国王代理王都使長
陰謀渦めく王都は果たして、どうなるのか…
その日はやけに全てが早く、立て込んでいるのだった。
リーゼは王の隣に立ったまま、口を開いた。
「王都使長から面会の打診が来ていますが、どうしますか?」
それはもうすぐお昼になろうとしている時だった。朝から面会が立て込んでいた王は一瞬悩んだ後、頷いた。最近、怪しさ動きをしているようでもあったので早い内に会うべきだと考えた。
「会おう。どのような事を企んでいるか、この目で確かめる必要がある」
「分かりました。最初から承諾していました。このような事になると思っていたので」
王はリーゼの手回しに関心したように、再度頷いた。ここで理解している者は、第二騎士団でも珍しい方だった。
「後は吉と出るか、凶と出るかだな…」
「はい、そうです」
と、リーゼも不安そうな声で頷いた。
「だが、これは会うまでは全て分からない。変な模索は止めようか。判断を狂わせそうだ。それより、他の連絡もしれくれーー」
と、王は気を紛らせる事にした。
が、その時感じていた気持ちは中々拭えないのだった。何やら得体の知れない不安が襲うのだった。そして、こう言う時ほど合っていると、王はこれまでの経験からよく知っていた。が、何かをしたいとしても今更何か出来る訳でもなかった。後は、王らしく振る舞う事ぐらいだった。
「今日はお会いする機会をくださり、ありがとうございます」
と、現れた王都使長はまず頭を下げた。
こう言う事はよく理解しているのだった。王は自分の予感が間違っていたようで、ほっとした。リーゼを見ると、リーゼも安心したような顔をしていた。
「わざわざ足を運んで頂き、嬉しいです。王都使長様。ーーで、今日はどのような御用ですかね? 余り王都には見るものがないかもしれませんが…」
と、王は正面から切り込む事にした。
どの道遠回しで言ったとしても、やっている事は同じだからだった。王都使長は動じる事なく、軽く笑みを浮かべた。それは不気味さはなく、彼が作り慣れている笑顔のようだった。作り慣れていると言う点で、王は嫌な気分を感じた。
「そうですな…最近は新たな宮廷魔法師を任命したと風の噂で伺いました。誠におめでとうございます」
王は最初から宮廷魔法師の話題を出されるとは思わなかった。が、何とかその焦りを抑えた。リーゼも少し動揺を見せていた。
「…お褒めの言葉とはありがたいです、王都使長様。彼が何か?」
王都使長は椅子の手すりで指を鳴らした。
「いや、何でもないです。ただ、少し耳に挟んだのです。その人物が、魔物と同じ力を身に付けていると耳にしたものですから、驚きました。もし、それが本当なら彼は我々の禁忌に触れています。良くて追放、悪くて死刑ですかね…だれも人類共通の敵である、魔物と手を結んでいる者など信用出来ませんので」
「ーーそれは脅し、ですか?」
と、王は目を光らせた。
どのような理由であれ、自国民をそのように見られる訳にはいかなかった。レイはまだ子供だった。このような世界を知る必要はないのだった。それにレイがそのような力を使っているようにも見えなかった。彼は野望もない、ただの魔法好きの少年でしか過ぎないのだった。が、その力が何であるか王は言えなかった。彼が使うと思われる、無詠唱魔法は現代の魔法よりも分からない謎が多かった。
だが、ここで彼を何としてでも潰したくなかった。王は彼を初めて聞いた時から、未来を引っ張る貴重な人材であると見抜いていた。こんな事になるのなら、何としてでも彼をもっと手元に置いておくべきなのだった。が、それも全て遅かったと王は気付いた。
王都使長は今度こそ、不気味な笑みを浮かべた。それが彼の化けの皮が剥がれた瞬間だった。
「いや、そんな事はないです。どうぞ、お気になさらず」
「王都使長様は、彼を侮辱するのですか?」
と、ついにリーゼが口を開いた。
リーゼにすればレイは弟のような存在だった。ジークさえ大切にする、存在。それはリーゼも守りたくなる人物だった。
「おっと、口には気を付けてください。貴方がたまで、異端者扱いする気にはなりませんので」
と、王都使長は口元に手を当てた。
リーゼは怒りを抑えて、後ろに下がった。
代わりに王が聞いた。
「…王都使長様は何を望んでいるのですか?」
「それはこの国の代理となれる、権限です」
と、王都使長はきっぱりと答えた。
「な、何だと。そんなものはないぞ」
と王は叫んだ。
が、王都使長は何も気にしていない顔をした。
「国王様はよろしいのですか? 下手をすればこの国全体が、反乱を起こしてしまうかもしれないですが…」
王は素早く宮廷魔法師と、王国の運命とを天秤に掛けた。そして、口を開いた。
「分かった。王都使長様を王国代理に任命する」
「はっ、ありがたき幸せ」
と、王都使長は待っていたと言うばかりに盛大に頭を下げた。
リーゼは驚いたように、王は見た。
王は何も言わずにただ国王代理王都使長を眺めた。
そして、彼に祈った。
済まなかった。守れなかった。だが、どうかこれからも生き続けてくれ。
それだけしか言う事が出来ない。どうか幾らでも恨んでくれ。それしか出来ないから。




