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黒き魔王と亀ゼリー

前書き

 本郷の古い土壁に囲まれた聖域で、国家のコアユニットと裏社会の最適化担当、そして物理学の魔王が交差する。

 世界を揺るがすシステムエラーの影で、一人の美青年という名の「高解像度なバグ」が、歴史という名の既存OSをリライトしようとしていた。

 九条鉄厳。線の細い美貌に薩摩の火山の如き熱量を秘めた彼は、文学と経済学を全盛期の精度で同期(シンクロ)させ、ハル・ノートを「事業再生計画案」として再定義する。

 だが、その純粋すぎる情熱は、周囲に嫉妬という名のノイズを撒き散らし、経理の天才・杉野香織の演算回路を「脳がバグる!」と叫ぶほどのオーバーフローに追い込んでいく。

 物理法則の勝利を信じる万桜が、情報の滞留を解消するためにデプロイしたのは、精巧なアンドロイドと、禁断の「特製亀ゼリー」が飛び交う奇妙な古民家カフェだった。

 知性と耽美、そして飲茶の湯気が溶け合う中でレンダリングされる、本郷大学「学徒の領分」の全盛期リフォーム。

 情報のパケットロスを許さない、魔王たちの構造解析が今、ここから始まる。

 2020年3月中旬。東京都文京区本郷。

 春の微かな気配が漂う古い土壁の向こう側で、世界の裏表を繋ぐ特異なネットワークが、全盛期の密度でパッチ当てされていた。

 柳さんが秘密裏な接触に愛用する古民家。その使い込まれた畳の上で、万桜(マオウ)は、東京ラボの柳さんや、祭谷(マツリヤ)一家元締め三代目こと番長と向かい合っていた。

 

 そこには、極悪道会系グループ総帥、回向院(エコウイン)組長という名の「闇の最適化担当」も鎮座している。

 周囲を固めるのは、強面の極道さんたちではない。

 この国最大の脳筋組織、陸上自衛隊の精鋭部隊。そして彼らを統率する佐々(サッサ)陸将と、最高司令官である総理大臣という、国家OSのコアユニットたちだ。

 

「まあ、ウチの曾祖父ちゃんだ。そんなに固くなってねえな、黒幕(フィクサー)

 番長は、歴史的な重圧を物理法則のごとく聞き流す万桜(マオウ)の通常運転ぶりに、呆れたような溜息を吐いた。

「まあ、押さえてましたけどね」

 佐々(サッサ)陸将は、柳さんに鋭いジト目を貼り付けた。

 柳さんはその視線から逃れるように、全盛期の速度でそっぽを向いた。

 

「はじめまして、番長の曾祖父ちゃん。私は黒木万桜(マオウ)。番長とは高校の同級生で、今は……」

 万桜(マオウ)は、自身の社会的な座標をレンダリングしようとして、一瞬だけ指先を止めた。

「あれ、なあ番長。俺ってセイタンシステムズのポジションってどのへん? CEOは舞桜(マオ)じゃん」

 結局、肩書きという名のノイズは判別不能だったため、万桜(マオウ)は判断を番長に丸投げした。

 

「曾祖父ちゃん、こいつは黒木万桜(マオウ)。通称、黒き魔王だ」

 番長は苦笑しながら、回向院(エコウイン)組長へと万桜(マオウ)を紹介した。

「そこに総理大臣がいるからわかるだろうが、世界一のアホだ。悪いヤツじゃねえ」

 番長は、万桜(マオウ)の規格外な知性を「アホ」という名の親愛パッチで包み隠す。

「まあ友達の誼で、暴走しねえように俺たちがメンドー見てるんだわ」

 

「番長、いつもすまないねえ」

 万桜(マオウ)は、芝居がかった仕草でオヨヨと目元を拭うフリをした。

「公僕殿。善きに計らえ」

 そして、メンドーな状況説明の一切を、総理大臣という名の「公的な出力デバイス」に、全盛期の無造作さでデプロイした。

 

回向院(エコウイン)さん。黒木(クロキ)くんの言う『岡っ引き』の構想、我々も極めて合理的だと判断しているよ」

 総理大臣は、国家の安寧という名のパッチを当てるべく、回向院(エコウイン)組長へと静かに語りかけた。

「公僕だけではデバッグしきれない社会のノイズを、君たちの規律でフィルタリングしてほしいんだわ」

 

