@第11話 見えない平和??
@第11話 「見えない平和??」
この僕、月光 夏景は
塾帰りの国道沿いを歩いていた・・・。
時間は21時を少し過ぎていて、
辺りは街灯の明かりが薄暗い路地を照らしているけど、
この時間帯は普通に車が行き交うし、
仕事から帰る社会人も前後を歩いている。
塾が20時に終わって結構な間歩き続けている事になるけど、
それは今日、僕にとある用事があるからだ。
・・・今日は金曜日だけど、
何だか今週の月曜日からずっと吹雪ちゃんの様子がおかしい。
月曜日に吹雪ちゃんは学校を欠席したから
心配してその件でLINEのメッセージを送っておいた。
返信は一時間くらいですぐ返ってきたけど、
吹雪ちゃんの異常は文面から容易に分かった。
火曜日からは吹雪ちゃんが普通に学校に来てたから、
話を聞くためにも一緒に帰ろうと誘ってみたけど、
今週は忙しい、と拒否されてしまった。
当然だけど、あんなに元気が無さそうな吹雪ちゃんを見るのは辛い。
正直、吹雪ちゃんの異常を素早く見抜く能力は
僕が誰よりも高いと思っている。
これまでにも吹雪ちゃんが元気無さそうな事はあったけど、
そういう時には僕が訊けば必ずその理由をすぐに教えてくれて、
同時に相談してきてくれた。
・・・でも、今回は違う。
今日までに4回ぐらいその件について訊いてみたけど、
何でもない、何でもないから、と
一向に吹雪ちゃんは心中を明かしてはくれない。
そういう事になると、たぶん、
吹雪ちゃんが悩んでいるのは
僕に関しての何らかの事だという事は予想できる。
僕が彼女に何か嫌な事をした覚えはないけど、
僕には心当たり、というかはっきりとしなくて気持ち悪い事はある。
それは、日曜日以前の記憶に曖昧な点があるって事だ。
日曜日に吹雪ちゃんと一緒に
占い名探偵だかっていうヤツの
ボロい家に遊びに行った事はちゃんと覚えてる。
でも、そこで何があったのかはしっかりとは覚えていないんだ。
あの日、僕のフォーサー態であるマキシマムフロッグに変身した事や、
吹雪ちゃんが具合悪そうに寝てたのは覚えてるけど、
その前後の記憶が曖昧で、ちゃんと思い出せない・・・。
もしも、僕が吹雪ちゃんに何か嫌な事をしたとすれば、
その記憶がない時に違いない。
でも・・・だからどうすればいいんだろう・・・。
記憶がないからあの時の事は覚えてないけどごめん、
みたいな無責任な謝り方は僕としては気が進まなくて嫌だ。
だとすると、あの時の僕の言動を知っている人物に会う必要がある。
あの場にいて、僕の記憶がない時の事について詳しく知っている人物は
"占い名探偵"っていうニートだけだ。
・・・気付くと、僕は国道を外れ、
人気の無い路地に入っていた。
そして、約一週間前にも来た
ボロボロの小屋みたいな探偵事務所が目の前に見えてきた。
僕はそこから少し足を速め、探偵事務所の前まで来ると、
サビまみれの汚いドアを軽くノックした。
今は、吹雪ちゃんが元気のない理由が分かるという期待と、
一体自分がどんな事をしたのかという不安が入り混じって、
ドアをノックするだけで複雑な気分だ。
ここまで来られて嬉しいけど、実際にヤツに話を聞くのは怖い・・・。
だけど、僕は決めたんだ。
僕の一番大事なものを守るためにすべき事は何なのか、
それを考えたらこの行動を抑制する理由はない、と。
―――――その頃、基は―――――
夜の21時を過ぎた今の時間に電話で誰かと話すのは珍しいけど、
この俺、陽遊 基は今、
とっても大事な電話の真っ最中だった。
「・・・それで・・・私は・・・どうすればいいのかなって・・・。」
電話の向こうの相手は最近元気が無かった吹雪ちゃんだ。
今や彼女は簡単に分かる涙声で今にも大声で泣き出しそうになってる。
今週の月曜日にはLINEを送ってきて、
やっぱり相談はやめた、と不意打ちをかましてきた彼女だけど、
とうとうこの一週間の終わりに決心して相談してきたんだと思う。
・・・聞いたところによると、吹雪ちゃんは先週の日曜日、
夏景がフォーサーだっていう事を本人から聞かされたらしい。
そこであまりの衝撃で気を失い、倒れちゃったんだとか。
そして、今後その夏景とどういうふうに付き合っていけば良いか、
とか悩んでいたらしい。
確かに、それは吹雪ちゃんにとってはキツい事実だったと思う。
俺ですら夏景がフォーサーだと知った時はマジで驚いたんだから、
