ラクマカにて、初めて退治依頼を完了する
終わった。
その感じで、脱力感に襲われた。
筋肉や筋の痛みは言うまでもなく、疲労も凄いが、肋骨の下あたりがズキズキ痛む。
噛まれた覚えはないが、神経のリミッターを解除して全力で武器を振り回していたので、筋でも傷めたか?
とにかく、ここはまだ荒野の真っ只中。
ここから街まで安全に撤収して、報告を終えて報酬を貰うまでが仕事だ。
縫い付けた骨片の上から何匹もの野犬に噛み付かれ、体重と筋力をかけて引っ張られたヘッドギアは、下地構成材料の草や蔓や蔦や紐が、緊密に編んであった筈なのに引き伸ばされて、ぼろっちくよれてしまっている。
要応急修理。
こんなこともあろうかと、念の為に上腕上部の隙間に巻いて縛ってあった鉢巻を解いて抜き出し、緩んだヘッドギアの上から巻き付けて縛っておく。
ただの紐や縄で締めつけてもいいが、一応こっちは硬革片がついている分だけ、緩んでできた隙間を減らせる、かもしれない。
骨鎧も、すぐに殺せなかった間ずっと噛み付かれて牙を押し込まれた硬革の外装に、ぽつぽつと犬の歯型の穴があいてしまっている。
下手すると骨片を縫い付けている糸が噛み切られているかもしれない。
あとで要確認だ。
たしか戦闘中に吹っ飛んでたと思うので、石斧頭を探すが、ざっと見廻して見当たらないので諦める。
「マサ」
「あぁ……」
声を掛けて、近寄る。
マサは左手の石斧を地面に突いて身を支え、片膝付いた上に右肘を置いて荒い息を調えようとしており、首を項垂れた様子はまだ少し苦しそうだったが、傍に寄ると顔を上げて右腕を上げてきたので、拳を軽く打合せ、前腕をちょっとタッチして、互いの右肘を引っ掛け合うとぐっと引き揚げてやり、ちゃんと立つのを手伝う。
マサの硬革鎧と硬革兜は、表面には傷がつけられているが、さすがに野犬の牙程度には基本的に負けない作りなので、ぼくが何か手伝ってやる必要はない。
「帰ろう」
「そうだな」
血臭漂う屍骸の山へ、惜しそうな目を向けるが、数も凄いし、担架が無くてはどうしようもないので、後ろへ置いてゆく。
まだ真昼間で、午前中に次第に雲が去っていったので、荒野は明るく照っていた。
--
その後、街道へ戻り、無事に小川まで引き揚げてきた。
ここなら比較的安全だ。
やっと一息つける。
「どうする? もう、すぐに報告に行くか?」
「いや、ちょっと休ませてくれ」
「休むにしても、街の中の方が……」
「いや、ちょっとだけ休ませて、今だけ」
言葉通り、マサもぼくも少しだけ休ませてもらい、横になる。
體が辛くて、ぐぉぁああぁ……と、唸り声が喉の奥から絞り出された。
「これ」
とエコから酸っぱい葉を渡され、噛んでいると、ずぅううっと気持ちが良くなった。
少し回復したので、身を起し、マサも起き上がるのを待って、一緒に立ち上る。
「良いよ、もう行こう」
「荷物はどうする?」
「また戻って来ましょうよ」
「ええぇ……」
マサが厭そうだったが、同意だ。
「そうだね」
「犬の死体を回収するんでしょ?」
「うん。肩の骨だけでもね。悪いな、マサ」
「そうか、そうだな、うん」
少し悪い気がしたが、もったいなくて、とても捨てて行く気にならない。
明日また取りに行く事に決めて、今日のところは先ずは報告に行く。
--
「そんなわけで、遂にやりました」
「初退治ね、おめでとうございます」
「有難うございます」
報酬の銀貨440枚を受領した。
すぐに各人に88枚ずつ完全に分配して、巾着に仕舞い込む。
皆、少し難しい顔だ。
「どうしたの? あまり嬉しそうでないみたい」
「たくさん稼いだのは好いんですが、巾着がちょっと、もう溢盃で、下手すると破れそうなんです」
「それは大変ね、●●のお店でも行って、何か買ってきたら?」
「まだそういう贅沢はちょっと……」
「堅実なのは良いわね。じゃあ両替して来たら? 崩す時には両替手数料で損するといっても、貯蓄するならやっぱり金貨か宝石でしょ」
「そうですね。場所を教えてください」
「はい、じゃあ……」
両替商の場所は教えてもらったが、
「でも、やっぱり何だかもったいないな手数料」
「あたしたちがこんなに苦労して稼いだのを、右から左へ動かすだけで銀貨何枚も取られるんだもんね~」
エコもつまんなさそうな顔で口を尖らせる。
砂州から街中へ入って、教えられた店の方へ歩きかけていたが、足を止めて、
「やっぱり、袋にでも取り敢えず容れておいて、巾着への負担を掛けないようにしておこうよ」
と提案し、皆がうん、うん、そうしようと賛成するので、エコの籠から袋を出してもらい、路地に入って皆の身体で隠しながら、各自の巾着から銀貨200枚ずつ放出して袋へ仕舞った。
それでもまだ、各自の巾着には銅貨が100枚前後、銀貨も200枚以上ある。
銀貨千枚の袋はそれなりに重さがあるので、袋の中で転がして大体棒状に成形して、袋の余りを巻きつけてきっちりと棒型にすると、大きな布を取り出して上からくるくる巻いてしまい、それを力が一番あるぼくの腹の周りに、骨鎧を持ち上げておいて、落として失くさないようにしっかり縛り付けた。
その後、どうせまた小川に向かって街中を北上するので、その途中にある両替商の店の場所を確かめに行った。
「まさか、その気になれば両替商を利用できる御身分にもうなるとはね」
ちょっと感慨を覚えて呟くと、それを聞いたトヨが応えて
「そうかァ? オレはやっとだって思ってるゼ」
「ここに入れば、銀貨100枚も金貨たった一枚に変るのね」
「入らないんでしょ?」
エコにあらためて確認され、当然と言わんばかりに即頷く。