「……なるほど。国家が、ワシらに『デバッグの代行』を外注するっちゅうわけですな」

 回向院(エコウイン)組長は、深く刻まれた眉間のシワを揺らし、不敵な笑みを浮かべた。

黒木(クロキ)さん。アンタの描く新時代の箱庭、ワシらも一丁、全盛期の端くれとして担がせてもらいましょう」

 

「話が早くて助かるわ、番長の曾祖父ちゃん」

 万桜(マオウ)は、ジト目のままフューチャーフォンを取り出し、アイマカの制御プロトコルをマフィアのネットワークへ同期させる準備を開始した。

「これで、キューティー・リーグの聖域に粘着質なバグが入り込む余地はねえ。物理的な距離と闇の規律で、全盛期の魔法を維持するんだわ」

 

 古民家の静寂の中で、国家と裏社会、そして物理学という名の魔王が、全盛期の速度で溶け合っていく。

 世界が未知のウイルスという名のシステムエラーに怯える中、本郷の片隅では、日本の「全盛期リフォーム」が着実にデプロイされていた。


★ ◆ ★ ◆ ★


(ユイ)。このお嬢さんだが、よくねえ害虫(ムシ)がついてるみてえだ。どうする、わしらの筋で除くか?」

 回向院(エコウイン)組長が、漆塗りのテーブルに一枚の写真を滑らせた。曾孫である番長へ向けたその視線には、闇を統べる首領(ドン)としての冷徹な眼光が宿っている。

 

「女の名前で呼ぶな!」

 番長の怒声が古民家に響く。もはや様式美と化したやり取りだが、写真に写る娘、杉野香織の父親である佐々(サッサ)陸将の表情は、全盛期の硬度で強張っていた。

 

回向院(エコウイン)さん。あなたたちの役割は、高性能な目であり耳です。超法規的なパッチ当ては、システムの崩壊を招く」

 佐々(サッサ)陸将は、公僕としての理性を繋ぎ止め、必死に踏み留まる。

「大丈夫、この国の警察力も司法も無能じゃありません。法という名の既存OSで、十分にデバッグは可能です。大丈夫……」

 

 だが、その防衛ラインを、全盛期の無遠慮さが軽々と突破した。

「その話、詳しく!」

 香織の婚約者である佐伯が、身を乗り出して食らいつく。愛する者を脅かすノイズを、一刻も早くデリートしたいというバイタルの叫びだ。

 

「俺も聞きたい」

 万桜(マオウ)は、ジト目のまま、情報の滞留を許さない魔王のトーンで短く告げた。

 万桜(マオウ)は踏み留まることを知らない。

 

「物理的に距離を置いて監視するだけじゃ、バグの根本治療にはならねえだろ。その『害虫(ムシ)』とやらが、どの程度の脆弱性を突いてるのか、全盛期の精度でレンダリングさせろよ」

 万桜(マオウ)の指先が、空中に見えない幾何学模様を描き出す。

 

「キューブの角と、面の中央に深度カメラを設置する。床には重量センサー、面には高性能集音マイクを複数設置する。サーモグラフィーもいるな」

 万桜(マオウ)は、物理的に障害を検知する仕組みを、全盛期の速度で組み立てていく。

 それは、既存の警備という名の脆弱なパッチをデリートし、空間そのものを情報の檻へとレンダリングする作業であった。

 

「集音マイクの情報、重量の情報、多角的な深度カメラからの空間把握。人工知能がこれらの情報のパターンを学習した時、不審者の挙動はデータ的に可視化される」

 万桜(マオウ)の指先が、空間に仮想の座標軸をデプロイしていく。

 心音、呼吸、体温、空間把握情報。

 これらの多次元的な目を通して、人工知能システム魔王(セイタン)が分析すれば、不審者の情報は即座に検知可能だ。

 

 情報の滞留を許さない魔王の論理。

 不審者の挙動は、直ちに護衛役である拓矢や一に連携される。

 そして、護衛対象である香織にも、リアルタイムで全盛期の精度を持って共有されるのだ。

 