男女交際してる吹雪ちゃんがそれを知ったらショッキングなのは仕方がない。
夏景は俺から見たら性格的な評価は低いけど、
一応、吹雪ちゃん的にはそこまでの悪評じゃなかった。
でも、夏景がフォーサーだと知った事で
気持ち面でマイナスにメーターが振れたのは事実だろう・・・。
でもさすがは吹雪ちゃん、というべきなのか知らないけど、
そうやってフォーサーだという事が判明しただけで
夏景への感情に変化が起きた自分に対して罪悪感があるらしい。
それが辛いというのもあるだろうし、でも、
社会的に邪魔者扱いされてるフォーサーとは距離を置きたくなる、
ってのもあるだろうし・・・。
「うーん・・・話は聞かせてもらったけど、
俺からこうしろとかって言うアドバイスはできないかな。」
俺は躊躇いながら、一言一言をゆっくりと吐き出す。
「夏景を裏切りたくないっていう気持ちも分かる。
でもフォーサーと仲良くしたくないっていう気持ちも分かる。
たぶん、他の大勢に相談しても意見は半々くらいに分かれると思うよ。
それだけ吹雪ちゃんは難しい問題に突き当たってるんだよ。」
一文言う毎に電話の奥の吹雪ちゃんの反応を確かめるけど、
彼女は黙って俺の話を聞いている。
なんか俺の演説みたいになってるけど、相談に乗るっていうのは
こういうもんなのかな・・・。
「・・・んで、俺から少し付け加えさせてもらうと、
フォーサーっていうヤツが全員頭おかしいって訳でもない。」
「そうなの・・・?」
俺の言葉の後に3秒ほど沈黙が続くと、
吹雪ちゃんがハッとしたように聞き返してきた。
本当に驚いたのか、沈黙に違和感を覚えたのかは分からない。
「俺さ・・・まぁ、前にも言ったけど、
フォーサーと戦うための手段を持ってるから
ヤツらと戦う機会はこれまでに2回あったんだ。
確かに考え方がおかしくなったキチガイのフォーサーもいるけど、
夏景は・・・まぁ、その中ではまともな方だと思うよ。」
これは、吹雪ちゃんを元気付けるためについた嘘じゃなくて、
正直な俺の意見だった。
アイツは吹雪ちゃんを守る、という事しか考えていなくて、
他のフォーサーが持っている野望的なものは抱いていない。
まともかどうかは自信ないけど、
それだけ吹雪ちゃんを大切に思っている、っていうのは事実。
「俺はちょっと前からアイツがフォーサーだって知ってたけど、
アイツは本当に吹雪ちゃんの事しか考えていない。
吹雪ちゃんを守るためにしか行動できない・・・バカなんだよ!
だから、吹雪ちゃんはもう一度考え直しても良いかもね。」
俺は気付けば夏景の弁護人の如く、ヤツの味方をしているような気がする。
俺は正直なところ夏景とはあまり気が合うとは思っていない。
つまり、そこまで仲良くない!
・・・だけどこうやって味方をするのは、
たぶん、また2人が前のように縁を戻すのが
2人にとって一番効率的で無駄が無い事が分かっているからだと思う。
ここで2人の関係が破綻したところで得をする人はいないはずだ。
俺だってさすがに関係の崩壊を喜ぶほどのゲス野郎じゃないからな!
「・・・そうなんだね・・・。
ありがとう、大事な事教えてくれて。」
電話の向こうの吹雪ちゃんはまだ鼻をすすってるけど、
僅かながら少し明るくなったような気がする。
「また何かあれば電話してくれ!
こっちの都合が良ければいつでも話聞くから!」
俺は昔から相談に乗るのはあながち嫌いじゃない。
俺の株を上げるっていう割とゲスな目的もあるけど、
何だか相談に乗ると無性に気分が良い気がする。
まぁ、そもそも俺みたいなヤツに相談にくる人間は稀なんだけどね。
「ありがとう・・・。
本当にありがとう・・・。
こんな話、基君くらいにしかできないから・・・。」
確かに、普通の女友達に「彼氏がフォーサーなんだけどどうしよう?」
とかって相談したらそりゃあ引かれるわな。
「まぁまぁ。俺もこの秘密は守るから、
俺の変身の事も黙っててくれよ!」
たぶん、今のところ家族以外の無関係者では
夏景と吹雪ちゃん以外の誰にもバレてないはずだ。
あ・・・そう言えばあのチェーン怪人と
死神には俺の人間状態の姿を見られてるけどね・・・。
「うん!今日はありがとう!」
・・・こうして、俺は無事に吹雪ちゃんを慰める事ができた。
吹雪ちゃんは夏景の彼女だけど、こうやって励ましたりできるのなら
これからも力になりたい。
・・・俺は随分とお人よし人間のようだ。
さすがはロイヤル・ハイパワード・チューニクス!
