呪歌使い戦記番外編第一話
以下、とある男の手記より抜粋。
年号部分は黒いインクで塗りつぶされており、判別不能である。
〇〇年、春
今日、とうとう僕にも弟子が出来た。
あの港町にいた男の子、名前は先生からいただいてプイス。先生のように、鯨の国の古い英雄のように、賢い子に育ってほしい。
どうか彼の歩む道に、幸多からんことを。
〇〇年、夏
プイスの覚えの良さには目を見張るものがある。一度しか説明していない薬の処方が全て頭に入っている。僕なんて未だに処方のメモがないと薬を作ることが出来ないのに。
師として恥ずかしい限り、僕も精進しないと。
〇〇年、冬
今日はプイスの誕生日。我が家に来て二回目の誕生日だ。
九歳になったプイスは乳鉢で薬草を砕くのに夢中になっている。黙々と作業をするのが好きらしい。
日々の仕事で彼が好みそうなものはないだろうか。
〇〇年、春
プイスが我が家に来て五年。ずいぶんと背が伸びた。
台所のかまどを使うための踏み台はもういらないだろう。この子は僕の背丈を越えるくらい大きく育ってくれるだろうか。
〇〇年、秋
先生の書架にあった研究書の全てが明らかになった。
鯨の国の古い言葉で記された呪歌、何やら願いを叶える力を持つらしいが、今のところ叶えたい願いはない。
思いつく願いと言えば、プイスの未来が明るいものであるように。ただそれだけだ。
〇〇年、晩秋
獅子王からの使者が来た。竜の国との戦争が始まったらしい。
戦争など、この家がある草原はいたって平和なのに。戦場ではたくさんの兵が犠牲になっていると聞く。いつの間に。
共に使者の話を聞いたプイスは戸惑っている。仮に戦場に出ることになったとして、プイスは連れていけない。どうしたものか。
〇〇年、冬
王城への召集の手紙が来た。プイスは戦場について来たがっている。彼はまだ十六歳、戦場に立つには若すぎる。
それでも決意は固い。この頑固さは誰に似たと言うのだろう。
戦場を越えた。
プイスは帰ってこられなかった。
何が誉れ高き戦士だ。弟子一人守れない僕が、誉れ高いなど。
〇〇年、春。
胸の内の穴を埋める方法が見つかったかもしれない。
あの呪歌なら、僕の願いが叶うかもしれない。
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