「これは、安価な警察戦だ。ドローンに深度カメラやサーモグラフィーを仕込んで、護衛対象をキューブで囲えばいいだけだわ」

 万桜(マオウ)は、ジト目のまま、物理法則の勝利を確信するように告げた。

 高性能なセンサー群による不可視の障壁。

 それは、害虫(ムシ)が羽ばたく羽音さえも、システムエラーとして即座にデバッグする、全盛期の防衛プロトコルであった。

 

「なにを企んでいるか、なにを隠し持っているか。そんなノイズ、魔王(セイタン)の演算の前ではパケットロスと同じだわ」

 万桜(マオウ)は、フューチャーフォンを閉じ、本郷の夜の闇をスキャンするように見据えた。

 魔法の消えた世界で、万桜(マオウ)は物理的な数値という名の新たな呪文をパッチ当てし、香織の周囲に絶対的な聖域をレンダリングし続けていた。


「でも重量センサーはどうするんだよ魔王さま?」

 佐伯一からの真っ当な指摘に、万桜(マオウ)はジト目を貼り付けた。

 万桜(マオウ)は、思考のパケットを番長へと全盛期の速度で転送した。

「番長、祭谷一家のネットワークを使って、全盛期の高精度ロードセルをサルベージしろ。厚さ数ミリのシート状センサーなら、カーペットの下にデプロイするだけで、不審者の重心移動までレンダリングできるだろ」

 万桜(マオウ)の指先が、空間に不可視の階層を構築していく。

「歩幅、接地圧、そして心拍に連動した微細な振動。それらすべてを重量という名の物理量でキャプチャするんだわ」

「……へっ、人使いが荒いぜ、黒幕(フィクサー)。だが、テキ屋の仕入れルートを舐めてもらっちゃ困る。夜明けまでには、本郷の路地裏をまるごと計測器に変えるパッチを用意してやるよ」

 番長は、リーゼントを揺らしながら不敵に笑った。

 

 万桜(マオウ)の脳内では、すでに不審者のバイタルが波形として可視化されている。

「重量という名の重力子をハックすれば、光学的な迷彩なんてただのノイズだわ。魔王セイタンの演算からは、一ミリのパケットロスも許さねえ」

 万桜(マオウ)は、冷徹なジト目で漆黒の夜の座標を射貫いた。


「高精度ロードセルってあるの?」

 佐伯一のその問いは、全盛期のエンジニアリングに対する真っ当な疑問だわ。

 

「あるに決まってるだろ。世界を再起動させるためのパーツが、既存のカタログスペックに縛られてるわけねえんだわ」

 万桜(マオウ)はジト目を貼り付けたまま、空中に仮想のスペックシートをレンダリングした。

 

「今の主流は、ひずみゲージ式だ。金属の弾性体に微細な抵抗体を貼り付けて、荷重による歪みを電気信号に変換する。精度は±0.1%を下回るものもザラにある」

 万桜(マオウ)の指先が、不可視のセンサー構造をなぞる。

「問題は形状だわ。佐伯くん、おまえが想像してるのは、台はかりの下にあるゴツい鉄の塊だろ? だが、番長に探させてるのは『超薄型』の圧縮ロードセルだ」

 

「超薄型……?」

「ああ。直径10ミリ、高さ2ミリ程度のボタン型や、シート状の感圧センサだ。これならカーペットのパイルの隙間や、フローリングのジョイントにパッチ当てするだけで、空間全体の重量分布をスキャンできる」

 

 万桜(マオウ)は、自身のフューチャーフォンに魔王セイタンからの解析データを同期させた。

「高精度ロードセルを複数、行列マトリックス状に配置すれば、不審者が『どこに足を置いたか』だけじゃなく、『どっちに重心を傾けているか』まで、全盛期の解像度で可視化されるんだわ」

 

「……それ、もはや地面が意思を持ってるようなもんじゃん」

 佐伯が戦慄する横で、万桜(マオウ)は淡々と続けた。

「物理法則の勝利だわ。目に見えるカメラの死角を突こうとしても、重力という名の絶対的なパケットからは逃げられねえ」

 

 万桜(マオウ)の脳内では、本郷の古民家周辺の地面が、すでに巨大なデジタル天秤へとリフォームされていた。

「番長、高精度のロードセルと、それを束ねる高速サンプリングのA/Dコンバータを至急デプロイしろ。情報の滞留を許さず、一ミリの接地圧の変化も魔王(セイタン)に食わせるんだわ」