他人の事までちゃんと考えられる余裕が俺の中にはある!
何事にも余裕を見せるのはチューニクスの理に叶っているんだよ。
―――――その頃、千葉県のとある倉庫にて―――――
「・・・そのまま静かにしてろよ?
身代金が到着すればすぐに放してやる。」
そこには、中学か高校の制服を着た女子が1人と、
彼女を囲むように二十歳前後らしき男子が4人ほどいた。
女子は特に拘束されたりはしていないが、
成人男性4人に囲まれているとなると
自由に身動きが取れないのは容易に分かる。
何も抵抗はせずに、その場で正座のまま俯いている。
ここは海沿いで物資コンテナが出入りする倉庫地帯である。
その中には現在は使われていない大きな倉庫も沢山あり、
しかもこの時間は既に従業員は去っているので
悪い子供たちの絶好の遊び場となっていた。
「こんな事するなんて、馬鹿だとか思うだろ?
でも、実際今週だけで100万稼いでるんだ。
俺たちは賢いよな。
真面目にバイトとかやってるヤツらの気が知れない。
こんな事で簡単にお金が手に入るんだからよ!」
その中で一番背が高い180cm弱ほどの細身の男が
女子学生の顔を覗き込むように腰を折る。
それでも、女子学生は俯いたまま何も動じない。
「はぁ・・・無視かよ。
ま、人質の反応で遊ぶような趣味はねぇからな。
身代金だけ貰えれば何も悪さはしない。」
高身長の男は口元に不気味な笑みを浮かべながらそう呟き、
仲間の男3人を見回すと、3人は次々と頷いた。
どうやらこの男がリーダー格の人間らしい。
「陸馬さん、コイツの保護者から連絡が入りました。
そろそろ来る頃です。準備をお願いします。」
スマートフォンを耳に当てていた4人の中の小太りの男が
リーダーである榊原 陸馬に報告する。
「分かった。今日も華麗に逃走するぞ。」
そう言うと、榊原は人質の女子生徒、
及び仲間の3人と少し距離を取るように一歩一歩をゆっくりと踏み出し、
5mほどの距離が開くと、そこで足を止めた。
「・・・変身ッ!!」
立ち止まった榊原の叫び声が狭い倉庫内に響き渡ったかと思うと、
突然彼の身体に変化が起き始めた。
まるで研究者のように白衣らしきデザインの白い鎧を羽織り、
しっかりとした黒いズボンのような硬質化した皮膚と
足には革靴のような装甲を身に付けている。
顔は男とは思えないほど長いロングヘアーの後頭部に
防護メガネを模した装甲パーツが取り付けられている。
顔など肌の露出部分は灰色に変色しているが、
他の生物に変容するような他のフォーサーとは違い、
まだ人間の容姿を保つ「科学者」のようなデザインである。
そして、右手には灰色の釘打ち機、ネイルガンが握られている。
「俺はフォーサー、タキシック・ステイカー。
俺に掛かれば、立て付いてくる警察組織など破滅に陥る。」
普通のフォーサーは、喋る時でも口に当たる部位は動かず、
顔付近からくぐもった声が聞こえてくるだけであるが、
このステイカーと名乗るフォーサーは灰色に変色した口を動かしながら言葉を話す。
先ほどから座って俯いていた女子生徒も
目の前のフォーサーの出現にはさすがに驚いたらしく、
今にも泣き出しそうな様子で引きつった表情をしている。
「陸馬さん!来ましたよ!」
先ほどの太めの男とは別の男が倉庫の入り口を指差した。
そこから、確かに両開き扉をガンガンと強くノックするような音が聞こえてくる。
この音は、明らかに子供を心配してやって来た両親のノックではない。
間違いなく、銃器で武装した警官たちだろう。
「よし!お前らはその女子をそのまま置いて裏口から逃走しろ。
俺はいつも通りヤツらを片付けてから行く。」
タキシック・ステイカーが後ろを振り返りながらそう言い終わる瞬間、
突如、金属製の入り口の扉を壊すような物凄い音が響いた。
「気が早いな!!」
そう言いながらステイカーは右手に握るネイルガンを扉に向け、
