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夢は誰もが持てるもの

誤字報告ありがとうございます。更新しました。


丁度よい文字数まで書こうと思っていたら、時間も掛かり過ぎて文字数も大変な事になりました。

次からは、気を付けたいです。

一応、書きたい所まで書けました。

「あぁ…精々騙されと思っていてくれ。僕としても、最後ぐらいは最高な夢を見せたい。これまでその気分を味わう事が出来なかったのだから」

 と、僕は笑みを浮かべた。


 彼らが僕を恐れて、一歩後退るのが見えた。一人はあの噂は本当だったのか、と零していた。ここまであの話が広がっているとは知らなかった。少しあの時は血の気が多かったかもしれないが、特に後悔もしていなかった。

 だが、ザックは怯む様子がなかった。もうその目には決意がはっきりと映っていた。


「ーーなら、両手を伸ばしてくれ」


 ザックは軽く頷いてから、両手を前に伸ばしてくれた。周りが騒いでいたが、僕はそれを無視した。そして、あの少女にしたようにザックの手を握ってから、体内の魔力回路を正常の形に治して行った。進めるのと治療を同時に瞬時に行うので、僕に取っては長く感じても、実際は数分しか経っていなかった。


 僕は閉じていた目を開けて、ザックに語り掛けた。

「どう? 何かを感じる?」


「何か分からないものが、体の中で動いている。そして、温かい。これが魔力なのかっ…」

 と、ザックは今にも感動で泣き出しそうな顔をしていた。


 彼は少女の時よりも長い間、その劣等感に押し潰されていた。だから、その分感動する量も多いのだった。僕は頷いてから、笑顔を作った。


「それは本来、ザックが使えるはずだったものだったのだ。ただ体内を巡る魔力の一部が、正常に動いていないだけだった。それをこれまで誰も知ろうとしなかっただけ。頑張ったね、ザック。これでもう魔法が使えるようになるよ」




「ーー俺にもお願い」

「お願いします」

「どうかっ」

 と、見ていた他の生徒も口々に言い出した。


 彼らからすれば、これまでの悪夢が終わる訳だった。それは彼らが求めていた一番の希望でもあった。


 僕は困ったような顔をザックにした。何かを察したザックは不審そうな顔をした。

「何だ? いや、待て。何も手伝えないよ」


「いやいや、それは困るよ。ザック。僕がしたように他の生徒にもしてあげてよ。その分、魔法が使えるようになる人が増えるけど?」

 と、僕はザックの横腹を突いた。


 ザックは驚きながらも、意外と痛い所に入ったようで痛そうな顔をしていた。

「うふっ……わ、分かったよ。でも、出来るかどうかは分からないぞ」


「それは大丈夫。魔力が感じられた人は誰でも出来るから。流石に僕だけではすぐに出来ないから。その分、魔法玉を一人一つあげる。どう、いいだろう?」

 と、僕はジークのような悪戯顔を作った。


 ザックはやられたような顔をしていた。

「本当だな、レイ。魔法玉は確実に魔法が使えるようになるものだと、凄く有名なのだぞ。本当に手に入れられるのか?」



「うん。だって、僕が作ったから。第三騎士団が製作した、と有名ではない?」

 と、僕は掌に即席で新たな魔法玉を人数分作った。


 彼らはその造られていく、工程に見入っていた。これは効果が抜群のようだった。アレスとジークには故郷のお菓子で、ザック達には魔法玉。本当に欲がない人々だった。


 ザックは驚きを通り過ぎ、呆れたような顔をしていた。これはやり過ぎたな、と僕は理解した。

「そうだったな…第三騎士団長。そこの情報をすっかり忘れていたよ」


「よし、分かった、手伝うよ。魔法玉は絶対にいるから」

 と、ザックは覚悟を決めてくれた。


 本当はどの道、あげようと思っていたけどそれを言えそうではなかった。そして、それを言うべきではないと僕はよく分かっていた。丁度、ザックが魔力の操作方法を知る機会ともなる。それで、魔剣を扱うのが上手になると言う利点もあった。だから、僕は一人でその思いを止める事にした。



 僕は他の魔法が使えない学生も、魔法が使えるような状態にして行った。最初にザックは苦戦していたが、段々コツが掴めていけたようでスピードも上がって行った。これは行う側もされる側にも、リラックス効果があるではまれば結構楽しくなる。そして、調整するごとによりよい魔力の状態に維持出来ると、言う一石二鳥でもあった。