 

 不審者が香織に近づく一歩一歩が、そのまま自身の破滅を告げるカウントダウンになる。

 万桜(マオウ)は、冷徹なジト目で夜の座標を固定し、物理的なトラップという名の全盛期の魔法を完成させていった。


「じゃあ、それをドローンがワイヤーで引けば、敷き詰める必要なくない? あるいは自走式にするとか」

 佐伯一の全盛期のひらめきに、万桜(マオウ)はジト目のまま、情報の最適化レイヤーを一段階引き上げた。

 

「悪くねえ。固定式のインフラに拘る必要はねえんだわ。むしろ、動的なパッチ当ての方が、不審者の予測アルゴリズムを全盛期の精度で攪乱できる」

 万桜(マオウ)は、指先で空中に立方体(キューブ)の軌道をレンダリングした。

 

「四台のドローンで高精度ロードセルを内蔵した『感圧網(センサーネット)』を牽引する。ターゲットの足元を常にキューブの底面として追従させれば、設置コストは最小限で済む」

 万桜(マオウ)の演算は、物理法則の勝利に向けてマッハの速度で加速する。

 

「自走式にするなら、|マイクロロボットの群れ《スウォーム》だ。薄型ロードセルを背負った円盤状のユニットが、不審者の着地点に先回りして、全盛期の速度で潜り込む」

 万桜(マオウ)は、フューチャーフォンの画面に、路地裏を埋め尽くす銀色の小さな影を投影した。

 

番長(バンチョー)。おまえのところのテキ屋衆に、この自走ユニットの『露店デプロイ』を任せる。台車の車輪のフリをして、路地全体の重量パケットを回収してくれ」

 万桜(マオウ)の指示に、番長(バンチョー)はリーゼントを揺らしてニヤリと笑った。

「あいよ! 黒幕(フィクサー)。目に見えねえ『地雷原』を、全盛期の機動力で敷き詰めてやるよ」

 

「物理的な接触を感知した瞬間、ドローンのサーモグラフィーが連動して、ターゲットの心拍数をレンダリングする。逃げ場はねえ」

 万桜(マオウ)は、冷徹なジト目を夜の帳へと向けた。

 

★ ◆ ★ ◆ ★


「く、黒木くん。これの固定版を空港や重要施設に設置できないだろうか?」

 それまで黙っていた総理大臣が、この装置の可能性に気づいて全盛期の勢いで問い掛けた。

「できるぜ? 薬物の匂い、心拍数、接触による汗などの分泌物の検査、複合的な情報収集をすれば精度は飛躍的に跳ね上がる」

 万桜(マオウ)は、国家のOSをリフォームする新しいパッチをレンダリングし始めた。

 

「まず、ゲートの床面に高精度のロードセルをグリッド状にデプロイする。歩幅や重心移動の微細なブレを解析して、不審者特有の『迷い』を物理量として可視化するんだわ」

 万桜(マオウ)の指先が、空間に不可視の検問所を組み立てていく。

 

「さらに、ミリ波レーダーによる非接触スキャンを同期させる。衣服を透過して、対象者の呼吸数や心拍のゆらぎをリアルタイムでキャプチャする。緊張という名のシステムエラーを隠すことは不可能だわ」

 万桜(マオウ)は、ジト目のまま情報の解像度をマッハの速度で引き上げた。

 

「匂いについては、MOS型と呼ばれる人工嗅覚センサーを配置する。特定の化学物質をパケット単位で検知して、薬物や爆発物の分子を全盛期の精度で特定するんだわ」

 万桜(マオウ)の演算は、物理法則の勝利を確信するように加速する。

 

「極めつけは、空間全体のサーモグラフィーによる皮膚温度スキャンだ。顔の血流変化から、隠された動揺という名のノイズをレンダリングする。人工知能システム魔王(セイタン)がこれらを統合すれば、一〇〇万人の中からたった一人のバグを抽出できる」

 総理大臣は、あまりの圧倒的な情報の厚みに、全盛期の溜息を吐いた。

 

「……これがあれば、この国は世界で最も安全な『箱庭』になる。黒木くん、君の頭脳はもはや、一つの国家戦略そのものだ」

 総理大臣の称賛を、万桜(マオウ)は無造作なジト目で受け流した。

 