トリガーを連続で引き始める。
ガンの先端から次々と釘が発射され、扉の方へと高速で飛んでいく。
ネイルガンを連射する快感と共に、
ステイカーは笑いながら何度も引き金を引き続ける。
が、彼は多少の違和感に気付いていた。
いつもならば警官の「一時退避!」などの悲鳴が聞こえるものだが、
今回は金属がぶつかり合う妙な音しか聞こえない。
ステイカーは一度引き金から指を放し、扉の方を凝視した。
と、次の瞬間、
何か鋭利なものが物凄いスピードでこちらに飛んでくるのが分かったが、
避けるための隙は残されていなかった。
「ッがああっ!!」
ステイカーは逆に悲鳴を上げながら
後頭部から倉庫の床に自身の頭を強打した。
と、同時に一人の人影が倉庫内に入ってくるのが見える。
ステイカーへと飛んできたのは自分で射出した釘のうちの一本だった。
「お前は、何者だ!?」
ステイカーは急いで起き上がり、その場に立ち上がって
ネイルガンを再度構えた。
それと同時に、倉庫内に侵入してきた人影もその場で立ち止まる。
「俺は・・・悠久変師アカルトレイト・ジェミニ。
お前がここ1週間の誘拐事件犯だな。」
それは、例の中二宮Xレアというアーマーを纏った人間だった。
身体の左半分が銀、右半分が金という派手な配色で、
その金銀で綺麗に左右が分かれている。
身体は各部に装甲が仕込まれているが比較的軽装なイメージで、
シルエットはほっそりとしている。
人間の身体の輪郭をそのまま再現したような感じ、と言えば分かりやすい。
顔部分にも左右の配色の違いが出ているが、
左サイドの銀色の顔の方の目は笑っており、
右サイドの金色は怒ったように眦を吊り上げている。
口は装甲で隠されるように覆われていて、
頭部には大きな3本の角が額の辺りから上へと伸びている。
ジェミニ、という名前からも分かる通り、
「ふたご座」を模した中二宮Xレアである。
「フンッ、だったらどうする?
このタキシック・ステイカーを止めてみるか?」
そう言うが早く、ステイカーは構えていた銃の引き金を躊躇なく引いた。
彼のネイルガンから飛び出した釘がジェミニの頭部アーマーへと直撃したが、
そのまま勢いを失った釘は床へと落ちた。
「ハッハッハッ、他の部位も狙ってみろよ!
このアーマーにそんな攻撃は通じないぞ?」
ジェミニは笑いながらからかうようにステイカーを挑発する。
「俺のネイルガンが通じない・・・と。」
ステイカーは今までフォーサーやアーマー装着者を相手にした事がなかった。
とりあえずは自身の「毒釘」を打ち出すネイルガンで
自分たちに干渉しようとしてきた人間は牽制できた。
だが、目の前にいるのはネイルガンが無効な相手・・・。
ならば今までの戦い方では通じない。
「ま、まぁ、いつかはこうやって
アーマーのヤツを相手にする日が来ると思ってたぜ。
だけどなぁ、コイツはどうなっても良いんだろうな?」
ステイカーは笑いながら
自身の後方にいる人質の女子学生へとネイルガンを向けた。
「こっちには人質がいるんだ!
ちょっとは自由な行動を慎めよ?」
「誰が人質だって?」
「何・・・?」
ステイカーが銃口を向けた方を改めて確認すると、
そこにさっきまでいたはずの女子学生の姿は見えず、
代わりに魚を模したようなアーマー装着者が
刃先が角ばっている大きな剣の先端をまっすぐステイカーに向けている。
「俺が人質だと言うのではあるまいな?
俺は究極海神アバランチ・ピスケスだ。」
「お前!人質をどこにやった!?」
ステイカーは取り乱し、完全に後ろに向き返り
もともと相手にしていたジェミニに背を向けていた。
「裏口からお前らの仲間3人が出てきたからな。
ソイツらと一緒に逃げてきた女子学生なら警察に保護してもらってるぞ。
お前の仲間と共にな。」
「く、くそっ・・・。」
「1週間もの間、ほぼ毎日同じ犯行を繰り返してきたらしいじゃないか?