 最初は緊張で覆われていた僕らの空間も、次第に穏やかな雰囲気に変わった。彼らは劣等生から優等生へと変わる事に恐れながらも、冒険する事の大切をまだ恐れていないようだった。これで今後、王立魔法学園の現状が少しでも改善すればいいな、と思った。後は普通に授業に出れるように、一定量以上の実力を身に付けされる事。それを魔法玉で行おうとしていた。今の学生が使っている魔法よりも、魔法玉にあるものの方が実戦的で無駄は少ないと思った。


 元劣等生は実戦的な魔法で、魔剣を活用しながら戦う。そして、今の学生は以前から持っている魔法をより磨きながら、魔剣も使用する。二つは違う入り方をしているが、より使える方が使えるようになると思った。


 魔法玉が広がったと言う事は、ダンジョンに行く。つまり魔物と戦うものが増えると言う事だった。なので、実際に潜る人は死なない方を選ぶ。そのため、いかに死ななくて済む技術が活用されるようになるのだった。彼らは一層死を身近に感じるようになるのだった。


 僕は全員に魔力が使えるようにすると、魔法玉をザックに手渡した。一人一人適当に渡すより、リーダーとなる人が手渡した方が面白いと思っていた。


 ザックは嬉しそうに受け取っていた。

「ありがとう」

 と、仲間達で集まっていた。


 そして、皆で話し合いながら誰に渡すかを考え合っていた。




 横目で彼らが魔法玉を使用しているのを見ていると、僕はすっかりアレス達の方を見ていない事に気付いた。横を見ると、彼らは上手に魔剣を生み出せているようだった。剣に魔力を何としてでも通していた。何故なら、アレスが隙を見て突進してくるから。


 やばいな、としかいえなかった。僕以上のスパルタ教育を行い、無理矢理身に付けされていた。誰も死なないようにと言う観点からは正しいが、逆に今死んでしまわないか気になった。が、白の剣を取り出さない点からまだ優しいのだと分かった。アレスは、僕が怪我を治せると知っているので多少の怪我は目を瞑っていた。いや、痛みを覚えさせてそれが嫌なら、しっかりしろと言っていた。


 そこまで言われたら誰もが、覚悟を決めて魔剣に勤しんでいた。やっぱり、恐怖は大切なのだろう。でも、アレスの評判が落ちるのもどうだろうかと思った。僕の血の多さが影響していれば、彼に申し訳ない。ダンジョンでよく豹変する彼は、どれが素の状態なのかも僕には分からなかった。


「おーい、アレス。どうだ?」

 と、僕は頃合いを見て、アレスに聞いた。


 叩かれまくっていた彼らは僕が止めに入った事で、目に生気が一気に戻っていた。


 アレスは瞬間移動をしたように、跳んで来た。僕はそれで彼が魔力を体を巡らせる身体強化を自力で得たのだ、と分かった。

「順調だよ、レイ。誰もが必死に頑張っている。ダンジョンでの経験も言えば、更に励んでくれたよ。早く、ダンジョンでの授業が始まらないか楽しみだよ」


 僕は一瞬、立ち止まった。生徒をそこまでさせるとは、アレスは果たして何を教えたのだろうか。僕の変な事を語っていないか、心から心配になった。


「うん? 大丈夫だよ、レイ。普通の事しか言っていなから」

 と、僕の心配を汲み取ったアレスが言葉を挟んでくれた。


 僕は軽く頷いてから、口を開いた。

「そうか。こちらも結構順調になっているかな。彼らも後で魔剣を扱えるようにしてくれる?」


「了解です」

 と、アレスは敬礼でもしそうな雰囲気を出していた。


 すっかり競技場も軍の施設と思わせるほどのオーラを出していた。これは仕方ない。ダンジョンや死の事があると、誰もこのようになってしまう。


 僕はまだ疲れが取れている様子ではないアレスに魔剣を教わっていた生徒を見た。そして、すぐに使えるものがある事に気が付いた。最近は眠っていたが、収納魔法の中は時間が経過していないので大丈夫だった。

