カツト村に護衛依頼の完了を報告しに、ネフワア村へ街道を歩む
灌木編み込み製法で作ってある楯本体の方は無事だが、割られた板材が外側にぶら下がって邪魔っ気になった。
「ちっ」
つい舌打ちしつつ、棘棒で横薙ぎに外側から内側へ振り込み、それを鑿で受ける小鬼の膝を正面から板底で蹴った。
ガッ
ガッ
上と下で音が鳴るくらいの衝突が生じ、棘棒が撥ね返されたが、鑿も折れた。
そして大き目の小鬼の膝が傷んだ。
「ゴオ゛オ゛」
唸るような声は悲鳴なのか。
普通の小鬼はそんなに数は居なかったので、七、八匹も殺すと逃げた奴の気配もなく全滅していたようで、それらを片づけたマサも再びこのボスめいた奴に向かっていたから、この隙を逃すようなことはない。
マサがすぐさま横手から楯でぶつかりにいきながら石斧を足へ叩き込み、俺も逆側から挟み潰すように楯を押し付けながら、蹴りで傷めつけた膝へ更に棘棒を叩き込む。
あとはフットワークを利かすどころではなくなった変な小鬼が地面に膝をついたところを、上から二人で頭部をタコ撲りにして、叩き殺した。
棘が三本ともどれかの屍骸に突き刺さったまま脱け落ちて、既に只の棍棒と化した棘棒で、念の為に全部の小鬼の屍骸の頭部や顔面を粉砕してトドメを刺しておく。
道の傍へ開いた地面の穴は、ひょっとして、小鬼の巣穴だろうか?
今はちょっと何もしようがないが、とりあえずこの遭遇戦と合わせて、ネフワア村に報告しないと。
空気は愈々湿り気を帯びて、雨っぽくなってきているが、まだ辛うじて雨ではない。
しかしこの強風ではちょっと火は熾せない。
屍骸を寄せ集めただけで済ませるしかない。
「大丈夫か、マサ? 怪我は?」
「ない。有難う」
「無いなら良かった」
一旦皆で集まり、死骸の堆積から離れた所で話し合う。
「視界が利かないのに、無理に進んじゃ駄目だね」
「どうする? なんだかヤバい天気だし、ここらで野営する?」
「せめてもう少し先にしない?」
「うん、穢れの集まってる処では気が休まらない」
もう少し先へ。
歩き出す。
強風が、薄布をあげた顔へ砂塵を打ち付けて来るので、棘を植え直した棘棒を握った右腕を挙げて目を護る。
しかし、そろそろここら辺で良いかな、と思ってると、後方からバタバタ足音が聞こえた気がした。
「後ろっ!」
とりあえず警告を発しておいて、振り返ると、凄まじい速さで迫って来る大蜥蜴!
三匹!
「トカゲ! さん!」
警告を追加し、楯を構える。
俺の作った骨鎧で、三匹も相手に前衛を張れるか、やってみようじゃないか!
一人vs三匹はちょっと辛いがっ。
ぐっと腰を低く構え、楯の下縁を地面につけ、避弾経始のように少し後ろへ傾けて上縁を腹に当てたところで大蜥蜴が正面から突っ込んできたっ。
正面中央の一匹の突進に前傾姿勢をとって構えたところへ、傾いだ楯を一息に登って噛み付き、爪、爪の体重と勢いののった三段攻撃を仕掛けてきた大蜥蜴。
かなり強烈な当たりだったが、両足で踏ん張りを利かして、膝で衝撃を緩和して、左腕で食い止めておいて、右手で鋭利な串を抜いて喉元にぐっさり突き刺して抉り、一丁上がり。
勢いを受け止めるのだけはさすがに全身に堪えたが、骨と硬革で二重に護られた左腕は表面に傷跡こそ残ったが、別段何ともない。
しかしそこへ、楯の左右から大蜥蜴が突っ込んで来て、踏ん張ってる膝下へ三段攻撃をぶつけてくるっ!
装甲が膚を守ってくれたが、勢いは如何ともしがたく、がくんと膝をつく。
そのまま更に、腿と足首に前脚の爪を立てて掴んだ大蜥蜴!
奴らが、それぞれ噛み付いた左右の脛を全身で捻り回そうとしてきたッ!
「ゴオオッ!!」
衝撃と痛みと愕きに叫びを挙げた俺の周りに、バアァァッと舞い上がる砂塵!
その圧倒的な体重を掛けた左右同向回転のッ逃れられない圧倒的破壊空間はッまさに歯車的に砂嵐の渦巻く小宇宙!
急激に高まる圧力に、俺の、俺のォォォ股関節がァァァッ、破壊されるゥゥゥゥッ!!!
ふっ、と圧力が止んだ。
なんだ、なにがどうしたんだ……
そう思って左右を見ると、大蜥蜴にマサとトヨが齧りつくように飛びついて、喉元へぐっさりと串を突き立てて抉り回していた。
「タ、助かったっ、ぜ……ッ」
危うくデッサン用の人体模型みたいに捻じれた格好で両脚をバラバラにされるところだった。
冷や汗がドッと噴き出て来た。
卍みたいな恰好で横向きに倒れていた俺は、顔を濡らす汗へ、ヘッドギアの上から手の平を当てて、ドッドッドッと脈打つ心臓の拍動に耐えつつ、股や膝の関節が壊れてしまってないか、その周辺の筋や靭帯がおかしくなってないか、そっと姿勢を元に戻しながら確かめ、無事とみて徐に立ち上る。
「有難う、二人とも。助かったよ」
「オゥ、いいッてことよ」
「無事か?」
「うん、ぎりぎり間に合った。本当に、助かった」
ほとんど傷の無い三つの大蜥蜴の死体を見下ろす。
マサが、
「これ、持って行きたいなあ」
「重たいから、無理だなァ」
「一つ、一つだけでもさあ」
「一応、木の槍が二本まだあるから、担架をあと一つ作れなくもない」
「持って行きましょうよ」
「燻製にしてもらうと美味しいよね~♪」
「とりあえず、休もうよ、いや、もう本当、休ませて」
まだ周囲に大蜥蜴が遊弋しているかもしれないし、休ませてもらえるかどうか分からないけれど、とにかく休息を要する。
砂塵を巻き上げる強風が今や、ひゅうひゅうからぴゅうぴゅうに音が切り上がって鳴り出していて、遠雷の音はごろごろごろ……と止まないし、空模様が怖い。
大自然の真っ只中では、人なんて所詮はちっぽけなものだ。
荒野には、草むらや灌木の他に、点々と木も立っていて、落雷するにしても運が悪くなければそっちへ落ちるだろうが、それにしても基本的に遮る物は不充分で、こんな悪天候で街道に突っ立って居たくない。