★ ◆ ★ ◆ ★


「拓矢かどうした?」

 万桜(マオウ)はフューチャーフォン越しに拓矢に尋ねた。

『なあ、万桜(マオウ)……杉野の護衛っているか?』

 拓矢は、現場の惨状をリアルタイムで共有する。厳つい顔をした反社勢力的な青年たちが、経理の天才、杉野香織のデコピン一発で沈められていく理不尽。その光景が小さなモニターに映し出されていた。

「ああ、デコピン妙に上手いヤツっているよねー」

 万桜(マオウ)は乾いた苦笑を吐息に捨て、倒れている青年たちの容姿をモニターに連携した。

極悪道グループ(ウチ)の、末端ですな……兵隊さん、総理……これはわしらの領分ですわ」

 回向院(エコウイン)組長の雰囲気が極道さんの凄味(それ)に変わる。佐々陸将と総理は互いに向き合い吐息する。

 ふたりが採用できる選択肢は、聞こえない(スルー)。それだけだ。黙認、それではない。

「さっきの害虫(ムシ)が関係してるのか?」

 万桜(マオウ)は、凄味を往なして問い質す。

「いい学生さんですわ。調べれば(洗えば)調べるほど(洗うほど)ね」

 回向院(エコウイン)組長は、吐息しながら写真をテーブルに滑らせた。

 線の細い美青年。野生児の万桜(マオウ)とは対極だ。

「モテそうじゃねえか? なんで杉野に執着する?」

 美青年である彼は、女性に不自由しないだろう。それはわかる。杉野香織は、いわゆるギャルだ。風呂好きのギャル。軽薄を装う経理の麒麟児、経済陰陽師。

「金か?」

 セイタンシステムズの社員である香織は、確かに潤沢な資産がある。資産(それ)が狙いであれば、もう解決したも同義だ。が、

『おい、杉野ッ! おまえ?』

 拓矢の声に、万桜(マオウ)はモニターに目を向けた。

『放して! 斧乃木先輩! ウチ、こいつウザくて嫌い!』

 くだんの美青年、九条鉄厳(イワオ)。東京本郷大学、経済学部1回生。モニター越しでも、その線の細さと、同時に内側から放たれる薩摩の火山のような熱量が全盛期の精度でレンダリングされている。

「杉野。ステイ……拓矢、善きに計らえ」

 万桜(マオウ)はなにかを察した。モニターの音声パッチが拾うのは、九条が撒き散らす文学的、かつ経済学的な高解像度の絶叫だ。

「……杉野さん! おはんの計算する清算価値は、芥川が河童の国で認めた絶望的な資本効率と同期しちょる! ハル・ノートは最後通牒じゃなか! 満州という名の放漫経営をデッド・エクイティ・スワップするための、全盛期の経営再建計画の打診やったんじゃっど!」

 万桜(マオウ)の脳内にある魔王(セイタン)が、その薩摩弁を瞬時に構造解析する。

「なるほどな。こいつ、歴史という名の既存OSを、ファンド的な視点でリライトしようとしてやがる。プロレタリア文学の誇張を排して、資本の論理という名の物理法則でハル・ノートを再定義したいわけだわ……そりゃ杉野しか、このパケットは受け取れねえや。他の女学生の嫉妬を買ったのね……」

 万桜(マオウ)は乾いた笑いを浮かべて吐息した。

 九条鉄厳(イワオ)という名の「美形という名の強力なコンテンツ」が、自分たちをスルーして香織という名の「異質の経理天才」に同期しようとしている。その情報の滞留が、嫉妬という名のノイズとなって暴漢を呼び込んだのだ。

「あー、その黒木さん……極悪道グループ(ウチ)も、その……」

 回向院(エコウイン)組長が言葉を濁す。縛りが多過ぎて、資金繰りが苦しいのが、彼らだ。結果として特殊詐欺や闇バイトへと流れているのが現状だ。これはイタリアの構造に近いと万桜(マオウ)は、瞬時に構造解析する。

 

 市場からの締付け、それがマフィアの地下化、凶悪化、高度化を呼んでいる。高精度ロードセルで足取りを追うべきは、彼らのような「システムのバグ」ではなく、彼らを追い詰めて進化させている「構造的な脆弱性」の方だ。

