カツト村に護衛依頼の完了を報告しに、ネフワア村へ
とりあえず、大蜥蜴のきれいな死体を目の前にしつつ、街道脇の小さな草蔭に身を寄せ合って腰を下ろし、休む。
ぼくはもう一度立ち上がり、大蜥蜴の三つの死体を引っ張り、風上のラクマカ側へ積み上げて、少しでも風除けになるようにした。
岩陰に入れれば良かったんだけど、無いから、岩の代わりにしたのだ。
マサが取り出した菰の端を受け取り、重ねた死体の下に挿み込んで、強風で飛ばされないようにした。
飛ばされなくても、風で破れるかもしれないが。
他の端には蓋をした背負い籠を結わえ付けて、籠を抱いて押さえ、菰を風防にした。
一枚では足りないので、トモエコトヨも菰を出して、結び付けて充分に大きくし、固定も足して吹き飛ばされないようにする。
そうしているうちに、遂に不意に強い雨が風に乗ってザアッと横殴りに叩きつけてきたが、菰のお蔭でいきなりびしょ濡れになるのだけは免れた。
しかし、こうなると、もう今日はここで野営するしかない。
「仕方ねえよ」
「お天気がこれじゃあね、仕方ないわ」
ミニ葭簀の予備も取り出して繋ぎ合わせ、天井にしてる菰に結び付けて補強した。
テントじゃなくてタープ状態だから、風向きがちょっと変わると濡れる場所が出て来るし、とても火は熾せないが、このまま野営するしかない。
ぼくたちは畳んで腰の後ろにまとめていたマントを拡げて身を包み、頭にもフード状に被せた。
これ以上の襲撃がないことを願いつつ、男子が交代で一人ずつ見張りに立つことにして、できるだけ身体を休める。
かなりの風雨だったが、鎧で全身包んでるので、全然寒くない。
鎧の中はいつも暖かく、激しく身体を動かした後は暑くて脱ぎたくなる。
菰天井を掛けて、マントに身を包んでいると、良い感じで眠れる。
「おい、見張り交代だ」
と起こされて見張りの為に冷たい風雨の吹き荒ぶ中へ突っ立っても、マントで包んでる肩から下は寒くない。
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未明まで風雨は強かったが、夜明け頃までには勢いは収まり、穏やかな小雨に変った。
濡れた燻製肉を噛み裂きながら用を足し、濡れそぼった菰類を片づけてついた手の汚れは鎧の外装へなすりつけて落とす。
大蜥蜴の死体のうち、一つを新たな担架に乗っけた。
犬肉の燻製を皆の背負い籠に分散して運ぶことにして、もう一つの担架で二つ目の大蜥蜴の死体も運ぶ。
重さが重さだから、大蜥蜴二つはぼくとマサがそれぞれ担架でひきずることにした。
一応担架には二つとも石の下駄は履かせてある。
雨と肉で重くなった背負い籠を拾い上げて、大蜥蜴の死体を一つ後に残して、皆歩き出す。
担架も、この悪天候で泥濘んだ街道では抵抗が増すから、マサもぼくも足取りがかなりのろい。
こののろさは、あれだ。
まさにエリアノーラ様を護衛した時のペースだ。
その後も、しとしとと小雨が降り続く台地上をのろのろと進み、30分に一度小休止を入れるペースを保つ。
次第に丘の上から緩い下り傾斜になり、やがて葦原の茂る低地に差し掛かる。
高い土手の上の街道へ差し掛かった時に、濡れそぼった野犬どもが五、六匹襲って来た。
担架を地面に置いて、籠を下ろして、楯を後ろへ廻しながらマサと一緒に立ち向かう。
籠も下ろさぬまま、トヨが先んじて前で戦っていたので、
「代わるっ!」
「ああッ」
と短い遣り取りで前衛を交代し、左右からトヨの横っちょの犬ころを蹴散らして、トヨを下がらせる。
既にトヨも二匹殺していたし、あと二、三匹だったので、マサと忽ちのうちに片づけた。
散らばる屍骸を見廻しながら、
「しかし、折角の皮と骨が目の前にあるのに、もったいないなあ」
「仕方ない、疲れてるのに、これ以上やってられないよ」
昨日から結構な頻度で戦い続けてるし、重い担架を引きずってるのだ。
担架を握る手も痛み、これ以上の酷使はもう、ちょっと耐え難い。
「こンなとこでグズグズしてたら蛇が集まって来るぜ、行こう」
「うん……」
残念だが、屍骸は放置。
先ずはさっさとネフワア村の宿でこの大荷物を片づけてしまいたい……。
大蛇がぐねつく葦原と、その先の『鐵路』を土手の上から見渡しながら越えてゆく。
大荷物だったが、川の渡し場では一度に渡し船に載せて渡ってしまい、向こう岸で低い土手道に担架の跡を刻みながら、村までのアプローチを辿る。
緩やかな大曲がりで丘を廻る。
緩やかな斜面を真っ直ぐに上る道の手前で、両側から高い樹々が光を遮り薄暗くしている谷戸へと入って行く。
やっと薄黒い低い雲の密度が下がり、上空で縞模様を成す白雲の間の青空が透けて見えるようになった。
その白雲が早い夕陽に照らされてバラ色に輝く段々を成しているのを見上げながら、狭く曲がる『七曲り』を登り、二重関門で検認され、村へ入った。




