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黒き魔王のミニアメ車

前書き

 2020年3月下旬。アメリカ合衆国、デトロイト。

 五大湖の水は澄み渡り、かつての排ガスのノイズが嘘のように消え失せた、全盛期のアメリカ。

 そこに立つセイタンシステムズの極秘ピットでは、万桜型アンドロイドが、歴史を塗り替える最終実験を行っていた。

 

「爆発」を捨て、水を瞬時に1700倍へと膨張させる『膨張圧エンジン』。

「金属」を捨て、生物的な強靭さと粘りを持つ『複合ジェル装甲』。

 この二つの禁断の論理がマージされた時、デトロイトの空には、内燃機関への死刑宣告とも言える、静かな、けれど圧倒的な物理法則の咆哮が響き渡る。

 

 一国の指導者を「アメリカン」と呼び捨て、エネルギーの巡りと物質の地層を、自らの知性で最適化し続ける少年。

 万桜(マオウ)という名の特異点が放つ「論理の光」は、停滞していた自動車文明の歯車を、暴力的なまでの速度で回転させ始める。

 これは、古臭い石油の匂いをデリートし、全盛期の未来を強引にデプロイしていくまでの、激動の記録である。

 2020年3月下旬。アメリカ合衆国のデトロイト。

 五大湖の水は澄み渡り、ありとあらゆるノイズの消えた全盛期のアメリカ。

 ここに万桜(マオウ)型アンドロイドが、ある実験を行っている。

 

 ガソリンを爆発させる「燃焼ノイズ」を一切排除し、水の瞬間相転移による1700倍の膨張圧のみを抽出する、新型エンジンの火入れ式だ。

 万桜の手によって、極少量の水が熱源分離型のインジェクターへとデプロイされる。

 次の瞬間、無音に近い「シュンッ」という風切り音と共に、ピストンが物理法則の勝利を告げる、圧倒的なストロークを刻み始めた。

 

「どうだアメリカン。これでガソリンなんてものは、奪い合う必要もねえバグに変わったぜ?」

 万桜(マオウ)はモニター越しに、世界最強の男である全盛期の大統領に語り掛ける。

「オーマイガー! おいおい万桜(マオウ)ボーイ! おまえはとんでもないものを組み上げてくれたな?」

 大統領は、若返った顔に凶悪なまでの愉悦を浮かべ、豪華な執務机を fist で叩いた。

「ペトロダラーの役目がひとつ減っちまったじゃねえか?」

 言葉のわりに、大統領は嬉しそうに笑っている。

 石油という名の「希少なリソース」に依存しない、完全クローズドサイクルのエネルギー源。

 それは、合衆国の安全保障を根底から書き換える、最強のセキュリティパッチであった。

 

 未来を発信できるのは合衆国だ。

 万桜(マオウ)は名誉や名声に興味がない。

「なんせミニアメ車のキモはジェル装甲だ」

 万桜(マオウ)は、隣に控える『硬・軟・粘』の複合ジェルで固められた、マッスルな軽乗用車を指差した。

「ガソリンの匂いが移ったら、車内環境はたちまち最悪な環境になる」

 万桜(マオウ)の指先が、ジェルの地層が形成する滑らかな内装をなぞる。

「せっかく(シヴ)ぃ軽乗用車なのに、それじゃあシティデートも台無しだろ?」

 

 爆発のノイズを捨て、重力から解放されたジェルの乗り心地。

 莉那たちが求める「お風呂上がりの……な?」という最高の全盛期を、ガソリンの排ガスで汚染させるわけにはいかない。

「この1700倍の膨張圧を、複合ジェルの『粘り』で抑え込む……。このギリギリの論理的衝突が、たまらなくエモいじゃねえか」

 九段下のラボで、経理の天才・香織(カオリ)が「魔王さま、また物理法則で粉飾決算(チート)してる……」と、呆れたパケットを投げている光景が見える。

 

万桜(マオウ)ボーイ。その『エモい』とかいう謎のパラメーター、我が国のOSにも実装させろよ!」

 大統領の豪快な笑い声が、ホワイトハウスの壁を震わせた。

 万桜(マオウ)の冷徹な合理性と、大統領の権力が完全に同期した瞬間。

 二〇二〇年の春、デトロイトを起点として。

 既存のエネルギー利権を焼き払い、全盛期の美しさだけを抽出する「膨張圧ジェル・マシン」による侵攻が、ついに世界の理を書き換え始めた。

「じゃあ、このエンジンのセッティング履歴、あの『有名人』のログを適応させてくれや」

 万桜(マオウ)は、不敵な笑みを浮かべ、モニターの奥に控えるピットスタッフへと業務命令を下した。

 有名人。

 かつてデトロイトの峠を、独自の「硬・軟・粘」の黄金比で制覇した、伝説のドライバー。

 彼が残した「膨張圧1700倍の暴力を、ジェルの粘りで抑え込む」という、狂気じみた最適化の履歴(ログ)