そんな事をしていたら、いい加減動きを読まれても不自然じゃないだろ?」
人質を失ったステイカーは少し冷静になると、
ふと、自分の置かれた状況に気付いた。
自分の前後には謎のアーマー装着者、
そしてここは倉庫内で、しかも逃走経路は2か所の扉のみ。
それに加え、アーマー装着者に対して
彼のメインウェポンであるネイルガンは効果が無い。
「岡本さん、こんなヤツに2人もいりません。
俺だけで相手しても良いですか?」
ジェミニはステイカーを挟んで対局側にいるピスケスへと訊く。
「良いだろう。ジェミニ、お前の戦闘を拝見させてもらおう。」
ピスケスはそう言うと、ステイカーへと向けていた剣を下ろし、
棒立ちの姿勢になった。
「お前らぁ・・・ナメやがって!!」
ステイカーは叫びながら右手のネイルガンを放り出し、
ジェミニへ向かって走り出した。
が、それを見ているはずのジェミニは
迫ってくるステイカーに対して何の対抗手段も取らずに棒立ちしている。
「・・・天空は動いても・・・次なる未来を教えはしない。」
ジェミニは独り言のようにボソッと呟くと、
いつの間にか右手に持っていた杖のような武器を
まるでその全体像を見せ付けるように前に突き出す。
その杖は1.5mほどの長さで持ち手が中心にあるが、
その中心を境に金色と銀色に配色が分かれている。
金色の先端は半径30cmほどの赤色の球が、
白い手の平に乗るようなデザインの打撃型武器になっている。
反対側の銀色の先端は尖った桐のような形状になっている。
「究極なる変遷よ・・・今こそその真意を見出されよ!
幽寂激杖ズヴォルタアンバカシオン、降臨!」
ジェミニはステイカーとの距離を見極め、
その距離が3mを切った瞬間に素早く杖を両手で持ち直し、
その銀色の尖った端を勢いよく前へと突き出した。
完全に油断をしていたステイカーは
防ごうにも自身の加速の勢いもあって急停止する事ができない。
そこでステイカーはその場で地を蹴り放ち、
上方から片足蹴りを繰り出すかのような構えに入った。
フォーサーというのは身体能力が人間のそれとはかけ離れているために、
こういった三次元的な攻撃も可能となるのだ。
「食らえぇぇ!!」
ステイカーは右足を勢い良く突き出し、
ジェミニの頭に向けて渾身のキックを繰り出す。
「お前・・・」
ジェミニは咄嗟に杖を回転させ、
金色の先端である球モードへと持ち替えようと試みた。
その瞬間、上方に迫っていた
ステイカーの脚部に杖の回転による打撃攻撃が命中し、
彼は蹴りの姿勢が崩れる。
「この俺に足を突き出すのかぁぁぁ!!」
「何!?」
ジェミニはまるで別人になったように叫び出し、
それに驚いたステイカーは次の動きを封じられる。
と、次の瞬間、杖の球がステイカーの顔へとめり込む。
「うがっ!」
ステイカーはそのままジェミニの足元へと叩き付けられた。
すかさず、ジェミニは銀色の方の尖った先端を
足元のステイカー目掛けて勢いよく振り下ろす。
「危ねッ!」
ステイカーは床を転がり、すれすれでそれを回避すると、
杖の先端は倉庫の床を貫いた。
それによって多少の隙を見せたジェミニを見て、
ステイカーは右手のネイルガンを至近距離で撃とうと、
うつ伏せの姿勢でその先端をジェミニの脚部へと押し付ける。
「この距離ならどうだ?」
ステイカーがトリガーを引いた瞬間、
そこから突然ジェミニの足が消え、
打ち出された釘は倉庫の壁へと反射した。
「何だと!?」
ステイカーは不意に天井を見上げる。
と、ジェミニは地面に刺さったはずの杖を跳躍の勢いで引き抜いており、
既に銀色の先端を再びステイカーへと構えて落下してきていた。
アカルトレイト・ジェミニのアーマーが軽装なのは
杖という広範囲な可動域を確保する事で初めてその真価を発揮するウェポンを
存分に使いこなすためである。
その使いこなしには装着者の運動能力も試されているが、
ジェミニの装着者には十分な素質が備わっている。
ステイカーは先ほどのように全力で転がり、
その見ただけで恐ろしいと分かる攻撃を避けようとするが、
ジェミニはその考えを見透かしたように先端の位置を空中で調整し、
確実に仕留めようと迫ってくる。
「やめろぉ!!」
ステイカーが嘆いたかと思うと、
次の瞬間にはその先端がステイカーの背中に突き刺さっていた。
ステイカーはまるで日光浴をするために連なった一番下の亀のように
その場で身動きを取れないでいる。
「俺に勝てる訳ねぇだろ・・・ったくよ!」
ジェミニは相変わらず不良のような乱暴な口調で
杖の先端をグリグリと背中に押し付け続ける。
ステイカーはフォーサー態であるが、
もしも仮に今背中に穴が開いたとしたら、
人間態に戻った時にもおそらく損傷はそのままだ。
考えただけでも恐ろしい。
「分かった!俺の負けだ!もう悪い事はやめる!」
ステイカーは泣き声混じりについに降参の嘆きを上げ始める。
「ならば、俺の質問に答えてもらおう。」
そう言ってうつ伏せのステイカーに迫ってきたのは
後方で戦闘を見ていたピスケスだった。
「ジェミニ、もうそこら辺で良いだろう。
後の処理はアブソリュート・アーツ社に任せてくれないか。」
ピスケスはジェミニの杖を右手で掴み、
左手の平を向けて、まぁ待てといったようにその攻撃を中断させる。
「チッ・・・クソッ・・・分かりました。」
ジェミニは一瞬で元の穏やかな様子に戻り、
杖をステイカーから放した。
「確か、タキシック・ステイカーと名乗っていたらしいな。
お前は例のフォーサー組織について何か知っているか?」
ピスケスは冷静な口調で足元のステイカーへと問い掛ける。
「・・・ふ、フォーサー組織?
