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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
3/78

決別

家から片道20分ほどのところに湧き水が出ている水汲み場がある。

天秤棒の両端にそれぞれ水汲み桶を下げ、毎朝夜明け前から3往復分水を汲むのが俺の日課だった。

今朝も3往復分汲んできたのだが、魔獣の解体をした日は水の消費が早い。


俺は水汲み桶と天秤棒、斧を収納にしまい、大きくなったリンにまたがった。

「リン、山をちょっと登るんだけど、行ける?」

「うん!いくよ~」


木々の合間を走り抜けるリン。

リンの背中で感じる風はやっぱり気持ちいいな。

もっと乗っていたいと思うほどあっという間に水汲み場に到着する。


ここの水は町の人もはるばる汲みに来ることもあるほどうまい。

底辺の生活を送る者はよく「泥水をすすって生きてきた」という言葉を使うことがあるが、俺は水だけには恵まれていた。町の人たちよりもうまい水を飲んでいたのだから。


毎朝湧き水があふれ出る水汲み場の下流で顔や体を洗い、洗濯もしていた。

この水のおかげで、服はボロボロだが不潔ではなかった。

まあ、真冬はかなり厳しかったが。


透き通った水を手ですくい、口に含む。うん、やっぱりうまい。

リンも大きな体で湧き水を飲んでいた。

しっぽをぶんぶん振っている。うまいんだな。


二つの桶に水を汲み、収納にしまうと、あっという間に水汲み終了。

「さ!次は薪拾いだ!」


背負子いっぱい拾い、それを2往復繰り返す。

それが町から帰った後のいつもの俺の仕事だ。

落ちている枯れ木だけではなく、斧で枝を打ち落とし50cmほどの長さに揃えていくのだ。地味に時間がかかり、いつもは日が暮れるまで作業していた。


収納から取り出した斧を握ると、手からじんわりと力が放たれるのを感じる。

「わぁぁ、カイトのまりょくがあふれてるね~」

リンが嬉しそうに跳ねた。


そうか、刀剣の魔力は斧でも通用するのか。

かっこよさでは剣に負けるが、役に立ちそうだ。


試しに太めの枝に斧を振るってみる。

いつもなら数回打ち下ろさないと落とせない太さだ。

軽い力で振り下ろすと、スパンっとこぎみよい音がして一瞬で枝が落ちた。

すごい。これは便利だ。

更に斧を振るい、50cm幅に揃えてみる。スパーン!!気持ちいい!!


冒険者になって魔獣を狩り、生計を立てようと思っていたが、木こりにもなれるんじゃないだろうか。

いや、やっぱり冒険者のほうが楽しそうだ。


「ボクも!ボクも!」

リンの白い毛がふわっと浮き上がり、次の瞬間ひゅんっ!と風が吹き抜けた。

スパン!スパン!スパン!スパン!