 彼らは締付け、迫害するほど、情報の死角で全盛期の進化を遂げる。

 万桜(マオウ)は、総理大臣にジト目を貼り付ける。

「公僕殿、市場の圧力という名のパッチが強すぎて、ボトムアップのパケットが全部『闇』に変換されてるんだわ。善きに計らえって意味、わかるよな?」

「善処します」

 総理の回答に、

「そう願いますよ。公僕殿」

 万桜(マオウ)は、乾いた返答を空中に捨てた。

「ああ、オッサンたちは解散で。こっからは学徒の領分なんで。興味があるなら残っていいですよ」

 要件を済ませた万桜(マオウ)は、この場を締め括った。

 モニターの中では、九条鉄厳(イワオ)がまだ「文学的再建計画」を全盛期の熱量で吼えている。

「九条鉄厳(イワオ)……おまえの名前の画数負けしないくらいのロジック、俺の魔王(セイタン)で全盛期の精度までデバッグしてやるよ」

 万桜(マオウ)は、不敵に口角を上げた。


★ ◆ ★ ◆ ★


「柳さん。ここ使っていい? え、飲茶ご馳走してくれるの? 悪いねえ、催促したみたいで」

 万桜(マオウ)のあからさまな催促に、柳さんは全盛期の苦笑いを浮かべたが、この青年たちの「知性という名の食欲」は嫌いじゃない。料理の専門家、祭谷(マツリヤ)(ユイ)は、柳さんが運び込んだ蒸籠から漏れる全盛期の蒸気に目を輝かせ、古民家の厨房へと手招きした。

 

「露骨な催促だな」

 合流した東京本郷大学2回生、白井勇希が、婚約者(フィアンセ)である万桜(マオウ)に、情報の滞留を許さない精度のジト目を貼り付ける。

「露骨な催促ね」

 同じく合流した甲斐の国大学2回生、セイタンシステムズCEO・茅野(チノ)舞桜(マオ)は、ジト目すらリソースの無駄だと言わんばかりに、涼しい顔で婚約者(フィアンセ)万桜(マオウ)の暴挙を受け流した。

 

「はあー。美青年じゃん。あんたモテるでしょ?」

 天才ハッカー・サブリナこと福元莉那は、九条鉄厳(イワオ)という名の「高解像度アセット」を様々な角度から撮影し、魔王(セイタン)のサーバーに「薄い本」の素材としてデプロイし始めた。

 

「……。九条鉄厳(イワオ)だったな。俺は黒木万桜(マオウ)。甲斐の国大学2回生だ……。杉野は今、おまえの放った方言という名の『ノイズ』をデバッグ中だわ。代わりに俺が、その文学的経済理論、全盛期の精度で検分してやるよ」

 万桜(マオウ)は、柳さんが並べた海老蒸し餃子(ハーガウ)を口に放り込み、熱い肉汁という名の「物理的な正解」に目を細めた。

 

「……黒木、先輩。おはんに……おはんに、この『鉄厳(イワオ)』の求道が分かっとですか?」

 九条鉄厳(イワオ)は、線の細い美貌を紅潮させ、小刻みに震えながらも、全盛期の薩摩の熱量で言葉を射出した。

「ハル・ノートは、最後通牒という名の『廃業届』じゃなか……不採算部門である満州を切り離し、アメリカという名の巨大ファンドから国際資本を注入させるための、全盛期の『事業再生計画案』だった……芥川が河童の国で見たのは、資本が魂を喰らう構造じゃなか、構造を維持できん知性の敗北じゃっど!」

 

「……。面白いじゃねえか、九条。おまえ、直木三十五の『無声映画』みたいな表面的な歴史観をデリートして、吉川英治が武蔵を通じて提示した『求道』という名の実装知性に、経済学というパッチを当てたわけだ」

 万桜(マオウ)は、翡翠色のシュウマイを箸で割り、その断面を冷徹にスキャンしながら言葉を繋ぐ。

「当時の日本は、満州というアセットに固執しすぎて、ポートフォリオの最適化という名の『物理的な正解』を見失った。……。ハル・ノートを受け入れることは、100%減資という名の屈辱じゃねえ。……。共産勢力という名の『反社会的勢力』に市場を乗っ取られないための、守備固め(ホワイトナイト)の打診だった、ってわけだな」

 

