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1話 不器用な俺と、器用さ(DEX)100の覚醒

 月夜の街を、一匹の三毛猫が必死に走っていた。


(今日もいつもの場所であの人に会えるかな……?)

(ちょっと遅れちゃった。急がなきゃ……!)


 角を曲がった瞬間、激しいライトの光が視界を白く染める。


「「危ない――っ!?」」


キィィィーーーッ! ドカァァァン!!


 ◇


『……起きなさい』

『起きなさい、ミイナ・フローランス』


「ん……ここは……?」


 真っ白な世界で目を覚ました少女は、自身の透明な手を見つめ、目の前に君臨する神にすがりついた。


「神様! 私……死んじゃったのですか!?」


『そうだ、ミイナよ。無念であろう。お前を元の異世界へと還してやろう』


「待ってください! あの人も……私に優しくしてくれたあの人も、苦しみながら生きています……!」


 少女は涙をこぼしながら、神に向かって必死に手を伸ばした。


「お願いです! 一緒に……あの人も一緒に連れて行ってください!!」


 ◇


「――瀧口、またか。この資料、レイアウトが見づらいって言っただろ。もっと要領よく作れよ」


「……すみません」


「まったく……今日中に作り直しておけよ」


「はい……」


 突き返された分厚い企画書を受け取り、俺は深々と頭を下げる。

(はあ……今日も残業確定か……)


 俺の名前は瀧口透哉(たきぐち とうや)、22歳。

自分でも痛いほど分かっている。俺は【超がつくほどの不器用】だ。


 子供の頃から工作は破壊工作になり、団体スポーツでは足を引っ張るだけ。料理をすれば黒焦げの物体を生み出す始末。友達もおらず、当然彼女なんて夢のまた夢。

 社会人になっても要領の悪さは変わらず、同期にはあっという間に引き離されてしまった。


(世渡り上手で、何でも器用にこなせる奴が羨ましいよ……)


「……やっと終わった」


 会社の時計は夜の11時を回っていた。

トボトボとビルを出ると、夜空からは冷たい雨が吹き付けていた。


「げっ、雨……。傘、持ってきてないや」


 仕方なく近くのコンビニに駆け込み、透明なビニール傘を購入する。

 店を出ると、軒下で一人の老人がポツンと雨宿りをしていた。立派な白い髭を生やした不思議な雰囲気の老人で、つい視線を奪われてしまう。


「雨、止みませんねぇ」


「っ、そう……ですね」


 話しかけられて動転し、ありきたりな返事しかできない自分が情けない。

 だが、ずぶ濡れになりそうな老人を前にして、不器用な俺の変な善意が働いてしまった。


「あの、おじいさん。この傘、使ってください。俺は家がすぐ近くなので!(嘘)」


「いいのかい? 買いたての傘だろう」


「大丈夫です! じゃあ!」


 半ば強引にビニール傘を押し付け、走り出そうとしたその時――老人がボソリと呟いた。


「青年よ。……今の人生は楽しいか?」


「えっ?」


「この世界で、このまま生きていきたいか?」


 あまりに唐突な質問だった。だが、雨の冷たさと疲労のせいで、つい本音が口から漏れてしまった。


「……ハハ、楽しいとは言えないですかね。もし人生をリセットできるなら、迷わずやり直したいですよ。……じゃあ、お元気で」


(変なこと聞くおじいさんだったな。でも、本音言えてちょっとスッキリしたか……)


