後編
デザイオンは婚約破棄を避けようと必死だった。
「構いません」
「意味を理解しているのか!?」
「それはこちらのセリフです。私は被害者、やらかしたのはデザイオンさん。ですから私が責められる理由はありませんし、そんなことにはならないと思います」
「ぐ、ぐぐ、ぐぬ、うぬぬぬぬ……」
それからアリラへ視線を移す。
「貴女からも償いのお金を取りますので」
「はあ? なーに言ってんのよ! そんなこと、できるわけないでしょ!」
「罪は償ってもらわなければ」
「あーあー、もー、うっさいわねぇ。これだからダッサい女は嫌いなのよ。ちっさいことでごちゃごちゃと」
彼女は最後まで反抗的な態度を取っていた。
「逃がしませんので」
ならばなおさら、しっかりと、罰を与えなくては。
「お覚悟を」
反省しない人には罰を与える――それが私の意思。
◆
デザイオンとアリラ、双方からしっかりと償いのお金を取った私は、新たな人生へと歩み出した。
そして、そんな中で知り合った一人の青年アルフレットと絆を深めて、やがて結婚するに至った。
初めて出会った日にうっすらそうなる気がしていたことは黙っているけれど……でも、あの時の勘は間違いではなかったのだと分かり、今はとても嬉しい気持ちだ。
私はもう過去には縛られない。
前を向いて生きる。
希望を信じて歩む。
それが私の選択だ。
アルフレットとならきっとそれが可能だろう。
ちなみにデザイオンとアリラはというと、あの後痛い目に遭ったようだ。
まずデザイオン。
彼は、アリラの両親からも酷く責められ、数時間にわたる説教を一週間以上されたためにある晩突如怒りを爆発させた。
アリラの両親の目の前で暴れ出す。
傍にあったグラスは粉々に、家具を何度も投げて壊し、窓を割った。
そしてやがて、アリラの母親に襲いかかり、庇おうと割って入ってきたアリラの父親を転倒させ命を奪ってしまう。
思わぬ形で他人の命を奪った罪人となってしまったデザイオンは、牢屋送りとなった。
そうして訪れた冬、牢屋内で風邪をこじらせてこの世を去ったらしい。
次にアリラ。
彼女は、デザイオンと破局した後に別のお金持ちな男性に迫り男性を奥さんから奪い取ろうとした。だが、男性の奥さんが聡明な人であったためにはめられて決定的瞬間を目撃されてしまい、作戦は失敗に終わる。
と、懲りずにそんなことを繰り返していたようだが。
ある時富豪の息子に問題のある形で手を出したことで富豪の夫妻に激怒されてしまい、拘束され、異国へ売り飛ばされてしまったそうだ。
デザイオンはこの世から去り、アリラは人として生きていく権利を失った。
……だが可哀想なことではない。
自分勝手な行動をして他者を傷つけたのだ、そんな彼らが普通に幸せになんてなれるわけがない。
◆
「昨日言ってたケーキ、買ってきたよ!」
「本当に!?」
あれから数年、私は今も夫であるアルフレットと楽しい日々を過ごしている。
「うん。さっき店の前通ったら空いててさ。並んでるケーキを見たら君が言ってたこと思い出したんだ」
「そうだったのね」
「ベリータルト、だったよね……?」
「ええ」
「良かったぁぁぁぁ……覚えてるつもりだったけど、でも、ちょっとだけ不安だったんだ。もしかしたら間違ってるかも、って」
アルフレットと過ごす日々は穏やかそのもの。
「それを買ってきてくれたの?」
「もちろん!」
だから私はこの日常を護っていきたい。
「ありがとう、とっても嬉しいわ」
「早速食べる?」
「そうね。アルフレット、食べれそうな感じ?」
「君と同じ時に食べるよ」
「じゃ、準備しましょ」
――穏やかで、幸せな、春の陽だまりのような日々は続いていく。
◆終わり◆