 それを、この新型マシンに全盛期の精度でレンダリングするのだ。

 

万桜(マオウ)くん。それは随分と、過保護な『継承』ね」

 舞桜(マオ)は、手帳に新たな利権の枠組みを書き込みながら、妖艶に微笑んだ。

「モノを売るのではなく、その人が人生を賭けて辿り着いた『最適解』という名の魂を売る。これこそが、わたくしたちの会社の根幹です」

 舞桜(マオ)の言葉には、自然を慈しむ情緒ではなく、伝説という名の高解像度アセットを収益化するための、冷徹な「領域の論理」が宿っていた。

「前のオーナーがどう『地層』と対話したかが、すべて数値で残っているんだから」

 拓矢(タクヤ)が、膨大なデータログを指先で弾きながら、軍事的な兵站の最適化を重ねて頷いた。

「これは、単なる中古車の転売じゃない。記憶の移植だ」

 

「俺のセッティングは、俺にしか乗りこなせねえ」

 万桜(マオウ)は、アンドロイド越しに、伝説のドライバーの「捻り」の癖をシステムに同期させ、満足げにモニターを閉じた。

「スタッフと喧嘩しながら辿り着いたこの『捻り』の感触、これが最高なんだよ。アイツの残した『粘り』をもう少し削って、さらに尖ったセッティングに書き換えてやるぜ。それが前のオーナーへの礼儀だろ?」

 

 九段下のラボに、新しい時代の「巡り」を刻むタイピング音が、冷徹に響き渡った。

 作り捨てない社会において、有名人の愛車は「骨董品」ではなく「現役の傑作ヘリテージ」として扱われる。

 万桜(マオウ)という名のバグがもたらした「夢中」という名のエネルギー。

 それは、デトロイトのピットを中心とした、新しい経済圏(エモい循環)の誕生を告げていた。

 

 有名人が乗り続けた愛車を手放す。

 その瞬間、社会は「新しい文化の種」が撒かれたことに気づき、全盛期の熱量で再起動(リブート)を始めるのだ。


★ ◆ ★ ◆ ★


 二〇二〇年三月下旬。九段下のセイタンシステムズ・メインラボ。

 モニターの中ではデトロイトの澄み切った空が映し出されているが、ラボの空気は一〇〇〇度を超える鉄鋼炉のように、あるいは絶対零度の静寂のように、奇妙な熱量と冷徹さが同居していた。

「てか九条、おまえセイタンシステムズに入ったのか?」

 万桜(マオウ)は、新入社員としてデスクに鎮座する文学青年、九条鉄厳(イワオ)に深いジト目を貼り付けた。

 かつて本郷のカフェで「薩摩の火山」と吼えていた男が、今は香織(カオリ)の隣で、借りてきた猫のように静かに領収書の束と対峙している。

「あー、黒木先輩。九条は標準語プロトコルが未熟なので、喋れません。代わりにウチが説明するね」

 香織(カオリ)が、一切の無駄を削ぎ落とした、クリスタルのように鋭利な標準語で割って入った。

「杉野が普通に話すとか脳がバグる」

 万桜(マオウ)は、あまりの違和感に目眩を覚え、自身の前頭葉を抑えて頭を抱えた。

 ギャル語という名の情緒的パケットを完全にデリートし、純粋な論理と言語規則のみで構築された香織(カオリ)の「スーパー学徒モード」。

 それは万桜(マオウ)にとって、物理法則が逆転する以上のシステムエラーであった。

「どういう意味よ黒木先輩!?」

 香織(カオリ)がキレ気味に声を荒らげるが、その怒声さえもが、一寸の狂いもない音韻プロトコルに基づいている。

「先輩がデトロイトで『膨張圧エンジン』なんていう、内燃機関を過去の遺物にする『文明のパッチ』をデプロイしたせいで、こっちの経理業務はオーバーフロー寸前なのよ」

 香織(カオリ)は、流麗な手捌きでキーボードを叩き、モニターに膨大な貸借対照表を表示させた。

「ミニアメ車関連のライセンス料、ピットでのセッティング履歴の二次流通。これらはすべて『概念』という名の非定型資産なの。既存の会計ソフトなんて、先輩のロジックの前では電卓以下のゴミよ」