 ダンジョンにいつか行かせる事も考えると、僕は収納魔法から大量の小級ポーションを取り出した。競技場の床にポーションの山が出来ていた。


「アレス。これを一人一本渡すのはどう? 丁度、疲れているのを癒せると思う」


「いいね」

 と、アレスは彼らを見渡してから、叫んだ。


「ダンジョンの小級ポーションを頂く事が出来た。一人一本だ。ありがたく思って、使え」

 

 アレスは凄く怖い顔で、ばりばりの軍隊のような言葉を使っていた。あー怖い怖いと僕は思いながら、見ていた。

 すると、疲れていたような生徒達がいきなり直立して、綺麗に一列で並んだ。アレスは彼がきびきび動く事も訓練させているようだった。


 最初に小級ポーションを手に入れた生徒が、ポーションの蓋を開けて一気飲みしていた。体に沁みる、その疲れを癒す液体に嬉しそうな顔をしていた。

「あー気持ちい。天国だ。もうばりばり動けるほど、復活する」

 と、怠そうにしていた体勢も、すぐに元に戻った。




 僕はそれを温かい目で見ながら、今度はザック達に目を向けた。終わったような彼らはアレスと彼らの様子に、完全に引いていた。王立魔法学園にそんな人などいないと思っているようだった。先生方は彼らを差別はしていたが、決して命令をしたりはしなかった。だから、違う世界が広がっている事にドン引きしていた。


 何かを言いたげな顔をザックがしていたので、僕は彼の隣に近付いた。


 彼は小さな声で言って来た。

「なぁ、レイ。あれを教わる必要はあるのか?」

 と、アレスによる魔剣訓練についてだった。


 見ていて流石に、嫌になったようだった。


 僕は頷いて、彼の背中を叩いた。

「ドンマイ。ダンジョンで死にたくなければ、学んでいた方がいいよ。それ以外の場面でも自衛する力を身に付けれるようになる訳だから」


 魔剣が扱えるようになれば、どこにでもある棒や枝でも武器に出来る。そして、更に上達すれば先程のアレスのように。僕が魔力の盾を作るように、魔力の操作が出来ればすぐに沢山の事が出来るようになる。それは無詠唱魔法とは違うが、使うものによっては威力が同じほどまでになるのだった。


「そうか…でも、怖そうじゃないか?」


「大丈夫、大丈夫。彼らが今使っていた小級ポーションを、ザック達にもあげるから」

 と、僕は人数分の小級ポーションを取り出して、ザックに渡した。


「あーありがとう」

 と、彼は明らかに元気そうではない、笑顔を作っていた。


 これに関しては、僕はどうしようも出来なかった。精々死なないように祈るだけ。先程の生徒達が死んでいない事を見ると、大丈夫そうだった。これまで魔法発動中に誰かが死ぬのは珍しい話だった。勉強では死ぬ事がない、と言うように。





 そこまで元気そうなザック達だったが、アレスから魔剣を教わるとその様子も変わって行った。


 僕は競技場を見渡した。誰もが床に転がっていた。誰も死んでいる人はなかった。が、訓練で疲れている様子だった。アレスの訓練がどれほどだったかを物語っていた。耳を澄ませば、呻き声が聞こえて来るほどだった。


 隣に平気そうな顔で立っているアレスを見た。彼はただ興味なさそうに、その景色を眺めていた。そして、僕が見ている事に気が付くと、目を合わせて来た。

「まだまだだね、レイ。これはまだまだだよ。もっと出来ると思っていたのに」

 と、不満そうだった。


 僕はすぐに答える前に、球技場の端にいる護衛騎士のレイリーと、第三騎士団の看板猫の黒猫を探した。レイリーは、何とも言えないような顔で辺りを見つめていた。難しい訓練を這い上がって来たレイリーでさえ、唖然とする光景のようだった。黒猫はただ欠伸をしていた。本当に極楽だった。


「そうとも言えるかもしれないほど、今日はこれぐらいでいいよ。彼らも疲れているから、休憩は必要だよ。ダンジョンでも休憩を挟んでいたでしょ?」


「そうか、なら、そうするよ。レイ」

 と、アレスは満面の笑みを見せた。




 僕は辺りから沢山の安堵の声が聞こえたのを、見逃さなかった。これで彼らはダンジョンで死なない力を身に付けたが、やっぱりやり過ぎたかもしれない。誰も彼を嫌いにはなって欲しくない。

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