たくさんの枝が打ち落されていく。


「ストップ!ストップ!リン、やりすぎ~」

「えー?もういいの?まだできるよ~」

そりゃそうだろうな。一瞬だもんな。


「こんなにたくさん、乾燥させるのも大変なんだよ」

「かんそうさせればいいの?ボク、できる!」

そう言って今度は暖かい風を巻き起こす。

風が通り過ぎた後、切ったばかりの木はもう乾燥していた。リン、万能。


「じゃあこの木をこのくらいの長さに切ってくれる?」

リンに頼むと得意げに風を起こし、切っていく。は、はやい……。


出来上がった薪を、俺はどんどん拾って収納にしまった。

背負子10杯分くらいはできたんじゃないだろうか。

2杯分はあいつらのところに残し、あとは持っていこう。


「リンってどんな魔法が使えるの?」

今頃になって気になり、リンに聞いてみる。


「ボクはねぇ、かぜ!それとわるいちからをけせるよ。それとね、それとね、みえる!」

「視える?ああ、鑑定の能力か。俺の魔力も見抜いてたもんな」

「うん、だれにどんなちからがあるかもみえるけど、とおくにいるなにかもみえるよ」

「それって遠くの方にいる魔獣が分かったりするの?」

「うん!だからね、たべたいまじゅうをみつけてそこにいくの!」


おお、それもすごいな。

狩人は一日中森をさまよっても獲物に出会えない日もある。

視る能力。誰もがうらやむ力だ。


30分もかからずに薪拾いも終了してしまった。

日没までまだまだ時間はある。


「よぉっし!じゃ、狩りに行くか!」

「わーい」

リンが大きな体ではねた。

「カイトはなんのまじゅうをたおしたい?」


え?それって選ぶの?ふつう。

「この辺りにはどんな魔獣がいるの?」

「いーっぱい!」

うん、ざっくりだな。


希少価値の高い珍しい魔獣も狩りたいが、珍しすぎると小さな町では買い取ってもらえないこともある。まずは安いが確実に売れるリトルボア狙いかな。

「わかったぁ!リトルボアとめずらしいまじゅうだね!」


ホントに分かってるのかなー。心配になっている俺を背に乗せ、リンが走り始めた。どんどん加速し、山を越えていく。

そうか、時速50kmくらいで走るリンにとっては半径20~30kmくらいは「この辺り」なんだろうな。って、おいおい、どこまで走るんだ?


ひと山超えたところでリンが急停止した。

「いたよ!」


視線の先にいたのは、20頭ほどのリトルボアの群れ。

いくら1頭が安いとはいえ、20頭狩ったら2000ギル、約20万円だ。

ってか、これ全部、狩れるのか?収納に入るのか?


「これぜんぶたおしたら、ホットドッグかえる?」

期待に満ちた目でリンが尋ねる。ホットドッグは一つ3ギルだ。


「買えるよ、いっぱい買える」

全部狩ったらホットドッグ600個以上買える、とは言わないでおこう。

ホットドッグ以外の物も食べさせたいしな!


リンの目がキラリと光った。

「ホットドッグがいーっぱい!!よし、いっくよー!!」

あのかわいいリンがホットドッグにつられて、大きな姿でリトルボアに突き進んでいく。なんか残念。


「俺もやるぞ!」

そう言って斧を手に取った俺に、リンが振り返った。

「そのおんぼろのおのじゃぁ、やめたほうがいいよ~」


リンの風魔法が空を切り、リトルボアの断末魔が響く。

パシュッ!パシュッ!ぶきぃぃぃ!!!


うん、瞬殺だな。

気づけば22頭のリトルボアの亡骸が転がっていた。


金を手に入れたら安くてもいいから剣を買おう。

せっかくの刀剣の魔力が全然役に立たなかった……。


ボアの心臓にナイフを入れ、一頭一頭血抜きをしていく。ボアは吊るさなくても血抜きができるので楽だ。そうして手早く処理をしたボアを次々と収納に入れた。


「じゃあつぎはめずらしいまじゅうだね。あっちだよー」

俺を背に乗せ、リンが再び走り出した。

おおーい!どこに行くんだ?


15分ほど走って急停止する。

「いた!」

目の前にいたのは……、え?シルバーに輝く大きなヘビ?体長5メートルはあるだろうか。初めて見たヘビだ。


「このヘビは売れるのかな?」

思わずこぼれた俺の言葉に、リンが首を傾げた。

「うれる?かどうかはわかんない~。でもうんっとね、かわはさいこうきゅうひん、だって」


最高級品か。よし!狩るぞ!

「おっけー!」


そしてヘビも瞬殺だった。リンの風魔法が舞い、シルバースネークは何が起こったかわからないうちに命を絶たれたことだろう。

「やったー!やっつけたよー!」

やっぱり、リン最強かも。


シルバースネークを収納に収めてみると、最初の時よりも収納力を感じることができた。これだけの獲物を収納しても、スペースが減った気がしない。

確かにかなりの容量があるようだ。


「じゃあ帰ろう!」

そう声をかけてリンの背中にまたがる。

帰路につきながら、俺の心は決まっていた。


今夜、あの家を出よう。

リンと二人で。



陽が沈むころ、家に戻った。

小屋にリンを入れ、裏口に薪を置き、汲んできた水を水がめに入れる。


奥の部屋は静かで、時折寝息が聞こえている。

二人とも酔っぱらって寝たらしい。


彼らが起きてくると面倒なので、静かにかつ手早くシチューを作る。

野菜とディア肉を手ごろな大きさに切り、かまどに薪をくべ、肉の油でいためてトマトを入れて煮込む。30分ほど煮込んだら完成だ。あとはほっておいても余熱でさらに柔らかくなるだろう。うまそうなシチューができたが、俺はこれには手を付けない。代わりに一つかみの塩を竹の皮に包み、火打石と一緒に収納に入れた。


