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机の上には、何もなかった  作者: ゆうぎり


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11/11

封筒が必要だったのは、誰だったのか

夜は、急がずに降りてきた。


窓の外の空は、

夕方の名残をゆっくりとほどきながら、

静かな藍色へと移り変わっていく。


通りの音も、

昼よりひとつ分だけ

やわらいでいた。


灯りは、

まだともっている。


昼の光の中でも消えなかった小さな火は、

夜の気配に包まれて、

いっそう穏やかな明るさを保っていた。


机の上の欠片は、

動かない。


ただ、

光の受け方だけが、

時間とともに

少しずつ深みを増している。


強く輝くわけではない。


呼びかけることも、

主張することもない。


それでも、

そこにあることで、

部屋の空気の重なり方が、

どこか落ち着いて見えた。


椅子は、

きちんと収まっている。


本の重なりも、

先ほど整えられたまま、

静かに息を潜めている。


何も乱れていない。


何も、特別なことは起きていない。


それでも——


この部屋は、

もう、

少し前の部屋と

同じではなかった。


灯りの火が、

ごく小さく揺れる。


風は入っていない。


窓も閉じたまま。


それでも、

火だけが、

やさしく呼吸を続けている。


欠片の縁に、

淡い色がにじんだ。


それは、

何かが増えた色ではない。


むしろ、

もともとあったものが、

ようやく落ち着く場所を

見つけたあとの色に近かった。


外では、

誰かの足音が通り過ぎる。


遠くで、

戸の閉まる音。


どこかの家から、

夕餉の支度の気配。


世界は、

きちんと続いている。


今日も、

昨日と大きく変わらない速さで、

夜へ向かっている。


机の上には、

開いたままの箱がある。


中には、

もう何も入っていない。


最初から、

ひとつ分だけの場所だったかのように、

静かに空いている。


その空白は、

不思議と寂しくは見えなかった。


むしろ、

役目を終えたあとの

やわらかな余白のように、

穏やかにそこにある。


灯りは、

まだともっている。


小さく。


けれど、

確かに。


欠片の近くで、

火がもう一度、

静かに揺れた。


今度の揺れは、

何かに応えたというより、

ここに在ることを

そっと確かめるような動きだった。


しばらく、

何も起きない時間が続く。


時計の針は、

正確に進む。


外の音も、

いつもどおりに重なっては離れていく。


部屋の中だけが、

ほんのわずかに、

やさしい密度を保っている。


やがて、

夜の色が

窓辺に深く落ちてきた。


昼の気配は、

静かにほどけていく。


それでも、

灯りは消えない。


机の上の欠片も、

そのまま、

落ち着いた光を受けている。


何かが終わった、

という感じはなかった。


何かが始まった、

という感じもない。


ただ——


必要だったものが、

それぞれの場所に

きちんと収まったあとの、

静かな呼吸だけが残っている。


封筒は、

結局、

ここには現れなかった。


最初から、

届く必要が

なかったかのように。


箱は、

もう役目を終えている。


灯りは、

これからも

ともり続けるだろう。


外の世界は、

明日も、

きっと相変わらずだ。


けれど。


変わらないまま

続いていくものの中にも、

ときどき、

誰にも気づかれない形で、

静かに収まるものがある。


夜は、

もうすぐ深くなる。


灯りは、

まだ消えない。


そして、

机の上には——


何も、

足りていなかった様子は、

もうどこにもなかった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


静かな物語に、最後までお付き合いいただけたことをとても嬉しく思います。

もし、この物語の灯りが、あなたの心に少しでも残っていたなら幸いです。


またどこかの物語でお会いできましたら嬉しいです。

本当に、ありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

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