 

 香織(カオリ)の背後では、鉄厳(イワオ)が黙々と、凄まじい筆致で伝票を処理している。

「世界中の投資家から送られてくる資金パケットを、一秒でも滞留させずに再投資へ回す。この『巡りの最適化』を行うには、九条くんの文学的な俯瞰能力と、わたしの計算能力をフル稼働させても、リソースが全く足りないわ」

「……。おまえ、本当に杉野か? 誰かが人格データをリライトしたんじゃねえだろうな?」

 万桜(マオウ)の疑念を無視し、香織(カオリ)は冷徹なまでの事務的スマイルを貼り付けた。

「人手不足なの。わかったら黒木(クロキ)先輩。魔王(セイタン)の余剰演算リソースを、今すぐこの『情緒的負債の消却』に割り当てて。さもないと、来期の予算編成案を全盛期の精度でデリートしてあげるから」

「CEO殿、助けてくれ。標準語の杉野という名のノイズが、俺の論理を浸食してくる……」

 万桜(マオウ)は、情報の多層構造の中で一人、絶望的なパケットロスに悶えていた。

 その横で鉄厳(イワオ)だけが、文学の構造解析を応用した「エモい複式簿記」を、全盛期の速度で遂行し続けていた。


 九段下のラボに、ついに臨界点を超えた鉄厳(イワオ)の咆哮が叩きつけられた。

 無機質なキーボードの打鍵音を切り裂き、桜島のごとき熱量が静寂を蒸発させる。

「ないごて、こんな仕事ば多いんじゃ!」

 鉄厳(イワオ)は、山積みになったライセンス契約の束を拳で叩いた。

 標準語プロトコルという名の「枷」を自ら引き千切り、剥き出しの全盛期の薩摩弁がラボに飛散する。

「黒木先輩! おはんの作った膨張圧エンジンは、もはやエンジンの域を越えて怪物(けもん)のごわす! 世界中のパケットが、この九段下に土石流のように押し寄せちょる!」

「……。お、おい。九条が再起動(リブート)しやがったぞ」

 万桜(マオウ)は、モニター越しに見るデトロイトの空よりも、目の前の薩摩の火山に全盛期の恐怖を感じていた。

「杉野、おまえの標準語パッチが剥がれてんぞ。なんとかしろ」

「うるさいわね、黒木(クロキ)先輩! 九条くんのこの熱量こそが、今このラボに必要な『計算資源』なのよ!」

 香織(カオリ)は、一切のギャル語を封印したまま、氷点下の標準語で万桜(マオウ)を一蹴した。

「いい、九条くん。落ち着いて。その怒りという名のエネルギーを、すべてこの複合ジェル資産の評価損益に同期させて。なにこれエモいじゃん、って思える数字に変換するのよ」

 香織(カオリ)の瞳には、かつての遊び歩いていた頃の光はない。

 そこにあるのは、膨大な現金の巡りを司る、冷徹なまでの「管理者の論理」だ。

「人手不足なの。このミニアメ車のセッティング履歴という名の『魂のアーカイブ』を、正当な価格でレンダリングできるのは、九条くんの文学的知性とわたしの経理能力の融合だけなのよ」

「香織さん……! おはんなら……おはんだけは分かってくれると信じちょった!」

 鉄厳(イワオ)は、涙目で香織(カオリ)を見つめ、再び凄まじい速度でペンを走らせ始めた。

「この膨張圧エンジンの特許料は、もはや金銭ではない。これは人類の『希望』という名の無形固定資産にごわす! ハル・ノートをリライトする勢いで、この伝票を仕分けしてやるじゃっど!」

「……。脳がバグるどころか、もはやシステム全体が別のOSに書き換わってんな」

 万桜(マオウ)は、完全に疎外された「情報の孤島」で、一人頭を抱えた。

 標準語でキレる香織(カオリ)と、経理を武士道として解釈する鉄厳(イワオ)