フォーサーたちが手を組んで組織立ってるとでも言うのか?
俺は何も知らないが・・・。」
「ごまかすというのであれば、ここで始末しても良いんだが?」
ピスケスが右手の大きな剣を再度ステイカーへと向けると、
彼は慌ててうつ伏せから正座の姿勢になり、
そのまま深く頭を倒した。
「違う違う!!
本当に知らない!俺は自分がフォーサーだって気付いてから
人質を使って金を巻き上げる事しかしていない!」
「事しかってなぁ・・・。」
ジェミニが呆れたように苦笑する。
「そうか・・・。分かった。
お前の身柄は警察に許可を取って
後にフォーサー収容施設に収容させてもらう。」
普通の犯人ならば警察に引き渡せばそれで終了だが、
犯人がフォーサーともなるとそう簡単にはいかない。
フォーサーの身体能力は人類を超越していて、
各自、特異な能力を持つ者も中にはいる。
そんなヤツらを安心して収容できる施設が必要なのは言うまでもないが、
話はそう簡単ではない。
という事で、現在は
仮設の収容施設として地下の独房を一時的に収容場所としている。
「・・・はぁ。」
ステイカーは、これで終わりかといったように深いため息をついた。
自分がフォーサーだという事で優越感に浸り、
それが表面にも浮き出てきたのが犯罪行為だった。
が、フォーサーが好き勝手に暴れれば
いつかは必ずそれに対抗できる手段を持ち合せる者が出てくるだろう。
今思えば、このような目に合うのは
最初から分かっていた事なのかもしれない。
それなのに、抑制ができなかった・・・。
そもそも、人間とは高等生物などではなく、
目の前の欲望を満たす事を優先する一般的な動物と何ら変わりないんだろう。
「さぁ、フォーサーの変身を解け。」
ピスケスがそう言うと、ステイカーは突然裏口に当たる扉の方向を向き、
その場で固まってしまった。
フォーサーの表情の変化というものは掴みづらいが、
ステイカーは明らかに恐怖を成して顎をガクガクと震わせている。
ピスケスは彼の異常に気付くと、
それと同時にジェミニの視線もそちらに向けられている事に気付いた。
「あ、あ、アレもお前らの仲間か!?」
震えるステイカーが指差す方を恐る恐る見ると、
そこにはピスケスでも息を飲む光景が広がっていた。
なんと、扉から入ってきた全身黒ずくめの人間の足元に、
鮮血まみれの人間の頭部が3人分転がされていたのだった。
その黒ずくめの人間は
赤いラインの入ったロングコートらしきものを羽織っており、
顔は、まるで顔面からドリルが伸びているように
流線型な段差になっているだけで目も口も見当たらない。
見ただけで、いかにも襲ってきそうな攻撃的な性格が透視できそうだ。
「あぁ・・・あぁ・・・俺の仲間が・・・」
それらの転がされた頭部は、
ステイカーこと榊原 陸馬の犯罪仲間3人のものだった。
ステイカーが驚くのは無理もないが、
これにはピスケスとジェミニも呆気に取られている。
「岡本さん、アイツ、フォーサーですかね?」
ジェミニは歩いてきてピスケスと並ぶように立ち止まると、
その場で例の杖を構え、戦闘体勢に移る。
が、ピスケスは何かを考えるように
黒ずくめの人間を見据えたまま微動だにしない。
「お前の・・・を・・・せよ・・・。」
その黒ずくめの人間とは距離があるために
はっきりとは聞こえなかったが、
確かにその人間は男性の声で何かを喋った。
だが、次の瞬間、その黒ずくめの男に起きた変化は
その場にいた誰もがはっきりと目にした。
「ぐああああッ!!」
黒ずくめの男は、その場から瞬時に「消えた」。
かと思いきや、次の瞬間にピスケスたちの周囲に
凄まじい爆風が吹いたかと思うと、彼らの背後で
恐怖のあまり立ち上がったステイカーが一瞬にして血を吐きながら倒れた。
「は、速い!?何も見えなかったぞ!?」
黒い戦士は一瞬でピスケスとジェミニの背後に回り、
タキシック・ステイカーというフォーサーを一撃で抹消した。
その戦士は、血が付着した
まるで斬馬刀のような巨大な刀を右手に握った状態で
そこに整然と立っていたのだった。
「お、お前は何者だ!?