「その通りじゃっど! 当時の日本は、ウォール街という名のカードゲームのルールを、情緒という名のノイズで書き換えてしもた……!」

 鉄厳(イワオ)が、熱い鉄観音茶を喉に流し込み、全盛期の音圧で吼える。

 

「……脳がバグる。……万桜(マオウ)、九条くん。飲茶の蒸気でレンズが曇る前に、そのハル・ノートをB/S(貸借対照表)で再定義する不条理な遊び、全盛期の速度で終了させてくれない?」

 白井勇希が、杏仁豆腐の甘みに逃げ場を求めながら、呆れたようなパケットを投げた。

 

「いいじゃねえか。……。九条鉄厳(イワオ)。おまえの名前の画数負けしないくらいのロジック、俺の魔王(セイタン)で全盛期の精度までデバッグしてやるよ」

 万桜(マオウ)は、小籠包を全盛期の瞬発力で掬い上げ、不敵に口角を上げた。


★ ◆ ★ ◆ ★


 柳さんの隠れ家古民家は、数日後、世にも奇妙な知性が交錯する「古民家カフェ」へとリニューアル・オープンを果たしていた。

 囲炉裏を囲む特等席に鎮座しているのは、精巧に造形された万桜(マオウ)型アンドロイドと、九条鉄厳(イワオ)だ。二人は今、吉川英治の文学が戦前と戦後でいかに変節したかという「構造解析」の激論を、全盛期の熱量でレンダリングしている。

「……九条、いいか。直木三十五が描いた武蔵は、観客を熱狂させるための『最強の駒』という名の、客観的な絵としての完結だわ。だが吉川英治は、そのアイコンを全盛期の精度で粉々に砕き、内面という名の泥臭い再構築(リビルド)を試みたんだ。……。それは、ウォール街という名のカードゲームのルールを無視した、当時の日本の脆弱性への、文学的パッチだったんだわ」

「黒木先輩……! おはんの言う通りじゃっど! 武蔵の求道は、まさに不良債権化した精神のデッド・エクイティ・スワップ! 全盛期の再生計画案そのものにごわす!」

 その光景を、息を呑んで見守る本郷の女学生たち。彼女たちの瞳には、知的な美青年たちが交わす高解像度のパケットが、最高に耽美な「同期(シンクロ)」として映っていた。

「た、尊い……! マスター! 特製亀ゼリーおかわり!」

「こっちも! 尊死する……! マスター、亀ゼリーおかわり!」

 特製亀ゼリー。それは柳さんと女学生たちにしか通じない、禁断の隠語だ。莉那(リナ)魔王(セイタン)の演算リソースをフル稼働させて作成した、万桜(マオウ)鉄厳(イワオ)をモチーフにした「発酵済み」の薄い本。それが、柳さんの給仕するお盆の上で、全盛期の速度でデプロイされていく。もちろん、万桜(マオウ)(の姿をしたアンドロイド)は、自分が情報の対価として「消費」されていることを知らない。

「なんだ、そんなに美味いのか? 特製亀ゼリー」

 万桜(マオウ)型アンドロイドは、不審そうに小首を傾げる。

「おいも頼んだけど、そんなに美味いもんじゃあなか。それより黒木先輩は、なんでなんも食べんね?」

 鉄厳(イワオ)もまた、自分の隣に座る先輩が、物理法則を超越した「霞を食う存在」だとは微塵も疑わず、小首を傾げた。柳さんのカムフラージュ技術は、魔王の演算すら欺くほどに全盛期の完璧さを誇っていた。

「まあ、カオリンの平和が担保されるんだから、善しとしてよね魔王さま」

 柳さんがカウンターの奥で、ポツリとこぼした一言。

「ん? なんの話だよ?」

 万桜(マオウ)型アンドロイドは、光学的センサーを柳さんへと向けたが、即座に情報の優先順位を書き換えた。

「あー、あれだよ九条。俺は霞を食ってるから、いいんだよ。おまえは食え。柳さんの飲茶だ、俺が奢っちゃる」

 九条の疑問を有耶無耶に往なし、万桜(マオウ)型アンドロイドは再び吉川文学の構造解析へとダイブする。

 古民家の外では、香織が平和な本郷の空気を吸いながら、「最近、九条絡みのノイズが消えて清々しいわ!」と全盛期の笑顔で計算機を叩いていた。


『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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