 その奇妙な「全盛期の共振」が、セイタンシステムズの株価を、一秒ごとに光速で押し上げていく。

「ねえ、万桜(マオウ)。このままじゃ、経理部の『エモい支出』で会社が倒産する前に、わたしたちの脳がオーバーフローしちゃうわね?」

 モニターの端から、勇希の冷静すぎる全盛期のジト目が、万桜(マオウ)の良心を物理的に削りに来た。


 その阿鼻叫喚の光景を横目に、万桜(マオウ)はCEOを呼び出した。

舞桜(マオ)。今年の新入生は、不作揃いって言ってたけどマジですか?」

 万桜(マオウ)は、ようやく事態の深刻さを理解して、CEOである舞桜(マオ)に尋ねた。

「マジでございます。万桜(マオウ)くん。と言うか、ここ3年が異常なのよ」

 舞桜(マオ)は、手元のタブレットに流れる凡庸な適性データを、冷徹な速度でフリックして除外していく。

万桜(マオウ)くん、勇希(ユウキ)拓矢(タクヤ)くん、佐伯くんに藤枝(フジエダ)くんに西郷(サイゴウ)くん。琴葉さんにサブリナに香織(カオリ)……もちろん、あたしもね。一線でトップ張れる人間がポンポン現れること自体が異常なのよ」

 導かれたアホの子たちは、クセは強いけれど、それぞれが世界の理をハックする天才たちだ。

 それに対し、画面に並ぶ新入生たちのデータは、あまりにも「既存の正解」に最適化されすぎていた。

「普段はアホの子たちなのにな……クイズ王ばっかかよ今年は?」

 万桜(マオウ)は、情報の滞留を嫌うように吐き捨てた。

「答えが決まっている問題を解くのが得意なだけの『既存の知性』。そんなパケット、今のウチのラボには一ミリも必要ねえだろ」

「ないごて! クイズ王ち、なんをごわすか! 問答なら負けちょらんじゃっど!」

 作業の手を止めた鉄厳(イワオ)が、伝票の束を高く掲げて吼えた。

「知識という名の『過去のアーカイブ』を溜め込むだけでは、戦には勝てん! 今の九段下に必要なのは、明日を斬り拓く『全盛期の初太刀』にごわす!」

「はい、九条くん、うるさい。標準語プロトコルに戻って作業を再開して」

 香織(カオリ)の冷徹な標準語が、鉄厳(イワオ)の熱量を瞬時にマイナス二七三度に凍結させる。

 万桜(マオウ)は、再び自身の設計図へと視線を戻した。

 不作揃いの新入生。

 それは、セイタンシステムズという「特異点」が、あまりにも速く、あまりにも高く飛びすぎてしまったことの、必然的な副作用なのかもしれなかった。

「……。結局、俺たちが作り上げたこの『全盛期の環境』に耐えられるヤツがいねえってことか」

 万桜(マオウ)は、顔を赤くしながらも、モニターの輝きの中に自らの「論理の聖域」を再構築し始めた。


「てか、クイズ王でよくねえか? だって経理業務じゃん。正解を高速で答えるなら最適じゃん」

 一見もっともらしい万桜(マオウ)の提案を、パチンと言う扇子が閉じる音で、舞桜(マオ)が否定した。

「いい万桜(マオウ)くん。莫大な法人税が国庫に納まった時になにが起きますか?」

 舞桜(マオ)の瞳に、CEOとしての冷徹なまでの「領域の論理」が宿り、万桜(マオウ)を射抜く。

「いいこと、万桜(マオウ)くん。あたしたちがこの『膨張圧エンジン』という名の『文明の特異点』をデプロイしたことで、動いている資金の桁は、もはや国家予算の演算リソースを食いつぶすレベルなの」

 舞桜(マオ)はキレ気味に、手元の扇子を机に叩きつけた。

「クイズ王が導き出す『既存の正解』通りに納税してみなさい。市中からどれだけの通貨が消滅すると思っているの? それは経済システムにおける『信用創造の死』を意味するのよ!」

 舞桜(マオ)の剣幕に、万桜(マオウ)は思わず物理的な距離をとった。

「通貨の巡りが止まる。それは、血流が止まるのと同じこと。わたくしたちが納めすぎる税金という名の『デリート命令』が、市場の流動性を凍結させて、全盛期の不況を強制的にレンダリングしてしまうの」

 舞桜(マオ)は、モニターに映る鉄厳(イワオ)の背中を指差した。

「だからこそ、九条くんの『文学的解釈』による投資の再定義が必要なの。これは単なる節税じゃないわ。消滅しかけた通貨を、別の『エモい資産』へと相転移させて、信用という名のエネルギーを循環させ続けるための、高度な『経済の防衛戦』なのよ!」