 走ってアパートに帰り着いた時には、全身びしょ濡れだった。

 風呂に浸かりながら、重いため息をつく。


「はあー……明日も仕事か。まだ水曜日なんだよな……」


 髪も乾かさず、吸い寄せられるようにベッドへ倒れ込む。

 そのまま、俺の意識は深い闇へと落ちていった。


 ◇


「……ん?」


目を覚ますと、そこは上下左右の概念すら曖昧な、どこまでも続く真っ白な空間だった。


「なんだこれ……夢か?」


「夢ではないぞ、青年よ」


 振り返ると、そこにいたのは先ほどのコンビニの老人――いや、後光を射した神秘的な姿の神だった。


「えっ……おじいさん!? ここどこ!? 俺、死んだの!?」


 パニックで取り乱す俺の足元から、パタパタと一匹の三毛猫が駆け寄ってきた。


『君はこの猫を知っているね』


「あ……っ! ミイ!?」


 知っている。近所の野良猫で、俺が勝手に「ミイ」と名付けて、こそっと煮干しをあげたり撫でたりしていた愛猫だ。最近姿を見かけなくなって心配していたのだが……。


「トーヤさん! いつも美味しいご飯をありがとう!」


「うわあああ!? ミイが喋ったぁぁ!?」


「この世では言葉が通じるのです! トーヤさんにご飯貰って生きてたけど車にひかれてしまって、でもトーヤさんに恩返ししたくて神様にお願いしたんです」


『優しき青年よ、そなたは選ばれたのだ』

『青年よ、そなたの望みを叶えよう。今より新たな人生を歩むがよい』


 神が静かに手を振ると、俺の目の前に巨大な青い光のパネル――『ステータス画面』が浮かび上がった。


========================

【割り振り可能ポイント:100】

・筋力(STR):0

・魔力(INT):0

・体力(VIT):0

・すばやさ(AGI):0

・器用さ(DEX):0

・幸運(LUK):0


(……え? これって、ネット小説でよく見る異世界転生ってやつか……!?)


「トーヤさん、ポイントを振り分けて! 一緒に新しい世界へ行きましょう!」


 ミイの言葉に促され、俺の目はある一つの項目に釘付けになった。


《器用さ(DEX)》


 ……器用さ。

 現実の人生で、俺が喉から手が出るほど欲しかったもの。

 もし俺が器用だったら、要領よく仕事をこなして上司に褒められ、料理も美味しく作れて、もっと楽しい人生を送れていたはずなんだ。


(……ハハッ、どうせ死に際の走馬灯か、都合のいい夢だろ? 夢なら、自分のワガママを貫いたって誰も文句言わないよな!)


「よし……決めちゃえ!」


 俺は躊躇することなく、100ポイント全てを『器用さ』の一点へ注ぎ込んだ!


========================

【割り振り可能ポイント:0】

・筋力(STR):0

・魔力(INT):0

・体力(VIT):0

・すばやさ(AGI):0

・器用さ(DEX):100(MAX)

・幸運(LUK):0


「ちょっとトーヤさん!? 偏りすぎです! 普通はバランスよく振るものじゃ……!?」


「いいんだよミイ! 俺は、次の人生こそ『器用』に生きたいんだから!」


 笑いながら【確定】のボタンを強く押し込む。

視界が眩い黄金の光に包まれ、俺とミイの身体が粒子となって宙へ溶けていく。


――だが。

急速に遠のく意識の端で、俺はステータスパネルの最下部に『禍々しい赤色の警告メッセージ』が刻まれたことに、全く気づいていなかった。


────────────────────

『※重大なシステムエラーを検知』

『初期値の限界突破(DEX:100)により【器用さ】の概念が神級拡張されました』


【獲得固有スキル:神の指先(ゴッド・ハンド)】

・あらゆる構造・法則の『解読』『修復』『極限運用』を可能とします。

・全ての行動・技術・魔法演算―全能力へに対し、超高効率の補正が適用されます。

────────────────────


『――行っておいで、極致の器用さを手に入れた愛しき子よ』


 神の含み笑う声を聞きながら、俺の意識は完全に途切れた。


 不器用だった俺の人生は、ここで終わり。

そして異世界で――誰も想像すらしていない「最悪で最高の勘違い無双」が始まろうとしていた。


読んでいただきありがとうございました!


『平凡で不器用だった俺、転移先で器用に生きようと【器用さ】のステータスに全振りしたら、剣も魔法も生産も覚醒する』の連載スタートです。


少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!

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