こんな事をしてただで済まされると思っているのか?」
ジェミニは驚き、距離を取るように何歩か後退する。
もはや、被害者以外にとっても
目の前の黒い塊は恐怖の対象でしかない。
「私の名前は・・・ドミクロン、だ。
悪いが、貴様らの正義と私の正義には差異が見受けられるだろう。
私の正義は・・・世界の真理へと辿り着く。」
ドミクロンと名乗る男は低い声でそう語ると、
不意にピスケスの方へと顔を向ける。
「何か私に用があるのか?」
固まっているピスケスに違和感を持ったのか、
ドミクロンという者が問い掛ける。
「あんた・・・その声にその姿・・・。
俺が知っている男に似ている・・・。
が、あの人はもうこの世にはいないはずだ!」
ピスケスは不信感を露わにするが、
ドミクロンと名乗る男はフッと軽く笑い、
そのまま入ってきた扉の方へと歩を進め始めた。
「ならば一度、その結論に至るまでの過程を見直してみろ。
もしもそれに問題が無ければ、結論自体が早計だと言う事になる。
私がその男だと決定付ける確たる証拠はなかろう。」
ドミクロンと名乗る男は
ピスケス達が呆気に取られて直立している方向には視線を移さなかったが、
確かにピスケスへと返答を残すと、倉庫の外の夜の闇へと消えていった。
「・・・岡本さん、あの化け物は知り合いなんですか?」
ジェミニが不思議そうな様子で隣のピスケスへと尋ねる。
「・・・俺の予想が正しければ、の話だがな。
しかし、あの人は既に・・・。」
「死んだはず、ですか?」
「あぁ、その通りだ。
あの人は俺がアブソリュート・アーツ社に入るきっかけとなった人であり、
世紀の犯罪者でもある・・・。」
ピスケスはそう言うと、ジェミニの方へと向き返る。
「だが、俺の勝手な推測で話を進めるのは傲慢だな。
日枝沢、お前が望むというのなら
俺がこの会社に来るまでの過去を詳細に語ってやるのも厭わないが?」
「・・・・・いえ、遠慮します。
何だか、聞いて後悔しそうな内容のような気がしますので・・・。」
「フッ、そうくると思ったよ。
ところで・・・日枝沢は、
平和な社会はどうして実現できると考える?」
ピスケスはドミクロンの登場によって低くした声を
更に低くしてジェミニこと日枝沢へと問う。
「それは・・・とりあえず目前の脅威であるフォーサーを倒す事ですか?
その後は、とかっていう難しい話は分かりません・・・。
平和なんてぼんやりとしたものだと思うので・・・。」
ジェミニはピスケスの気迫に押されるように
時折突っかかりながら言葉を吐き出した。
「ではお前は・・・この有り様を平和と捉えるという事か?」
ピスケスは後方のフォーサーの残骸を指で指し示す。
それは先ほど、ドミクロンの斬馬刀で心臓を一突きにされた
タキシック・ステイカーの死体だった。
「・・・そう言われると、答えにくいですよね。」
「確かに平和、というのはお前の言う通り、
相対的で曖昧で言わばご都合主義的で、いい加減な表現だ。
だから平和の意味というものは、俺は無数に存在すると思う。
しかし、その中で他人の命を略奪し実現する平和と言うものは
俺にはどうも納得がいかない。」
「・・・でも、それは矛盾になりませんか?