「……。つまり、正解通りに答えるヤツは、この社会のOSを壊すバグってことか」

 万桜(マオウ)は、ようやく舞桜(マオ)の語る「深刻な事態」の解像度を上げた。

「既存のルールに従うだけの秀才じゃ、俺たちの生み出す『富の暴力』を制御できねえんだな」

「その通りよ。クイズ王なんて、あたしたちのピットには一秒もいらないわ」

 舞桜(マオ)は、再び扇子を優雅に広げ、熱を帯びた空気を払った。

「必要なのは、数字の向こう側にある『未来の地層』を読み解ける変態だけ。……でしょ、カオリン?」

「その通りです、CEO」

 香織(カオリ)は、一切の表情を崩さず、標準語のまま冷徹に肯定した。

「九条くんが今、伝票に書き込んでいる『薩摩魂による減価償却の再構成』。これこそが、国税局という名のデバッガーを黙らせ、通貨の巡りを守るための、全盛期の暗号化パッチなんです」

「ないごて、この数字は『誠』の文字に見えてくるんじゃ!」

 鉄厳(イワオ)の絶叫が、再びラボの論理をかき乱す。

 万桜(マオウ)は、もはや反論する気力すら失い、ただ「情報のオーバーフロー」に身を任せるしかなかった。


「モーレツな時代のインフレの正体ってじつはそれが原因か?」

 万桜(マオウ)の呟きに、経理デスクの空気が一変した。

 

「その通りでごわす! 黒木(クロキ)先輩!」

 鉄厳(イワオ)が、筆を置いて勢いよく立ち上がった。その瞳には、歴史の真理を射抜く「全盛期の輝き」が宿っている。

「かつての日本が『モーレツ』に突き進んだ際、そこには数字の計算を超えた『熱量』という名の通貨が乱舞しちょった! 正解を出すだけの秀才には見えぬ、魂の過剰供給が物価を押し上げたのでごわす!」

 

「……。九条くん、声が大きい。標準語に戻して。……でも、その指摘は『経理学的』には正解よ」

 香織(カオリ)が、冷徹な手捌きでモニターに戦後の経済成長率のグラフをレンダリングした。

「いい、黒木(クロキ)先輩。インフレの本質は、単なる通貨供給量の過剰じゃないわ。それは『未来への期待』という名の、制御不能なパケットが市場に溢れ出した結果なの」

 

 香織(カオリ)は、キーボードを叩いて、現在の「クイズ王」たちが信奉する経済モデルを画面の隅へとデリートした。

「既存の教科書通りの正解を出すだけのクイズ王には、この『信用創造の暴走』は制御できない。彼らは数字という名の『静止画』しか見ていないから。でも、当時の日本人たちは『明日という名の高解像度な動画』を、全盛期の精度で信じ切っていたのよ」

 

「それが、信用創造の真の姿か」

 万桜(マオウ)は、膨張圧エンジンのピストン運動と、経済の脈動を脳内で同期させた。

「一円の価値を、人間の情熱が1700倍に膨らませる。それがモーレツな時代のインフレの正体……。物理法則で言えば、断熱圧縮された『夢』が、市場というシリンダーを一気に押し広げたってわけか」

 

「その通りです、万桜(マオウ)くん」

 舞桜(マオ)が扇子で自身の唇を隠しながら、艶やかに微笑んだ。

「莫大な税金が国庫に回収されることは、その『熱量』を冷却し、社会のOSからエネルギーを奪い去ることに他ならないわ。クイズ王たちが正解を出し続けるたびに、この国の全盛期の温度は下がっていくのよ」

 

「だからこそ! わっぜ、エモい支出が必要なのでごわす!」

 鉄厳(イワオ)が再び、伝票の束を高く掲げた。

「数字の帳尻を合わせるだけの経理は、未来へのパケットロスでごわす! この『膨張圧エンジン』が生み出す富を、次なる『夢』へと相転移させる……。それこそが、薩摩の武士道に根ざした、真の信用創造にごわす!」

 

「……。九条くん、熱い。でも、ハンコは押してあげる」

 香織(カオリ)は、一切のギャル語を封印したまま、鉄厳(イワオ)が書き上げた「文学的解釈による特別投資枠」の書類に、全盛期の精度で承認の電子署名をデプロイした。

 

「なるほどな。インフレは、みんなが『アホの子』になって、未来に夢中になった証拠か」

 万桜(マオウ)は、ようやく「情報の巡り」の真実を掴み、不敵に笑った。



『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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