて右足の蹴りを放った。

が、ルイナーはその放たれたカエルの右足先を左手でガッシリと握り、

空中でバランスを崩したカエルを、

右手のクローで下方向から力いっぱい引き裂いた。


カエルの身体は右半身と左半身に分かれるように斜めに分離し、

地面へと落下する。


「何度やっても無駄だ・・・。」

引き裂かれたカエルの上半身はピクピクと動き始めると、

次の瞬間、上半身から下半身が生成されるように一気に足が伸びた。

さっきからずっとこの状態だ。


「フッ、身体の脆さは人間並みだというのに、

 あまりにもしつこいですね。」

ルイナーはそう言いながら両手を僅かに痙攣させている。

彼の身体には6体分のフォーサーのHR細胞が含まれているために、

戦闘の際にはそれらの制御にも体力を消耗する。

ましてや、今はプライドのためだろうが

いくら壊しても何度も再生するカエルを

見過ごすかのように黙って再生させている。

このままではルイナーの身体が危ない、というのは事実であった。




「あらかじめ聞いてはいましたが、

 まさかこれほどまで高性能な再生能力を持つとは驚きですよ。

 さて、そろそろ決めても良いでしょうかね・・・。

 デカンファイナルキャノン、ジェネレイト!」

ルイナーがそう言うと、

彼の胸部の四角穴のハッチが4方向に開き、

中から全長1m以上のメカメカしいブラスターが飛び出した。

彼はそれが飛び出してきた瞬間に両手でその銃身を握る。

そして自身の両腕に装着されていたクローパーツを外し、

そのブラスターの両サイドへと取り付けると、

ブラスターのサイドのラインが黄緑色に発光し、連動を示した。


「でかい口を叩いていた割には、

 そろそろ自分のスタミナが限界のようだね。

 良いだろう。それを食らわせてもこの僕には効果がないという事を

 目の前でじっくりと見せてやろう。」

そう言うと、カエルは両手を大きく広げ、

前後左右隙だらけの姿勢を取る。

あくまでもルイナーの最終兵器による攻撃を正面から受けるつもりのようだ。


「いい加減、苛立ちを覚えてきましたのでね。

 私の技を食らえば全身が回復できないまでに消え去りますが、

 それでも黙ってこの攻撃を受けますか?」

ルイナーは強化型ブラスターのトリガーを右手で握り、

左手でその銃身を押さえるように構える。

いつでも発射可能な状態のようだ。


「やってみろよ?そうすれば

 いかにその必殺技が力不足かって理解できる。」

「・・・それならば・・・自分の計算不足を恨んでくださいッ!」

ルイナーは取り乱したように叫びだし、

その勢いで素早くトリガーを引いた。


《ジメチルデカン・・・ケミカル・・・ブレイク・・・アップ!》

デカンファイナルキャノンからは太めのガイダンス音が鳴り響き、

再びサイドのラインが黄緑色に発光したかと思うと、

銃口が激しく発光し、夜の国道沿いを明るく照らした。

そして次の瞬間、そこから10mほど離れていたカエルの身体は

光に掻き消されるように徐々にそこから姿を消していった・・・。


ルイナーのブラスターによる光が辺りを照らしたのは2秒ほどで、

すぐにまた周囲は夜の暗さを取り戻したが、

その白い光に包まれたカエルの姿はもうそこには無かった。

いくらカエルが繰り返し再生可能だとは言え、

再生するための部位を無くしてしまってはそれ以上の再生は不可能。

だから瞬時に全身を焼き切られてしまえば、

それ以上の生命の維持はできない。




「フッ・・・根拠のない余裕は身を滅ぼしますよ?

 実に無駄な時間であった・・・。」

ルイナーは誰もいない背後に向かってそう呟き、

怪人態の身体から変身を解いて人間態の上戸鎖かみとくさりへと戻った。

彼としては、こうして相手を跡形残らずに消してしまっては何の愉悦も覚えない。

相手に自分の強さを見せ付け、服従させる事に快感を覚える彼としては

現状は物足りないものだった。





「おい、あんたよォ?」

「何・・・?」

カエルを葬った上戸鎖かみとくさり

何者かに背後から呼び止められ、

思わず怪人態への変身の構えを取りながら後方を振り返ったが、

その正体が人間だと気付き、一時の安静を保った。


「さっきの戦い見せてもらったぞ?

