騎士団長と学園長
「今日はウィズアード様に魔法を教えて欲しいのです」
と、学園長が口を開いた。
僕は一瞬、ぽかんとした。僕自身がここで言う魔法が使えず成績が悪かった事は、学園長が一番理解しているはずだった。
「僕は一番魔法が使えていませんでしたが…」
学園長はいきなり立ち上がった。
「いや、そう言う訳ではないです。ウィズアード様はこれまでない事を沢山行なって来ました。この王立魔法学園の学生が、魔物と戦える生徒を輩出するためにもどうかお願いします」
と、丁寧に頭を下げて来た。
僕は軽くレイリーを見た。するとレイリーが一歩、学園長に近付いた。
「他の人物もいると思いますが、何故騎士団長を起用したいのですか?」
「…それは魔法を専門とする第三騎士団を率いるお方で、宮廷魔法師であるからです。近年減少している魔法師の現状からもどうか、お力を貸していただきたいのです」
学園長が僕を見て来た。僕は学園長と目を合わせた。その目に偽りはないようだった。彼が何を企もうと正直言って、どうでもなかった。ただ学生の事を思う、その思いがまだあるのならよかった。
「僕が学園長の力になれるかは、分かりません。ですが、出来る事だけは行います。しかし、毎回来れるとは思いません」
「それでもいいです。全てはウィズアード様のご都合にお任せします。他に何かありますか?」
「そうですね…まず、最初の授業は新入生だけに限定します。そして、魔法が使えない生徒も参加させてください」
学園長は苦いものを噛んだ顔をした後、渋々頷いた。そこで頷かなければ僕がどの道、権力で通すと思ったからだった。
「ーー分かりました」
「それではよろしくお願いします」
と、僕は手を差し出した。
「はい。どうぞ、これからもお力をお借り出来れば嬉しいです」
と、学園長も手を差し出して来た。
僕はレイリーを見ると、すぐに学園長室を出て行った。果たしてこの結果がどうなるかは、やってみないと分からない。
魔法科に顔を出すと、コセール先生が僕と目を合わせた。他にも先生方が、手を止めてこちらを見ていた。よく目立っていたのだった。
「レイか。もう去ったと思ったのだが、何か忘れ物でもしたのか?」
と、少し嫌なものを見た顔をしていた。
僕はそれで学園長がそこまで情報を広く伝えている訳ではない、と理解した。
隣のレイリーが真剣な顔で、剣を抜きそうになってたので僕はすぐに止めさせた。
「止めろ、レイリー。何をそんなに焦っている」
いや、ですが、とレイリーは僕の指示に嬉しくないようだった。いつの間にか信者とも言える人が増えていた。護衛は護衛する人を思うのが大切だが、それで周りが見えなくなるのはよくなかった。
僕がコセール先生の方を見ると、手に持っていた書類を落としそうだった。
「ーー宮廷魔法師。お前が宮廷魔法師なのか…」
と、口から泡を吹いて死にそうな顔をしていた。
再度、レイリーがまた何かを行うとしていたので、僕は目線で止めさせた。こう言う人はいるのだと、レイリーには理解してもらいたい。後は授業をする時に考えものだ。
「そうです。新たな先生役として学園長から頼まれました。レインフォード・ウィズアードです。まだ名前を余り覚えてないので、レイのままでいいです」
と、軽く頭を下げた。
「……そうか。で、レイは何かいるのか?」
と、コセール先生が恐る恐る聞いて来た。
僕は顎に手を当てながら、聞いた。
「そうですね。先生用の制服はどこにありますか?」
自分が派手な白いローブを着ていたのに、今更気付いた。なので、目立ちにくい先生の黒いローブを手に入れようと考えていた。流石のレイリーのは、変えようがなかった。彼に鎧を脱いでもらうのは、気が引けた。
「いいのですか?」
と、レイリーが心配そうに僕を見て来た。
僕は普通の顔で頷いた。
「うん。だって、先生になるのだよ。なら、それ以外のものは少し邪魔じゃない?」
「え? 邪魔ですか? それは象徴ともなるものですよ」
と、レイリーが真顔で返して来た。
「でも、団員も最初は結構勘違いしていたから、余り役には立たないよ」
「それは、まさか団長が少年であると誰も思わないからです」
「あーそうか。でも、それは仕方ないかな。最初からそう言うものだと理解して欲しい」
レイリーが頭に手を当てた。
「…常識を失いそうです」
「そう? なら、僕が新たな常識を作るよ」
レイリーが僕に飛び掛かって来た。
「いや、普通の人はそんな事も出・来・ま・せ・ん」
と、最後は怒り顔だった。
「あの、これをどうぞ…」
と、僕らを見ていた先生の一人が黒いローブを手渡してくれた。
僕はそれを笑顔で受け取った。やっぱり、白色より黒色が自分に似合うと思っていたのだった。
実際に着替えてみると、それはやっぱり予想通りだった。
後は二人がどのような顔をするか、非常に興味が湧いた。