この中二宮Xレアというアーマーは何のために開発されたんでしたっけ?」
「フォーサーへの対抗、つまりはヤツらの無力化、だ。
決して殺害目的のおもちゃではない!」
ピスケスはそう言い放つと、
ドミクロンと呼ばれる者が出ていった扉に向かって
同じように歩き始めた。
「・・・当然の事だが、それは相手の度にもよる。
時には殺さなければならない敵も出てくる事だろう。
あの大量虐殺を犯した赤い狼のように・・・。
しかしながら、俺は出来る限りのフォーサーはこの手で救ってやりたい。
このステイカーというフォーサーは仲間と共に
人質を取り身代金を得て逃走する、という犯罪行為を繰り返してはいたが、
誰一人として殺害していなかった。
ならば・・・まだ救いようがあったはずだ。」
ピスケスの演説にジェミニは呆気に取られて、
数十秒の間、倉庫内に立ち尽くしていたのであった・・・。
ピスケスこと岡本 龍星は今から10年前、
自分の具体的な思想を抱き、
そうして、『一人でも多くの人を悲しませないようにする』
という目標のもと、今までの道を歩いてきた。
その過程で、当然ながら彼の中で10年前から変化した思想もある。
例えば、つい最近の話の中だと
フォーサーの出現により必要な殺害というものも存在する、
という事を認識せざるを得なくなった、という点であろう。
ただ、どこまでが必要な殺人で、
どこからがその境界を超えるものとなるのか・・・。
それこそまさに
それぞれ違う基準を持つ人間では絶対的な判断を下す事などできない。
それを絶対的に判断するというのであれば、
ある程度、明確な基準を設けなければならないが、
それを実現する「法」ではフォーサーは裁く事ができない。
ならば、フォーサーに対抗できる自分及び中二宮Xレア装着者が
その己の良心に基づき、"基準"を決定付けるしかない。
しかし、そういう者ですら殺人鬼と罵られる社会・・・。
それこそ多種多様な思想を持つ「人間」が住む世界だ。
よく言われる「正義」がどれだけ曖昧なものかがよく分かる。
―――――その頃、月光 夏景は―――――
・・・僕は結局、占い名探偵こと惣野代 巡の事務所に出向き、
吹雪ちゃんが変わってしまった理由を確かめる事には成功した。
彼は夜分の突然の来客には機嫌を損ねていたが、
僕にはそんな彼の事情なんて頭の隅でも考えていられなかった。
どうやら日曜日、僕の記憶が抜け落ちた際に
僕は吹雪ちゃんに自分がフォーサーだという事を報告していたらしい。
それにショックを受けたのか、吹雪ちゃんはその場で倒れたとか。
吹雪ちゃんとは正直、友達はおろか、
恋人さえも超えるような存在になれると思っていた。
吹雪ちゃんと話したり、遊んだりする時はもちろん楽しいけど、
吹雪ちゃんの存在を意識するだけで僕は元気になれる。
辛い事でも乗り越えられる、そんな気がする。
彼女が僕をどう思っているのかというのは分からない。
でも、僕は少なくとも彼女を意識せずには生きられないほどに
彼女に依存している事は事実だ。
そんな吹雪ちゃんが僕の正体を知り、
僕への態度を変えた・・・それは仕方がない事なのかもしれない。
フォーサー自体、この今の日本では忌み嫌われる存在であり、
そうゴロゴロといるものでもないからその姿を見る事は少ない。
だからそう見慣れてもいないはず。
でも・・・僕の中で吹雪ちゃんは
たぶん僕の本当の姿を知ってもそのままの笑顔を見せてくれると思っていた。
その想定は甘かったという事だろう。
僕は・・・彼女に裏切られた。
僕が吹雪ちゃんを裏切り、吹雪ちゃんは僕を裏切った。
でも、悪いのは僕の方だろう。
この世界で常識的に悪いのは最初に手を出した方だ。
僕の事を受け入れられない吹雪ちゃんが僕を裏切ったところで、
僕に彼女を責める権利なんてない。
・・・じゃあ、この僕が吹雪ちゃんに対してできる事はなんだろう?
その答えは、僕の中では既に出ている。
それは彼女に一切の無理をさせない、という事だ。
僕にとって未だ彼女が大切な存在である事に変わりはない。
だったら、僕にできる事はそんな彼女の心の負担を減らす事だと思う。
ましてや、自分がその大きな負担になるというのならば
いっその事、僕の方から彼女を突き放せば良い。
それで彼女が幸せになれるなら・・・。
僕はそんな事を考えながら夜21時30分過ぎの帰路を歩いていると、
目の前が歪んで見えていた事に気付いた。
暗くて視界がそう広くないのは当然だけど、
僕の両目はいつの間にか涙で溢れ返っていた。
たまに、心と体が上手く連動していない、と思う時がある。
何か嫌な事があって凄く落ち込んでいても、
身体は絶好調でそういう嫌な事を考えられない時もあるし、
気分は最高の状態でも頭痛やらなんやでそれを害される事もある。
・・・今もそうなんだろう。
いくら心で吹雪ちゃんのためだとかと言って
重要な選択をした気になっていても、
身体では吹雪ちゃんがまだ傍にいるような感覚に囚われていて、
心と体の現状認識にギャップが生まれている。
でも・・・今の場合は体の方を矯正するしかない。
それには相当な時間を費やすかもしれないけど、
だからと言って、これ以上の甘えは吹雪ちゃんを苦しめるだけだ。
・・・さようなら・・・吹雪ちゃん。
この2ヵ月ちょっとの間、本当に楽しかったよ。
@第11話 「見えない平和??」 完結