 お前が勝者らしいなァ?

 だったらこの俺、瀬柳せやなぎ じんと戦え・・・!」

その謎の男は目付きが鋭く、身長は170cmほど。

髪は茶髪で不規則に盛り上がり、いかにも不良、といった容姿をしている。

この平日に黒いジーンズに皮ジャン、というカジュアルな服装だが、

見たところ高校生といった感じの年齢だろう。


「コソコソと私の背後から観戦ですか。まぁ良いでしょう。

 連戦とは言え、

 そこら辺のフォーサーに負ける気はありませんよ?」

上戸鎖かみとくさりが不気味な笑いをこぼしながら

開いた右手を身体正面に突き出す変身の構えを取ろうとしたその時だった。




「どうやら、油断をしていたのはそっちらしいな!」

背後からの呼び掛けに驚き、

上戸鎖かみとくさりは慌てて振り返る。




すると、そこには自分たち以外のフォーサーが

整然と立っていたのだった。

深緑色の皮膚に、そのカエルのような身体をそのまま再現したかのような全身。

なんと、先ほどルイナーが消滅させたはずであるマキシマムフロッグだった。





マキシマムフロッグはルイナーに向けて馬鹿にするような声を上げた。


「な、何故に全身を吹き飛ばされても生きている!?

 まさか、分子レベルから再生するとでも言うのですか?」

上戸鎖は明らかに動揺し、

先ほどまでのトレディシオン・ルイナーとしての威厳は消えていた。


「いや、お前は自分で放った光のせいで見えなかった。

 僕は自分の身体のコアになる部分を

 全身の好きな場所に移動させる事ができる。

 それは頭でも、腹でも、腕の先でも・・・。

 そしてそのコアさえ残っていれば何度でも再生できる。」

「まさか・・・あらかじめ自分の腕でもちぎって

 そこら辺に投げておいたのですか!?」

「まさしく、その通り。

 お前は光が眩しくてその光景が見えなかったと思うけど。」

マキシマムフロッグはまだ戦い足りない、といったように

その拳をクラッキングし始める。

それを見た上戸鎖はさすがに生命力が強すぎたカエルに対しての恐怖に襲われ、

変身を戸惑っている。




・・・が、次の瞬間、

カエルが立っている背後の方から

か細い女子の声が響いてきたのだった。




夏景かけい!負けないでよ!

 私を守ってくれるんでしょ!」

その声の主は河原かわら 吹雪ふぶきだった。

夏景かけいに帰るように言われても、

街路樹の陰に隠れて戦闘の様子を見守っていたようだ。


「・・・。」

夏景かけい、と名前を呼ばれたマキシマムフロッグは

背後を振り向き、吹雪の事を凝視するが、

何も返答を返さない。




「おい、あの女子はなんで僕の事を知っている?」

カエルは逆方向にいる上戸鎖かみとくさりへと問う。

すると、上戸鎖は不審そうな表情を見せ口を開いた。


「それを私に聞くのですか?

 あの女はあなたの連れでしょう?」

上戸鎖はそう言い終わった時点でハッとなり、

ある仮説に辿り着いた。




・・・マキシマムフロッグは確かに再生能力を秘めたフォーサーである。

だがその再生には本当に何の代償も無いのだろうか?

・・・いや、そんな事がある訳がない。

現に目の前ではカエルが記憶の一部を無くしているように見える。

脳というのはそう簡単な構造ではないから、

頭が飛び散れば何かしら記憶には支障がありそうなものだ。




「なんか・・・あの人を見ると・・・すごく辛い・・・。

 何なんだ!!これは!!」

カエルは意味が不明な事を呟き出し、

勢いよく後ろを振り返ると、まっすぐに吹雪へ向かって歩いていった。


夏景かけい・・・?」

カエルの異変に気付いた吹雪は奇妙なものを見るような顔で

まっすぐにマキシマムフロッグの顔を見据えるが、

その場から離れようとはしない。


「・・・君は・・・何で僕の名前を知ってるの?