いつもはこの後、薪を割るのが俺の仕事だが、今日の仕事はもう終わりだ。

いや、今日の仕事、ではないな。

俺がこの家でやる仕事はもうこれで終わりだ。



小屋に戻って扉を開けた。

「リン、肉を焼いて食おうぜ!」

「にく~!にくをやくの?」

「おお!焼き肉だ!生肉よりうまいぞ」

「たべる~」


「水場のほうがいいな。暗いけどリン、走れる?」

「まかせて!」


リンにまたがり満月に照らされた山道を走る。

初夏のこの時期、日中でも暑すぎず、夜でも冷えることはない。

あの家と決別するのに最高の季節ではないだろうか。


水汲み場につくと、月明かりを頼りにリトルボアを解体していく。

骨もスープにできるから捨てずにとっておこう。

今はまだ鍋も何も持っていないけどな。


それから薪を組み、火打石で火をつけた。

削った木の枝に肉を刺し、塩を振って焚火であぶる。

脂がじゅうじゅうと焼けて滴り落ち、香ばしい匂いがたまらない。

めちゃくちゃうまそうだ!


「まだ?まだ?」

しっぽをパタパタとさせてすり寄ってくるリン。よだれが垂れてるぞ。


「よし、焼けた!熱いから気を付けて」

葉っぱの上に焼けた肉を乗せ、危なくないよう木の枝をはずしてやると、リンは熱さをものともせずにかぶりついた。

俺も食うぞぉ!


我慢できず木にさしたままの肉に俺も食らいつく。

焦げた表面は香ばしく、脂がほどよくのっていて最高にうまい!

やべぇぇ……。


「おいしいね、カイト。なまにくよりずっとずっとおいしい!」

いや、さすがの俺でも生肉は食ったことがないからわからんぞ。


「たくさんあるからゆっくり食えよ」

そうは言ったものの、リンが本当にゆっくりと食べるわけもなく、次から次へと焼いた肉を平らげていった。もちろん俺も負けずに食べたのだが。


「もうおなかいっぱい~」

かなりの量の肉を食べた後、ゴロンと大きな体を横たえたリン。

その上にかぶさるように、俺も横になった。

モフモフの温かい体に包まれて、俺のまぶたが下がっていく。


今日初めて会ったばかりのリン。

俺の相棒、俺の家族。


焼きたての肉を腹いっぱい食べるのはこんなにも幸せなことだったのか。

誰かと一緒に食べるメシはこんなにもおいしかったのか。


今日一日でリンは俺にたくさんのことを教えてくれたな。

ありがと。これからもよろしく。

そうつぶやきながら俺は眠りに落ちた。おやすみ。



翌朝、まだ暗いうちに俺は起きだす。

「リン、リン、起きて。今日は町へ行くよ」

「うーん、ここどこ?」

寝ぼけたリンがゆっくりと起き上がる。


湧き水を飲み、下流の水で顔と体を洗って準備完了。

「リンもお水飲んでね」


湧き水をちろちろと飲んだ後もぼーっとしているリン。

「リン、まだ眠いならちっちゃくなりな。抱いてあげるから」

「うん……、だいじょうぶ……」

そう言いながらも眠そうにフラフラしている。


「ほら、おいで」

そう言って手を広げると、リンはすっと小さくなり俺の胸に飛び込んできた。


リンを胸に抱いて、あの家に歩いて戻る。

土間からそっと入ると、二人は一度夜中に起きたのか、ディアのシチューを食べた形跡があった。

今はまた、奥の部屋で寝ているようだ。


俺は、ナイフと斧、火打石を取り出し、カバンと一緒にテーブルの上に置いた。

養父母の物はどんなボロボロの物でも持ってはいかない。

それが俺のささやかな意地だ。


これで俺の持ち物は本当に何もない。

リンが狩った獲物以外は、笑ってしまうほど空っぽだ。


だけど俺にはリンがいる。

そして自由がある。

今日は俺にとって人生最高の一日になるだろう。

あ、いや、リンと出会った昨日が最高の一日か?


フフッと笑い、家を出て、そっとドアを閉めた。


そのまま数歩離れて振り返ると、12年間暮らした家と小屋が、夜明け前の薄明かりに浮かび上がっている。幸せな記憶など一つもない家。

この家から俺は解放される。終わりの日であり、始まりの日でもある。


すがすがしい。


空が朝焼けに染まり始めた。紫からオレンジに変わるグラデーションがきれいだ。

リンの足で町まで駆けたら、朝早すぎてどの店も開いていない。

だったら自分の足で歩いていこう。

俺の胸で眠る真っ白なリンを撫でて、通いなれた道を俺は歩き始めた。

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