 それに・・・君の事を見ていると

 何だかすごい嫌な感情がこみ上げてきて・・・。」

カエルはそう言い放つと、

吹雪は辛そうな表情で視線を落とした。

夏景かけいが規則喪失に陥っているのはすぐ理解できた。

でも、その中で吹雪への気持ちだけは何となく残っているらしく、

しかもそれがあまり良いものではない、

という点で吹雪としては行き場を無くしているのだろう。


「うん・・・そうだね。初めましてかもしれない。

 私は河原かわら 吹雪ふぶきっていうんだよ。

 夏景かけいと同じクラスの生徒。」

吹雪は無理にでも笑顔を作り、

目の前の怪人に向けて話し掛ける。

これまでの記憶がないというならば、

友好関係をもう一度最初から築いていくのも良いかもしれない。

むしろこのまま夏景自身が

フォーサーである事を知られた罪悪感でいっぱいになりながら

接し続ける、という方が少し無理がある。

そういう考えが吹雪の中にはあった。




・・・が、カエル怪人の様子は明らかにおかしかった。

気付けば、いつの間にか両肩を小刻みに震わせている。




「僕が知っている吹雪ちゃんは・・・お前じゃない!

 優しくて・・・僕の事をよく理解してくれて・・・。」

そう言いながら、右手の拳を自分の後ろに引いた。

吹雪はその時、ようやく自分がどんな状況に置かれているのかを理解したが、

もう時は既に遅かった。


「僕の・・・僕の・・・吹雪ちゃんを返せええええええええッ!!」

物凄い声量の叫びが辺りに響き渡ったかと思うと、

次の瞬間、カエルの拳は目の前にいた吹雪の頭部を正確に強打していた。

そのあまりの威力に頭蓋骨が砕け散り、鮮血が溢れ出す。

あっという間にそこを中心としてアスファルトに血だまりが広がっていく。

カエルは血が付着した自分の身体を軽く見渡すと、

倒れた死体の腹部に思い切り足を突き付け、

何度も何度も足を上げては下ろし、その腹を踏み付ける。

カエルの足が乗る度に、潰れた女性の口からは血が噴き出す。

すぐさま彼女が着ていた白いワンピースは

真っ赤な血で染められていった・・・。




「何だろう・・・こんな快感は初めてだ!!

 僕は・・・コイツを殺して正解だったんだあああ!!」

嘆き叫ぶカエルの10mほど離れた場所では、

上戸鎖かみとくさりと、不良生徒の瀬柳せやなぎ

呆気に取られてその様子を凝視していた。

例え自身がフォーサーだとは言え、

これだけ激しい殺害衝動を持った化け物は見た事がない。




「おい、あんたァ・・・アイツを先に片付けてからにするか?

 アイツはもうとっくに壊れているぞ?

 もはやフォーサーでも人間でもねェ・・・。

 ただの強烈な自我に狂わされた化け物だ。

 あんなのは俺の対戦相手にならない。」

「突然現れたあなたの望みが何なのかは知りませんが、

 私もあれはさすがに放っておけません。

 もう一度しっかりと始末しておきますか。」

瀬柳せやなぎは自身の戦闘欲を満たすための対象として

目の前で自分を失って暴れているカエルがそぐわないと判断し、

上戸鎖かみとくさりは自分よりも残酷で恐ろしいものの存在は

自分の支配に重大な影響を及ぼすと考え、その鎮圧を決定した。




・・・2人が会話をしている間もカエルは死体を破壊しまくり、

もはやそこには散乱した肉片の塊しかなくなっていた。

どれだけの恨みがあれば知り合いを、

いや、恋人をここまで粉砕できるのだろうか。

その答えはもはやその中にいる誰の内にもなかった。

当人であるマキシマムフロッグこと

月光つきみつ 夏景かけいの中にさえ。




「僕は・・・これからも吹雪ちゃんと共に生きていく。

 永遠の存在となった本物の吹雪ちゃんと共に・・・!!」

マキシマムフロッグは死体を傷付ける最中、

実はある程度のぼんやりとした記憶は取り戻していた。

何と言っても、恋人本人が目の前にいるのだ。

脳にはそれだけの刺激が伝わるに違いない。


・・・が、彼は暴行をやめなかった。

目の前の河原 吹雪が偽物であると錯覚し、

そのままの勢いで感情のままに死体をボロボロにし尽くす。

そうする事で自分の中で腫瘍のように自分を苦しめていた何かが

だんだんと消えていくような感覚に囚われていた。

それは、確実に"快感"でしかない。




「僕はもう・・・誰にも負けない!!

 吹雪ちゃんと一緒になれたんだああああ!!」

鮮血まみれのカエルの身体の各部はグニョグニョと振動し始める。

まるで新しい組織が作られるように皮膚が伸縮し、

マキシマムフロッグのシルエットは見る見るうちに変形していく。

両肩からは新たに2つの顔らしき部位が生えてきて、

身体も一回り大きくなったような迫力を放つ。

皮膚はボツボツとした突起が増え、硬質化し、

まるで怪獣のようなフォルムを持つ。

カエルの身体はこれまでとは比べ物にならないほどの

本物の化け物の姿へと変貌してしまった。




「フォーサーの怪人態が変化した・・・まさか・・・。」

上戸鎖は目の前の惨状から目を背け、

過去に自分が行ってきたHR細胞の研究を思い出す。




・・・その中には"体内に打ち込まれたHR細胞の進化"

という項目があった。


元々、HR細胞というのは

初期レベルであるレベル1態を体内の特定の箇所に打ち込む事で

その箇所に留まりながら成長を続け、

だんだんと適用者へと効果を及ぼす、といったものだった。


レベルが上がれば自動的にフォーサーになる、というものではないが、

HR細胞のレベルが上がれば上がるほど、適用効果も大きくなる。

レベルの上昇には本人との適合率を普段の生活で上げていく事が必須条件だが、

それを無視した上昇を促す触媒的要因は存在していた。




・・・それは適用者の、治療効果をより強く欲する"欲望"である。




HRSによる治療を受ける人々は、皆、HR細胞へと願いを抱えている。

適用者がより強くHR細胞の効果を本能的に望めば望むほど、

適用者の身体は自然とHR細胞へと適合し、HR細胞を受け入れていく。

そうする事で、一般の適用者よりも激しくレベルは上昇する。


だが、その中でも爆発的に自分の欲望を曝け出すような、

それこそ人間離れした怪物のような意思を持った者は

HR細胞レベルの更なる上昇により、

実験では再現不能な"次なる段階"へと進化する可能性が示唆されていた。




・・・もちろん、それほどの意思を持つような人間はごく稀な存在だ。


だが、人に化け物のような思想を芽生えさせる「外的要因」があれば、

そのような人間は絶対に存在しないとも言い切れない。

その中でもフォーサーとして覚醒した人間が

未だかつて覚醒した事のない力を発揮し、進化するとすれば、

それは間違いなく恐ろしい化け物となる。




あくまでも上戸鎖の中での仮設として理論的には存在していた

フォーサーの更なる強化態・・・『フォーサーレベルX』態。

それまでの進化を、まさか自身の目の前で

無限再生を可能とするフォーサーが成し遂げるとは思いもしなかったであろう。






フォーサーレベルX態へと覚醒し切ったカエルは

やおら背後にいる上戸鎖と瀬柳せやなぎの方を振り返った。


「僕は最強のフォーサー・・・"カオティックフロッグ"だ。

 フォーサーの王とやらは、僕との戦いを続行するのかい?」

カエルの声はこれまで以上にくぐもって聞き取りにくくなっていた。

だが、自分を標的にされた上戸鎖には、

彼が何を伝えようとしているのかはだいたい理解できていた。


同時に、自分が彼の支配対象になっているという自覚も芽生え始めていた。








@第12話 「最初に戻る。」 完結



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